3.0
醜いものを醜く
就活に失敗した、いたってノーマルな(まあ結果的にはノーマルじゃなかった、という話なんだろうけど)青年が、裏社会と繋がりのある会社に入社したことで、徐々に悪の道に手を染めていく、みたいな話。
話の進みはテンポよく、それなりに楽しくは読んだ。
しかし、根本のところで、私は説得力もリアリティーも感じられなかった。
ひとつは、主人公の変貌について。
本作は、「普通の人間が裏社会の闇に触れて堕ちていく」という文脈で主人公の変化を描いているのではなくて、「主人公にはもともとそういう資質があった」という描き方をしている。
それは「転落」というより「覚醒」に近い。
それ自体は別にいいのだが、こいつにその「資質」がある、ということを、私はどうしても信じられなかった。
「普通の人間」が根元的なレベルの価値観を変動させてゆく様を描くのは、とても難しい。
だからこそ、そこがこういう作品の勝負どころだと思うのだが、「いや、こいつもともと悪の素質あってん」というのは、都合のいい逃げのように見えてしまった。
また、裏社会のディテールについても、何かと浅い気がして仕方がなかった。
もちろん、私を含めた読者の多くは、裏社会のことなんか実際には知らない。
漫画だから脚色も必要だろう。
しかし、少なくとも「こういうこと実際にあるんだろうな、知らんけど」と思わせるだけのリアリティーは欲しいし、それが満たされているとは思えなかった。
個人的には、一番決定的に入り込めなかったのは、「醜いものをちゃんと醜く描いていない」と感じたことだった。
これは単なるの印象の問題だし、上手く言えない。
ただ、作品の中で醜いものをちゃんと描くというのは、結構勇気の要ることだと私は思っていて、本作はそこから逃げているように感じた次第である。
まあそのぶん、エネルギーを使わずに気楽に読める、というのはある。
それをこの種の作品の美点として数えられるかは、何とも言えないのだけれど。
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半グレ―六本木 摩天楼のレクイエム―