4.0
情報として
正直なところ、「漫画」としての面白味というのは、それほど感じなかった。
クセのある設定の主人公弁護士のキャラクターにも、あまり魅力を覚えなかった。
ただ、漫画であれ何であれ、書物というものを「情報」として評価する場合、なかなか優れた作品になっているとも思った。
SNSでの誹謗中傷の被害やそれを巡る法制度、訴訟、裁判、被害者サイドが法的措置に踏み切ることのメリット(現実的にはあまりに乏しいが)とリスク、その選択の意義と、金銭的なプラマイでははかれない価値。
そういった実情を、私たちは本当のところ、あまり知らない。
これだけ豊富な情報量を、漫画として一定のポップさを保持したまま、きちんと整理して提示することは、なかなか出来ることではない。
気に入ったのは、主人公の弁護士が、選択肢を明確に提示した上で、きちんと依頼人に選ばせようとしているところだった。
「ものを教える」という側面を持つ職業の人間にとって、これは重要な職業倫理であると私は思う。
つまり、教えることや導くことよりも、選択肢の提示こそが、まずもって重要な仕事である、ということだ。
こちらの道を選べばこういう危険があるし、あちらの道を行けばこういう痛みを伴う、どちらを選ぶかを決めるのは、あなたですよ、と。
これは、全く違う作品だけれど、「九条の大罪」にあった「法律の世話はできるが、人生の面倒は見られない」という台詞にも通じるかと思う。
極めて現代的な情報力を持った、なかなか有意義な作品。
私は普段、SNSとは縁遠いところにいるけれど、SNSが生活の一部である、というような読者は特に、一読の価値はあるかと思う。
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