4.0
ぶれる善悪
ひょんなことから殺_人者になってしまった父親のストーリー。
漫画の中では「ヒーロー」だが、やっていることは結構エグい。
ただ、「普通の父親がそこまで出来るか?」という突っ込みどころを、「推理小説マニア」という設定で上手くかわしたところが巧妙である。
マンションの風呂場で死体を解体して…なんていう事件は、実際、数年前にあった。
そのニュースを見たときの苛立ちと嫌悪感を、私は覚えている。
行為としては、この父親がやっていることも、同じだ。
しかしおそらく、私を含めた多くの読者が、この父親サイドについて、応援したはずである。
そういう「ぶれ」を、私たちの善悪の意識は含んでいる。
「許せない」とか感じたはずの行為を、「娘のため」というちっぽけな(と言っていいかは難しいが)「理由」や「事情」や「大義」さえあれば、あっさり許して応援すらしてしまう、というような、ぶれ。
それを、計算ずくで提示しているような漫画だと思った。
そういう意味では何とも底意地の悪い、怖い漫画である。
私は、善悪のぶれを、全否定するつもりはない。
それが、人間らしさというものかもしれない。
ただ、思うのは、自分たちの善悪の基準なんて非常に曖昧なものだ、という事実に対して無自覚なのは、とても危険なことだ。
私たちはいつの間にか、適当に誰かの「行為」を取り上げて、むやみに断罪してはいないだろうか。
そこにあったかもしれない、「理由」や「事情」や「大義」を無視して。
日馬富士の引退会見を見ながら、私はこの漫画を思い出して、そんなことを考えていた。
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