4.0
制約を感じさせない滑らかさ
ヒット作の「からかい上手の高木さん」はまだ未読だ。漫画は捕まえるタイミングが難しくて、世間で大評判になっている作品でも、すでに既刊が何十冊も積み上がっている状態になってしまうと、なかなか一から読む気力が湧いてこない。そこで同じ作者の新作「それでも歩は寄せてくる」の方を早期に捕まえて読んでみた。
これは、いわゆる登場人物とシチュエーションを極度に限定して、主人公達の微妙なズレ方や、その場の空気感で面白味を生み出すタイプの作品なのだが、絵も展開の仕方も実に滑らかで、窮屈さを感じさせない。空き部屋を利用した自称将棋部の部員は、主人公のうるしと歩の2人だけで、時折マキやタケル、桜子といったサブキャラが顔を覗かせる事はあっても、ほとんどは二人だけのやり取りだ。しかも歩が平手でうるしに勝てたら告白すると勝手に決め込んでいるだけで、すでに二人の間に気持ちのフラグは立っている。ドラマ派の作家なら頭を抱えてしまいそうな設定だが、これが実にのびのびとしていて、無理を感じさせない。ヒット作の「となりの関くん」では、作者が本当はドラマ派で、自ら制約をかけている窮屈さも微かに感じられた。直接のヒントになったと思われる「上野さんは不器用」は、群像劇的なニュアンスが強くなってきた。それを思うと、やはりこの山本さんという人は得難い才質の持ち主なのだろう。
ただ最近、香川凛という新入生が入部してきて、将棋部は正式な部となった。この凛という少女、顔立ちや気性が歩にかなり似ている。最初は歩の妹か親類の娘として構想されていたのではないか?
それが単なる後輩に変わったのは、やはり三角関係に持ち込んでさざ波を立てる為だったのか。部員を増やして正式な部にする事が悲願だったうるしに対して、二人きりの空間を乱されるのを嫌がったのは歩の方だったのだが、うるしの方が気持ちをかき乱される結果になったのは皮肉だ。でも、この種の苦しみを味わうのは主人公の資格でもあるし、歩は一本気な奴だから大丈夫だよ、多分。
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