rokaさんの投稿一覧

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1 - 10件目/全513件
  1. 評価:5.000 5.0

    差しのべられたその手を

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    本作は、軽度の知的障害を抱える21歳のキャバ嬢「みいちゃん」を中心に動いてゆく。
    彼女の作中における位置づけが、まず素晴らしい。
    本作は、知的障害というモチーフを、漫画として収まりのいい、無難な位置に落ち着けない。
    みいちゃんは「ちょっとズレていて周りを振り回すけど天真爛漫ないい子」でもなければ、「ハンデを抱えながらも懸命に生き抜こうとするヒロイン」でもない。
    作者の視線は恐ろしく正確で、冷徹だ。
    可愛らしく描かれてはいるが、みいちゃんの生き方の深刻な「救えなさ」は絶望的である。
    知的障害というだけで、ここまで搾取され、人生を損ないながら生きなければならないのか、と。

    その「答え」が、簡潔に、また明確に提示されている点にも、好感を持った。
    「出会う人間と、本人の決断次第」。
    実のところその本質は、障害を持たない人間のそれと変わらない。

    みいちゃんはどこで間違えたのか。
    どこで機会を見逃したのか。
    差しのべられた手をいかにして振り払ったのか。
    確かに不運はあった。
    周囲に酷い大人もいた。
    酷い子どももいた。
    彼らは確かにみいちゃんを追いつめ、あるいは無視し、あるいは考え得る限り最も薄汚い方法で利用した。
    それは残酷で卑劣で致命的な間違いだった。
    だが、みいちゃんもまた、間違えたのだ。

    そして、作品の構成として極めて重要なのは、みいちゃんは冒頭で既に死んでいる、という点だ。
    これによって、本作はいささかのサスペンス的な色合いを帯びつつ、作中のあらゆる場面が凄みを増している。
    作中で綴られる、みいちゃんの小・中学校時代は、「もしもこのとき…」という読者の感情を幾重にも喚起するように作られているが、冒頭の構成によって、それらが単なる「胸の痛む回想シーン」ではなく、「もしも…」がよぎる度にみいちゃんの死が脳裏にオーバーラップする、というギミックになっている。
    これはちょっと、凄すぎる。

    先に私は、作者の視線を「冷徹」だと書いた。
    しかし同時に、障害があるとかないとかを超えて、「個」としての人間に対する愛情というものがなければ、こういう作品は描けない。
    その意味で、山田さんという主人公は作者の視線の完璧な反映だと思うし、語弊があるかもしれないが、「救ってはあげられない、出来るのは、無責任に愛することくらい」というような切ないその立ち位置が、私は好きであった。

    • 63
  2. 評価:4.000 4.0

    誰もが地獄を抱えて

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    最初は、社内の様々なハラスメントや陰険な人間関係を、ヒーロー的な初瀬女史が軽快に成敗してゆく、という類いの昨今よくある現代版勧善懲悪モノかと思った。

    違った。

    本作が志した方向性というのはむしろ、完璧な善人というのも、完璧な悪人というのも、そして完璧なスーパーヒーローのような人間もいないのだ、というスタンスではなかったか。
    通りいっぺんの勧善懲悪には絶対にしないぞ、という、その心意気やよし。

    主人公は決して単なるお人好しではなく、素晴らしいところもあるが、そりゃお前が悪いわ、という部分もある。
    主人公の同僚や上司も、いったんは「悪役」として作品を賑やかすものの、それぞれに悩みや迷いを抱えて生きている。
    どうでもいいけど「フラッシュモブのプロポーズ」のくだりは悪い意味で必見で、これまで見たり読んだりしたあらゆるプロポーズのシーンの中で最も胸が痛んだ。
    繰り返し、悪い意味で。
    まあ、それはいい。
    それはいいとして、何より初瀬自身が、自身のあり方について葛藤を抱えたり、ろくでもない過去を背負ったりして生きている。
    いい奴にも賛同できないところはあるし、嫌な奴にも同情すべき点がある。
    当たり前と言えば当たり前だが、それが人間というものではなかろうか。

    どんなふうに生きたところで、人生はイージーモードにはなり得ない。
    天才は天才の、ろくでなしはろくでなしの、それぞれ背負った地獄がある。
    私はそう思うから、本作の立脚点がとても真摯に見えて、なかなか好きであった。

    • 3
  3. 評価:2.000 2.0

    致命傷

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    現代の有名怪談の漫画化シリーズ。

    読む前から、私の焦点は決定していた。
    「巨頭オ」を漫画化するなら、異形の存在としての「巨頭」をどれだけ恐ろしく(あるいは魅力的に)表現できるか、ということが最大のポイントだ、と。
    というか、この話、そのくらいしか漫画としての見どころなんてない。
    もともと「巨頭オ」は、怪談の「話」としては別に何と言うこともないのだ。
    ただ、ありそうと言えばありそう、という妙なリアリティーと、文字で表現された「巨頭」の存在が読み手の想像力の中で肥大する、というのが肝になる種類の話だ。
    だから、漫画化にあたって、「巨頭」の造形がイマイチなら、もうそれだけで致命傷なのである。

    というわけで、結論、致命傷でした。
    唯一の見どころがこう処理されたかと思うと、残念に過ぎる。

    • 3
  4. 評価:3.000 3.0

    もっといい題材を

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    現代の有名怪談の漫画化シリーズ。

    はっきり言ってホラー漫画として魅力があるとは言えない。
    が、これは漫画家のせいではなく、原作(というか元ネタというか)段階のレベルである。
    そもそも「猿夢」という話自体が、怪談としてつまらないと私は思っていて、これをわざわざ漫画にするのもなあ、とは最初から思っていた。
    それでも読んだのは、私が常軌を逸した怪談オタクであるのがひとつ、もうひとつは、この漫画家の「原作を漫画に落とし込む」技術の巧みさを信頼しているためである(京極夏彦の作品の漫画化を通じてそう思った)。

    その意味では、漫画家は流石、いい仕事をしていると思う。
    「猿夢」を漫画化するなら、これ以上はちょっと無理だよな、というところまできちんと到達している。
    特に、ラスト、語り手のある種の諦念、夢を見るのかどうかも半信半疑だけど、いずれ見てしまうような気はするし、どこかでそれを受け入れて生きていくしかないよね、という不穏で微妙な絶望を、ワンカットで表現した技量は素晴らしく、明らかに元ネタを超えている。

    が、悲しいながらどこまでいっても猿夢は猿夢なので、もっといい原作をこの人に任せてくれよ、という思いが残った。

    • 2
  5. 評価:2.000 2.0

    ペラペラの邪悪

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    復讐モノは、エンタメとして描かれる限り、復讐する側に読者が感情移入できるような作りが基本になる。
    だから、「悪役」の造形は極端になりがちだ。
    「こんな奴、復讐されてもしょうがないよね」と思ってもらう必要があるからだ。
    まあ、それはいい。
    それはいいのだが、ここまで極端な上に薄っぺらいと、本当に冷める。
    主人公の夫や姑のキャラクターは、嫌な奴とか悪い人という枠を超越して、もう、邪悪な何かである。
    何でもかんでも悪く描けばいい、というものではない。
    「現実枠」の物語において、過剰な「いや、そんな奴おらんやろ」は大きな瑕になる。
    また、困ったことに、本作の邪悪にはどこまでも「作り物」の薄っぺらさがつきまとう。
    例えば「ジョジョ」のディオ・ブランドーは邪悪だ。
    プッチ神父も邪悪だ。
    しかし、彼らを誰も「薄っぺらい」とは言わない。
    そういうことである。
    何もディオやプッチ神父を描けと言いたいわけではない。
    ただ、浅いにもほどがあるぞ、と言いたい。

    なお、そこまで極端な悪役たちを配しておいて、主人公に感情移入できるかと言えば、それも非常に厳しい。
    こんな邪悪な人間たちと家族になり、何となく生きていて、挙げ句、かつての憧れの先輩にあっさりときめいて騙される。
    そんな人間に対して「阿呆か」という以上の感情を抱くのは困難であって、私は早々にギブアップした。
    やれやれだぜ。

    • 61
  6. 評価:3.000 3.0

    ぶれる文脈

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    単純に、一人の女性が自立を獲得する話、として私は読んだ。

    こういう話は、往々にして夫を極端な悪者にする傾向にある(読者を主人公に肩入れされるためにはまあそれで正しい)が、本作はちょっと違って、妻も結構な駄目人間である。
    自分の力で生きていく、というものがまるでない。
    ただ、繰り返し、夫に依存して何となく生きてきたそういう女性が自立する、という話なのだから、これもこれで正しいかと思う。

    夫婦の関係性の描き込みはかなり浅いところにとどまっているが、そもそも、夫婦の問題、というのはおそらく本作の本筋ではないであろうから、それもまあ、よしとしよう。

    ただ、どうにも受け入れがたかったのは、自立への道を歩み始めた主人公が、容易にイケメン税理士に「抱き締めて」とか言っちゃう浅薄さと、それに税理士があっさり応じてしまうという都合のよすぎるロマンス的な文脈である。
    こういうのが一定の読者層に効果があるものだというのは理解はするが、私はどうしても許容できない。
    こういう生半可な描写があると、主人公の自立、という大切な文脈がぶれる。
    何がしたかったんだお前は、となる。
    お前、というのは主人公ではない。
    作品そのものだ。

    まるで別の漫画の話になるが、「闇金ウシジマくん」の中で私が最も好きな台詞のひとつに、「孤独を受け入れないと大人になれない」というのがある。
    孤独というのは何も、一人ぼっちで生きることを意味しているのではない。
    一人でも生きていけるという覚悟と能力のある人間になれなければ、結局食い物にされるんだ、とウシジマくんは言っているわけだ。

    本作の主人公の「抱き締めて」は、要するに「一人で生きていく覚悟がないわ」という叫びであって、それは自立からも、そして実のところ愛からも、最も遠いところにある。
    それを本作でやるべきではなかったと私は思う。
    百歩譲って、税理士、突っぱねろや。
    「あなたはまだそんなことを言ってるんですか?」って言えや。
    ウシジマくんばりに迫力出せや。
    まあ、無理か。
    そうだわな。

    • 13
  7. 評価:5.000 5.0

    才覚の極点

    はっきり言って主人公の男はイタい奴だし嫌な奴である。
    現実世界でこういう男に出会ったら、特に女性の皆様は40秒で支度して逃げ出すことを推奨する。
    そういう人間を単に「こういう奴いるよね、最低だよね」と描くことは多くの漫画家なり何なりがやる。
    しかし、この天才漫画家は違う。

    同じ作者の「今夜すきやきじゃないけど」という作品のレビューで、私は、現実世界では離れたくなるような類いの人間を、作品において可愛らしく魅力的に描けてしまうのがこの作者の才覚のひとつだ、という意味のことを書いた。
    本作はその才覚の極点を示す漫画だと思うし、それは漫画に限らず、フィクション全般においてとても大切なことなのではないかと思っている。

    その才覚を根本のところで支えているのは、人間に対する徹底した優しさ、寛容さである。
    駄目人間、とかよく言うが、おそらく全ての人間が、多かれ少なかれ駄目な要素を持っている。
    それをどこからどう見るか、というだけの話で。
    あるいは、それをどれだけ上手く隠して生きているか、というだけの話で。
    ただ、言えることは、どんなふうに生きてみたって、人生はそんなにイージーモードにはならない、ということだ。
    天才も駄目人間も、それぞれ地獄を抱えて生きているのだと思う。

    どれほどの功績を残した人間も、どれほど美しい人間も、何かひとつあれば徹底的に叩かれるような寒々しい時代にあって、私が本作から感じたのは、否定的なタイトルとは裏腹に、「叩ける理由より愛せる理由を探してやろうよ」という温かさであって、それが、私は好きであった。

    • 17
  8. 評価:4.000 4.0

    駄目人間の可愛さ

    続編。
    といっても、ストーリー上に直接の繋がりはなく、本作を単独で読んでも全く問題はない。

    何度も何度でも言うがこの作者はマジで天才で、その才覚のひとつに、「現実世界で出会ったら離れたくなるような人間をとても可愛く魅力的に描く」というものがある。
    前作に比べて、本作はその技量が顕著に発揮されていると感じた。
    「技量」と書いたが、それは、単なる技術的な問題ではなく、人間に対するある種の優しさが根本にないと成立しない。
    素晴らしい。

    星をひとつ引いたのは、前作があまりに完璧に過ぎたためであり、不満はまるでない。

    • 4
  9. 評価:3.000 3.0

    そもそも原作が

    大正時代のホラー(と呼んでいいものか)小説が原作。
    原作は未読だったが、漫画を読んだ後で、青空文庫で一応読んだ。

    原作はともかく漫画としては…という作品は多々あるが、本作の場合、そもそも原作がどうかと思う。
    雑なイメージとしては、宮沢賢治の「注文の多い料理店」みたいな作品の枠組みに、この時代特有のエログロナンセンス的な風味をつけたもの、という印象を持った。
    ホラーというジャンルは洗練という概念に囚われると上手くいかないと私は思っているし、ある種の「訳のわからなさ」というのが原作の魅力であることも一定の理解はできるが、ここまで荒っぽいと、流石に支離滅裂という感想が先に立ってしまい、受け入れ難かった。
    こういう作品を読むと、文学もやはり進歩しているのだということがよくわかる。
    少なくとも本作が「時代が変わっても色褪せない」的な名作であるとは到底思えなかった。

    漫画としては、作品の空気感をなかなか巧みに伝えていたとは思う。
    だが、繰り返し、そもそも原作が、という話である。
    どうでもいいけど、作中、主人公が屋敷を出ていく・いかないのくだりはあまりに冗長で、「いい加減にしろ」と私は叫んだ。

    • 4
  10. 評価:3.000 3.0

    どうしてこんなことに

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    あの「ぬ~べ~」の読み切り限定復活、みたいな漫画。
    イメージとしてはほとんどスピンオフに近く、完全にコメディである。

    もともと「ぬ~べ~」は、純然たるホラー漫画というわけではなくて、ホラーの題材を用いた、ギャグありバトルありの少年漫画、という位置づけの作品だと思っているから、コメディであること自体は別に構わない。
    しかし、申し訳ないが、そのコメディがはっきり言って絶望的につまらない。
    昔は楽しく読んだ漫画だし、何かいいことを書きたいが、正直、フォローのしようがない。
    過去のキャラクター総出演的なサービスもあるのに、かつての「ぬ~べ~」ファンであれば読んでみてもいいかもしれない、と発言することすら躊躇われる。

    少年時代の記憶に免じて、星をひとつ足した。

    • 4

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