4.0
純粋ってなあに
バイト先の店長と不倫中の主人公。
主人公に恋心を抱く不登校の少年。
その少年は店長の息子。
店長の妻はうつ病。
息子の不登校の原因は幼馴染のストーカー。
という有様で、もうこれどうすんだよ、と気が重くなるが、なかなか読ませる。
幼馴染の独善的な暴走は狂気じみているが、実のところ、一番タチが悪いのは主人公だと思う。
いわゆる「純粋」タイプに分類される主人公というのは漫画にはよく出てくるし、基本的に作品はそれを肯定的に描く(だからこそ主人公になり得る)わけだけれど、本作は、違う。
明らかに本作は、そこに悪意を持って描いている。
主人公の「純粋」の正体は、病的な八方美人、嫌われることに対する異常な恐怖心である。
だから、不倫相手の家に上がり込んで妻をカウンセリングする、などということが平然と出来る。
信条とか尊厳とかいう観念自体がないから、自分の行為が相手に対して持つ意味が理解できない。
店長みたいな馬鹿な男がそれを「純粋」と感じるのは好きにしたらいいが、こんなもの、本質的には純粋と何の関係もない。
一見すると「純粋で可愛い漫画の女の子」のようにヒロインを描きながら、実のところ、変則的な形の自己愛にまみれた人間の薄気味悪さを、確信的に描いている。
そこが、凄い。
自己愛でもってわかりやすく他人を踏みにじっているのが、幼馴染のストーカー。
自己愛でもって自らの欲望の醜さを欺き、自己正当化に終始しているのが、店長。
無自覚で悪意なき自己愛によって、周囲を巻き込みつつ泥沼(泥濘どころの話じゃない)に落ちていきながら、落ちてゆく自覚すらない主人公。
おいおい、どうすんだこれ。
というわけで、今後も目が離せない。
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