rokaさんの投稿一覧

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11 - 20件目/全509件
  1. 評価:4.000 4.0

    40秒で支度しな!

    先に言っておくが、このレビューの中で「こういう人間」という言い方を何度か使うし、その説明を私はしない。
    人格に病名みたいなものをつけて安易にカテゴリ化するのが私は嫌いだし、かといって、「こういう人間」を的確に説明するのは難しすぎる。
    その難しすぎることを、この漫画はとても誠実に精密にやっている。
    しかも、きちんと楽しめる漫画作品としてのフォーマットに落とし込んだ上で、だ。
    それが、とにかく凄い。
    そういうわけで、どんな人間なのかは作品を読んでみてほしい。
    一読の価値はある。

    私は「こういう人間」がほとんど誰よりも嫌いだ。
    「ほとんど」と書いたのは、もっと嫌いな人間がいるからだ。
    それは、「こういう人間」に盲目的に追従する人間たちである。
    本作に即して言えば、ルミン本人よりも、その信奉者たちの方がよりタチが悪いし、気味が悪いし、言いようのない嫌悪感を私は覚える。
    邪悪な神は恐ろしいが、もっと恐ろしいのは、その狂信者たちである。

    狂信者たちは、たとえこの漫画を読んだところで、「あれ?私が信じているのはもしかして…」とすら疑わない。
    それが狂信者というものなのだ。
    私たちが講じることの出来る唯一の策は、「こういう人間」およびその狂信者たちと関わらずに生きてゆくことだけである。
    可及的速やかに逃げるがいい。
    そういうわけで、40秒で支度しな!

    • 17
  2. 評価:4.000 4.0

    テンプレに染まらない

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    作品として、とてもよくまとまっていると思った。
    不倫モノだが、昨今よくある有象無象のドロドロめちゃくちゃ何でもあり復讐劇みたいな漫画とは全く違う。

    まず、夫(および不倫相手)を極端な「悪者」として描いていない点がポイント高い。
    よくある不倫モノの漫画は、大体、夫(とその不倫相手)が常軌を逸した悪い奴、嫌な奴、としてこれでもかと躍動する。
    それは、作中の復讐が正当に見えるようにという演出でもあるのだが、正直、「そんな奴いる?」とか、「何でそんなのと結婚したん?」とか、「いや、そんな人間を選んだのはお前だろ」とか、冷めてしまうことも多い。
    その点、本作はとてもバランスがよかったと思う。
    不倫は褒められた行為ではない。
    だが、それをやっているのは血も涙もないモンスターではなく、感情を持って社会生活を営んでいる人間だ。
    しかも多くの場合、あなたと(かつて)愛し合った人間なのだ。
    そのことを忘れていない作品としてのスタンスに、私は好感を持った。

    また、妻&夫の不倫相手のSNS上でのやり取りと、宅配の荷物の取り違え事件、この二つの要素が本作にパリッとしたオリジナリティーを与え、またサスペンス的なスリルも生んでいて、上手いな、と思った。
    ただ、宅配の件に関しては、結局何だったのかわからないままで終わるので、サスペンス的な文脈で言うと、ストレスが残る。
    しかし、考えてみれば、こういう種類の「ちょっと奇妙なこと」が日常で起きたとき、その真相というのは、「結局わかんなかったよね」で終わるのが普通ではなかろうか。
    そういう意味では、リアル志向の本作として相応しい終幕だったとも見える。

    掃いて捨てるほどある不倫モノ漫画のテンプレから綺麗にはみ出した、なかなかの良作。

    • 2
  3. 評価:4.000 4.0

    感情を殺しにきてやがる

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    先に断っておくが、「ネタバレあり」でレビューを書いているけれど、それでも、内容的なネタバレは避ける。
    まだ読んでいない人には絶対にどういう話なのか伏せておきたいし、既に読んだ人はストーリーに触れずとも私の言いたいことは伝わるだろうと思うからである。

    殺し屋として育てられた少女「ねずみ」の話。
    ひねくれたことを言って申し訳ないが、私はこの「少女の殺し屋」という設定がそもそも苦手で、「いや、そんなもんおらんやろ」とスタートから一歩引いてしまう人間である。
    そういう意味では、設定段階でハンデ戦(私のせいで)なのだが、それにしても、この漫画は結構凄いな、と思った。

    殺し屋の漫画だが、間違いなくこの作者は、読者の感情を殺しにきている。
    我ながら、これ、結構うまく本作の核心を言い得ていると思うので、私としては珍しく、短めのレビューで終える。

    繰り返す。
    この漫画は、読者の感情を殺しにきてやがる。
    覚悟して読むがいい。

    • 37
  4. 評価:5.000 5.0

    清少納言 in 現代社会

    結婚願望は強いが家事の苦手なキャリアウーマンと、恋愛とか結婚とかピンとこない絵本作家、二人の主人公のシェアライフをユーモラスに描いた作品。

    私はどちらかというと「何気ない日常を描く」みたいな漫画が苦手で、そんなもの見せられて何が面白れえんだよ、とか感じてしまうタイプの人間なのだが、ここまでハイレベルな作品の前では、そんな些細な趣味は消し飛ぶ。
    楽しすぎてヤバい。
    作中の料理も美味しそうすぎてヤバい。

    別に命に関わるほどの悩みってわけでもないけど、何かモヤモヤするよね、という感じの曖昧な何か、それは、世間一般の価値観に対して覚える僅かなズレであったり、漠然とした人生の難しさ、生きづらさであったりするのだが、それをきちんと作品という形で、可愛く楽しく魅力的に、さらっと提示できてしまう技量と感性の鋭さには、本当に舌を巻く。

    私はこの作者を完全に天才だと思っていて、言語化しにくい人間の微妙な揺れみたいなものを感覚的にとらえて表現する、ということに関しては、別格だと感じる。
    平安時代に生まれていたら、清少納言みたいになってたんじゃないかな。
    ていうか多分、清少納言より凄いけどね。
    そんで、現代に生まれてくれてよかったけどね。

    • 8
  5. 評価:4.000 4.0

    不穏すぎるホームドラマ

    見る影もなく老いた父親、歩けなくなった母、そして、どう見ても異様な引きこもりの兄。
    そんな家族のもとに帰省した次男が主人公。

    じめじめした粘着質なトーンで、終始「きっといつかとんでもなく酷いことが起きる」という不穏さが途絶えない。
    マジで嫌な作品だが、このねばねばとした緊迫感は大したものだと思う。

    最初は引きこもりの兄のインパクトが強いが、家族は皆、それぞれに何かを抱えていて、読み進めるうちに、誰がまともなのかわからなくなってくる。
    このあたりは、正常と異常の境界線に揺さぶりをかける、あるいは、ステレオタイプの家族像という幻想を破壊する、そんな意図を感じる。
    その意味で本作は、穏やかで温かなホームドラマに対するアンチテーゼであり、悪意あるパロディでもある。
    その核心には、「普通」なんてねえんだよ、という一種の絶望感や諦念みたいなものを感じて、気が滅入る。
    普通に生きることの難しさ、というのは、現代のひとつのテーマであると思う。
    全く別の作品だが、「ヒル」という漫画でも同じことを感じた。

    あと、タイトルが凄い。
    「住みにごり」って、いかにもそれらしい言い回しだし、内容的にもズバッと決まっている感じだけど、いや、そんな日本語ねえから。
    凄いなこれ。

    • 17
  6. 評価:3.000 3.0

    可もなく不可もなく

    先に読んだこの作者の漫画の作風から、「怖い話」とは言っても、てっきりヒトコワ系というか、そういう路線だと勝手に思っていた。
    そしたら、完全に普通のオカルト路線で、いささか面食らった。
    それは私の勝手な先入観であって、オカルトも好きだし、別にいいのだが、オカルト漫画として何か特筆するところがあるかというと、特にない。
    ことさら非をあげつらうつもりもないが、賛辞を送るべき点もない。
    ホラー漫画って、そういう「可もなく不可もなく」みたいな地点からは、最も遠くあるべきだと私は思うのだけれど。

    • 5
  7. 評価:5.000 5.0

    あの頃の愛に報いを

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    ゲームが取り柄の主人公と、神がかったゲームスキルを持つお嬢様ヒロイン・大野の変則ラブコメ。

    「ストII」をはじめとする格ゲーが一世を風靡した90年代を少年として過ごした読者、特にかつてのゲーミングキッズであれば、刺さるとかいうレベルではなく、本作の時代描写だけでもう、懐かしさに卒倒しそうになるだろう。
    それは、押切蓮介が本作で描いた90年代という舞台が、単に正確であるからではなく、ゲームに対するほとんど病的なまでの愛情で塗り固められているからだ。

    何と言っても、主人公と大野の愛らしさが素晴らしい。
    特に大野は、作中ひとつも台詞らしい台詞がないにも関わらず、である。
    私は漫画を読んでいて、これほどヒロインを可愛いと思ったことが多分ない。
    このヒロインに出会うだけでも、本作を読む価値がある。

    あの頃。
    勉強もスポーツも出来ない、ルックスもパッとしない、トークスキルもない、そんな冴えない少年たちも、「ストⅡが強い」だけでヒーローになれた、あの頃。
    それは大袈裟ではなく、新たな時代の幕開けだったのだと思う。
    しかし、ゲームなんかをいくら愛しても、その愛に基本的に見返りはない。
    本来、見返りを求めないのが愛なのかもしれないが、まあ、それは置いといて、である。
    プロゲーマーもYouTubeでのゲーム配信も選択肢にある現代とは違って、あの頃はなおさらそうだった。
    ゲームなんか上手くなったって何にもならないのよ。
    その残酷な事実は、私たちが保護者から浴びせられた「ゲームばっかりやって」という批判の核心そのものだった。

    けれど、もしゲームに注いだ愛に、何かしら、報いがあるとすれば。
    本作は、ラブストーリーであり、ゲームの物語であり、そして、狂気じみた愛をゲームに注ぎ込んで少年時代を送った作者による、究極のファンタジーでもある。
    もしも、愛したゲームから愛されることが、あるとすれば。
    それを漫画だからこそ出来る形で提示して見せたラストに、私はもう、涙が止まらなかった。

    • 2
  8. 評価:4.000 4.0

    悪意がない故に

    読んでいて、どうにもならない苛立ちともどかしさに頭が痛くなった。
    そういう感情を喚起させるための作品だと思うから、成功している、と言ってよいと思う。

    いわゆる「毒親」問題を扱った作品だが、子どもに害悪を及ぼす親にも、色々ある(だから、「毒親」と一括りにカテゴリ化するのが私はあまり好きではない)。
    例えば、大きな方向性だけ見たって、明確な悪意を持って子どもを傷つけようとする親と、「子どものためを思って」結果的に悪をなす親、両者を同一に「毒親」問題として語ることは、問題の本質を見誤らせる気がする。

    本作で描かれているのは後者の方、「子どものためを思って」という親だが、考え方によっては、こっちの方がタチが悪いとも言える。
    過剰な暴力とか食事を与えないとか、そういった事象であれば法でもって抑止することは一応、出来る(それが難しいことは重々承知しているが)。
    しかし、「子どものためを思って」型の親が精神的に子どもを追いつめる行為に関しては、外部から抑制する術が多分、皆無に近い。

    しかも、
    「この子のためなのよ」
    「私が一番この子のことをわかってるのよ」
    「私が何とかしてあげなくちゃ」
    という強固な思い込みに裏づけられているぶん、周りからの声は極めて届きにくい。

    「悪いことをしてやろう」として悪をなす人間ばかりではない。
    残念ながら、善をなさんとして悪をなすのが人間だし、そのような人間の営みは、しばしば甚大な悲劇を引き起こす。
    ヒトラーだって自分では善のつもりだったんだろうし。

    難しい。
    解決法があるのか、私にはまるでわからない。
    ただ、子を持つ立場の人間は、読む意味のある漫画だと思った。
    それだけでもう、この種の作品の価値としては、十分かもしれない。

    • 4
  9. 評価:4.000 4.0

    消えた風景を

    爆笑するような種類の面白さではなく、懐かしさに心暖まる、という感じのエッセイ漫画。
    若い読者が読んでもいいが、描かれている時代(昭和)からすると、本来の対象年齢はかなり高い(ドンピシャなのは四十代後半くらいか)。
    イメージとしては「ちびまる子ちゃん」に通じるものがあるが、男性読者は、本作の方が共感ポイントは多いかもしれない。

    すごいな、と思うのは、風景の再現度だ。
    これには、二重の意味がある。

    ひとつは、昭和という時代の風景の再現。
    当たり前だが、昭和の風景というのは、今はもう、消えたものだ。
    家屋や町並みや生活用品という意味合いでの風景もそうだし、人間の姿という意味でもそうだ。
    それを、漫画作品のフォーマットの中に的確な精度で落とし込むのは、なかなか出来ることではない。

    もうひとつは、「あの頃の僕ら」という風景の再現度である。
    誰にでも子ども時代はあるし、誰にでも思い出はあるが、特別なイベントではなく、「あの頃」の普通の日々について語ることで、それを作品として成立させるなんてね、無理よ。
    それを可能にするには、普通の日々を普通ではない角度から見つめられる目がなければならない。
    それが遠い過去のものとなれば、単なる記憶力とは別の、子ども時代の記憶を自ら再構築する才覚がなければならない。

    長閑でノスタルジックなエッセイ漫画として、失われた風景を描出することに成功した良作だと思う。

    • 3
  10. 評価:5.000 5.0

    血塗れの自意識

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    読んでいて気分のいい漫画ではなかったし、人に薦めようとも思わない。
    しかし、これほど壮絶な作品には、ほとんど出会ったことがなかった。

    半自伝的な漫画なのだと思う。
    イメージとして(浅野いにおはこういう形容を気に入らないかもしれないが)、私は太宰治を想起した。
    ちなみに私は、太宰が嫌いである。

    書けない作家の苦悩、というモチーフだと、私は「バートン・フィンク」という映画が大好きなのだが、あれは、コーエン兄弟が作家としての自意識をかなりオブラートというか、創作の衣に包んで提示した作品なのだろうと思う。
    作家はそれで正しいのだと私は思うし、私のそういう趣味みたいなものは、太宰を嫌う理由と無関係ではないと思う。
    だが、本作で浅野いにおがやったことは、その百倍あからさまで、激烈である。
    それは、自意識を作家性の中で表現する、というレベルの行為ではなく、血だらけになりながら紙面に自意識を塗りたくるような営みであったように思う。

    浅野いにおは、この漫画を描きたくて描いたわけではない気がする。
    描くべきだと思ったわけでもない気がする。
    ただ、描くしかなくて、描いたのではないか、と。
    私は、そんなふうに思った。

    ラスト近く、サイン会のシーンで、主人公の漫画に救われたと涙ながらに語る熱心なファンに対して、「君は何にもわかってない」と主人公は言う。
    これほど絶望的で、これほど美しいシーンをほとんど知らない。

    私は何となく、浅野いにおはこういう描き方をしない(ないし出来ない)作家だと思っていた。
    きっと私も、「何にもわかってない」読者の一人なのだろう。
    ただ、浅野いにおが本作で試みたことが、勇気などという言葉では表現できない、命がけの行為であったということだけは、わかっているつもりだ。
    だから、もう、それだけで。
    浅野いにおの試みが、成功したのか、失敗したのか。
    それは作家としての飛翔だったのか、墜落だったのか。
    その是非も価値も、私はもう、問わない。

    • 1

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