5.0
覚えていること、忘れること/500本記念
個人的な話だが、ちょうど500本目のレビューである(まあ厳密には削除されたレビューが2本あるのだが)。
少年時代の思い出深い作品として、本作を選んだ。
相手の頭部に手をかざすことで、任意の記憶を消去する能力を持つ医者の話。
当時の少年ジャンプ連載作品の中では完全に異質だったが、当時を思い返してみても、これほど深く心を動かされた漫画というのは他にあまりなかった。
少年漫画らしからぬ細く鋭いタッチ(作者が女性であることを後年になって知った)もさることながら、決定的な異質性は、本作が人の悲しみを描く漫画だった、ということにあったのではないかと思う。
覚えていることも、忘れることも、悲しいことだと私は思う。
何だよ、それじゃ全部悲しいじゃん。
そうなのである。
でもそれを、よりによって少年漫画でやるかね、というのが、本作だった。
そしてまた、忘れられない悲しみを徹底的に描きながら、それでも覚えていることの素晴らしさ、美しさを描いたのも、本作だった。
私たちは日々、膨大な量の情報にさらされながら、意識的に、あるいは無意識的に、これまた膨大な量の記憶を保持したり捨て去ったりしながら生きている。
昔の恋人の香水の香りから、昨日の夕飯のメニューまで。
覚えたいのに消えてゆくログに悩み、忘れたいのに忘れられない記憶に傷つきながら、私たちは生きている。
でも、きっと、あるはずなのだ。
何に代えても覚えていたいことが。
いつか自分が年老いたときに、深いところで胸の内を温めてくれるような、これさえあれば残りの人生を生き抜いてゆけると思えるような、そういう種類の記憶が、私にも、あなたにも。
それを、ありったけの悲しみの中から、そっとすくい上げるような漫画だった。
誰かが言ったそうである。
生きてゆくということは、思い出を作ることなのだ、と。
ならば、この漫画にあったのは、私たちが生きてゆくということ、そのものであったと言っていい。
あと百年もすれば、こんな私の文章など、地球のどこにも残っていないし、誰も覚えてはいないだろう。
それでも生きてゆくということを考えるとき、私はときどき、この漫画のことを思い出す。
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MIND ASSASSIN