5.0
極上の会話で送る、全く新しい寓話
日本昔話は異常犯罪の記録であり、昔話に出てくる鬼などの怪物が現代社会でも犯罪を行っている、という設定のもとに、子どもの頃に父親を殺された新米刑事と、怪しい民俗学者が事件を捜査する、というストーリー。
奇抜な設定だが、単なる「思いつき」とは全く異なり、相当に練られていて、面白かった。
「瓜子姫」や「鶴の恩返し」など、著名な昔話を題材に、斬新な発想とアプローチで作品として再構築する手腕には舌を巻く。
作品の屋台骨は、民俗学のリサーチの深さというよりは、解釈の発想力の豊かさに支えられていて、絶対に真似できない。
「犯人」を捜したり追いつめたりするにも、原典にある「人ならざる存在」の特徴を上手く活かすあたり(例えば天邪鬼は命令に従えない、という性質を利用するとか)、思わず唸った。
そして、この漫画の何がいいって、会話である。
作中、主要な登場人物たちはひっきりなしに喋っているが、この会話の軽妙なテンポと、言葉の選択のセンスが絶妙で、素晴らしい。
殺_人だとか誘_拐だとか、話の筋自体は緊迫したものが主だが、そこを流れる会話はあくまでリズミカルでユーモラスで、本筋を食ってしまうほどの勢いで躍動しながら、しかも全く作品の邪魔をしていない。
これはちょっと、すごいと思う。
そうしてさんざんふざけておいて、不意にグッとくる会話がくる。
「おれにはもう一度会いたい人間も帰りたい場所も時も何一つない。幸せだなおまえは」
「おまえにもいつかかかならず失いたくないものができる。だから今は誰かの大切な人を救うために全力で力を貸せ」
何だよこれ。
ずるいだろこんなの。
本筋もばっちり面白い上に、極上の会話がそれを彩る、何とも贅沢な漫画。
これほど会話の魅力を感じさせてくれた漫画というのは、他に「セトウツミ」くらいしか思いつけない。
- 20