カッセルもエミリアーノも、本当に心からイネスを愛している。だからこそ二人とも、記憶と共にイネスを苦しめた過去への罪悪感を思い出した時に、彼女を解放する為に手を放す選択をしたんだろう。
そうした意味でも、エミリアーノとの出会いはカッセルには天啓だったのだと思う。エミリアーノは、恐らくはもう一人のカッセルの姿だろうから。イネスの苦しみに気付かないまま、会わない事で彼女を救った気になっていた自分を、エミリアーノは今も許せないままでいる。その気持ちを抱えたまま今の人生を生きる事。それが、彼にとっての贖罪なのだろう。結末は結果として異なっていても、イネスの為に一度ルカと共に死ぬ事を選ぼうとした自分。エミリアーノを失い、ルカを守ることも出来ず死を選んだイネス。例えカッセルに引き合わされても、そんな自分たちでは幸せになれない事をエミリアーノは理解している。だからこそ、彼はイネスをカッセルに託したんだろう。自分と同じように、苦しみや憎しみや罪悪感を抱き、その感情を抱えた中でも心からイネスを愛しているカッセルに。
エミリアーノはもう一人のカッセル。と同時に、カッセルもまたもう一人のエミリアーノの姿だ。ただし、カッセルにはエミリアーノと違い、今度こそイネスを守り抜き幸せになれる力がある。だからエミリアーノはかつての自分がイネスから奪ったものを返して、遠くからカッセルとの幸せを願う道を選んだ。
このエミリアーノの願いがどれだけカッセルに届いたかは分からない。けれどどうか、オスカルと共に消えるなんて清々しい笑顔で言わないで欲しい。オスカルを消して、必ずイネスの所へと帰ってきて欲しい。それだけがきっと、今生のイネスを救う術なのだから。
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この結婚はどうせうまくいかない
112話
第102話