5.0
才覚の極点
はっきり言って主人公の男はイタい奴だし嫌な奴である。
現実世界でこういう男に出会ったら、特に女性の皆様は40秒で支度して逃げ出すことを推奨する。
そういう人間を単に「こういう奴いるよね、最低だよね」と描くことは多くの漫画家なり何なりがやる。
しかし、この天才漫画家は違う。
同じ作者の「今夜すきやきじゃないけど」という作品のレビューで、私は、現実世界では離れたくなるような類いの人間を、作品において可愛らしく魅力的に描けてしまうのがこの作者の才覚のひとつだ、という意味のことを書いた。
本作はその才覚の極点を示す漫画だと思うし、それは漫画に限らず、フィクション全般においてとても大切なことなのではないかと思っている。
その才覚を根本のところで支えているのは、人間に対する徹底した優しさ、寛容さである。
駄目人間、とかよく言うが、おそらく全ての人間が、多かれ少なかれ駄目な要素を持っている。
それをどこからどう見るか、というだけの話で。
あるいは、それをどれだけ上手く隠して生きているか、というだけの話で。
ただ、言えることは、どんなふうに生きてみたって、人生はそんなにイージーモードにはならない、ということだ。
天才も駄目人間も、それぞれ地獄を抱えて生きているのだと思う。
どれほどの功績を残した人間も、どれほど美しい人間も、何かひとつあれば徹底的に叩かれるような寒々しい時代にあって、私が本作から感じたのは、否定的なタイトルとは裏腹に、「叩ける理由より愛せる理由を探してやろうよ」という温かさであって、それが、私は好きであった。
- 8
じゃあ、あんたが作ってみろよ