3.0
金木の語彙力はさすが読書家
少し前、「人間を食べる異形の怪物と戦う」そんな設定の漫画が次々と世に出てそれぞれが爆発的にヒットしましたね。鬼滅、進撃、(約束のネバーランドも同じ系かな)そして本作。その異形のモノが実はもともと自分たちと同じ人間である、という残酷な設定が最も活かされているのが本作。
「自分の大切な人やありきたりの日常を奪った憎い敵の正体は、血に飢えた悪魔でなくてはならない。自分たちと同じように愛や優しさや倫理観を持っていてはいけない。生きるために仕方なく人を食べるしかない悲しい生き物であってはいけない。飢餓が限界に達したグールの本能に抗えず、人間であることを一瞬忘れて殺戮に走ってしまった弱い心の人間であってはいけない。全てのグールが、ここに何人かだけ登場するグールのように、殺戮を楽しみ人肉食をなんとも思わない悪鬼であると思いたい。主人公のように、グールを理解してほしいと努力する「人間」のようなグールの存在は絶対にいてはならない」
それを認めてしまったなら、攻撃できなくなる。復讐ができなくなる。敵だ、と認識した者が多数となり、よく相手を知らないうちに憎しみの勢いを借りて正義とし、問答無用で駆逐する。それが最も楽なやり方で、そこに迷いを生じさせてはならない。その迷いこそがヒューマニズムという名の、人間が持つ一番の徳なんだけれど、人間はこれが最も不得意だ。今までお互いがされたことやしてきたことを全部飲み込み、許しあい、ルールを作り、和解と停戦に合意し、共存するというのは、人類にとって最も困難なことなのだ。それは歴史が何度も証明しているし、相手はグールでもなんでもないのに、リアルの世界でどこかの国は何年もそれを続けている。
この作品はグール=人類の敵側から見た世界観の漫画なので、その視点が新しいと思う。いつ正体がバレるかわからない、気が抜けないという仮面生活の緊迫感は無いけれど、人間を装うために食事をする練習の苦痛さは、すごくリアリティがあった。
金木くんが半グール半人間として、人間の中のヒューマニズムを信じて世界を変えようとする努力、それが唯一の本作の希望の光。しかし、人間側とグール側両方に悲哀に満ちたエピソードと理不尽なムードが絶えず付きまとう。ギャグシーンらしいギャグはまだほとんどない(あったかもしれないけど、気がつかなかった)。
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東京喰種 トーキョーグール