rokaさんの投稿一覧

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41 - 50件目/全109件
  1. 評価:5.000 5.0

    見事なホラー/記念

    独特で、異色で、それでいて本格的、という見事なホラーだと思った。

    表題作はパリッと筋の通ったサスペンスホラー、「ゴンベさん」はどこか温かみのあるホラー。
    しかし、私は、何といっても「47C6」が怖かった。

    核の部分で、わけがわからなかったからだ。
    「47C6」は、物語になっているようで、なっていない。
    主人公はある種の「納得」を手にするが、読み手にその納得は届かない。

    ホラーって普通は逆だろう、と思う。
    主人公はわけのわからないものに翻弄され、恐怖する。
    だが、読者である我々は、ホラーを俯瞰の視点で見て、ある部分、納得する。
    主人公にはわからないが、読者にはわかる。
    普通は、だ。
    しかし、「47C6」は、全く逆だ。
    主人公だけが、何かを悟り、そこには達観すら見てとれる。
    読者だけが、わからない。
    だからもう、私はただ、恐怖するしかなかった。
    その、作品から拒絶されたかのような読後感は、絶妙に嫌な引っかかりを残し、そして、不思議と魅力的だった。

    わけがわからないということは、本当に恐ろしい。


    さて、個人的なことで恐縮だが、本日、初めてレビュワーランキングで1位になった。
    とても嬉しかったので、このレビューは、その記念を兼ねる。
    この漫画のレビューは誰も読んでいないかもしれないが、票を入れてくれた方々に感謝する。

    別に、何を成し遂げたわけでもないけれど、今日もそこに素晴らしい漫画があって、嗚呼、何ていい日だろう。

    • 12
  2. 評価:5.000 5.0

    発明としてのパロディ、完璧なカオス

    芥川、漱石、鴎外、太宰など(トルストイやカフカといった海外の作品もある)の著名な文学作品を、ごく短い漫画にまとめた形式の作品。

    もちろん、長編小説(あるいは短編でも)を10ページ程度の漫画に収めることにそもそも無理があるので、一種のパロディとして読むしかないのだが、その目のつけどころというか、漫画としての新しさには感心した。
    これはもう、ひとつの発明だと思う。

    読んだことのある作品については、「確かにこんな話だったな」と懐かしく思い出したり、「そうまとめてきたか」とちょっとした驚きがあったり。
    また、未読の作品については、何となくわかった気になる(本当はわかるわけないんだけど)という、妙な楽しさがあった。

    そして、何が凄いって、絵柄である。
    要するに水木しげるの高レベルな模写なのだが、登場人物だけではなく、背景や描き文字(ジョジョでいうと「ゴゴゴゴ…」みたいなアレ)まで寄せてくる徹底ぶりには度肝を抜かれた。
    私は水木しげるの大ファンなので、もう永遠に読めなくなってしまった彼の新作を読んでいるようで、何やら得をした気分になった次第である。

    クラシックな文学作品の要約されたパロディを、よりによって水木しげるの絵柄で読むというのは、一瞬、自分の居場所がわからなくなるような、ほとんど完璧なカオス体験であり、私は大満足であった。

    • 13
  3. 評価:5.000 5.0

    叙情のミステリ、物語の物語

    文学少女、というか文学オタクの少女と、ある事件をきっかけに筆を折った小説家の探偵を主人公にしたミステリ。

    コナン君や金田一少年のような「謎解き」に主眼を置いた漫画ではなく、そういう意味では「本格」ミステリでは決してない。
    むしろ、事件がなぜ起きたのか、その背景には人々のどのような情念や執着があったのか、という部分が焦点であり、ミステリと呼ぶには、随分と叙情的な作品である。
    これは決して非難ではなく、こういうミステリ漫画もあり、というか、こういうミステリ漫画がもっとあってほしい、と感じた。
    ミステリのトリック的な部分にはあまり感心しなかったが、事件に秘められた人々の想いには、何度もハッとさせられた。

    もうひとつ、本作は、「本(というか、フィクション)を読むとはどういうことなのか」を紐解いてゆく物語でもある。
    フィクションというのはもちろん、「嘘」の話だ。
    人は、嘘を嘘と知りながら、なぜフィクションなんてものを必要とするのか。
    私の好きな小説の中に、こんな文句がある。
    「ある種の真実は、嘘によってしか語れないのだ」。
    この漫画は、そんなふうに答えを明示しているわけではないけれど、「物語とは」というテーマは、文学少女と小説家を主人公とする本作のストーリーと密接にリンクしており、なかなか興味深かった。

    この漫画の登場人物たちは皆、ある意味で、物語によって傷つけられ、損なわれ、そしてまた、物語によって救われてゆく。
    それは、自らの物語を生きる私たちの姿そのもののようで、感動的であった。

    この漫画が何の物語なのかと問われれば、やはりそれは「物語の物語」ということになると思うし、漫画として「物語を生きること」というテーマに果敢に挑んだその勇気は、称賛に値すると私は思う。

    • 10
  4. 評価:5.000 5.0

    因習と、運命と、愛と

    「りんごの村」に婿入りした主人公が村の禁忌を知らずに破ってしまったことで、妻が生け贄(的な何か)にされることになり…というストーリー。

    閉鎖的な村の伝承と因習を紐解いてゆく展開はちょっと横溝正史的というか、ある種のミステリーであり、民俗学をバックグラウンドに据えた舞台装置は、なかなか魅力的であった。

    だが、そのミステリーの「着地点」は、犯人がどうとかトリックがどうとか、そういうことにはなり得ない。
    何しろ相手は超自然であって、神様みたいなものだから、「解決」なんてあるはずがない。
    どうしたってミステリーがファンタジーの文脈へと回収されてゆくわけで、そのあたりの落としどころをどう定めるかという部分には結構、注目していたのだけれど、これはもう、見事という他なかった。

    そして、忘れちゃいけない、本作はラブストーリーなのだった。
    ミステリアスで、ファンタジックで、でも何より、ラブストーリーなのだった。
    共同体の中で揉み消され、「なかったこと」として忘れ去られていった愛は、逆らいようのない運命に踏み潰され、吹き散らされていった愛は、昔も今も(それこそ決して「物語」にはならない次元で)掃いて捨てるほどあったのだろう。
    しかし、因習にも運命にも命をかけて抗って、文字通り全てを失う覚悟で守ろうとした、優しくて穏やかだけれど、苛烈で壮絶なその愛の発露に、私は泣いた。

    • 4
  5. 評価:5.000 5.0

    怪談の節度

    「山」にまつわる怪談の短編集。

    この作者はホラー描写にとても安定感があり、変な言い方になるが(ホラーなのに)、安心して読める。

    怪談として、非常にセンスがいいと思った。
    全ての話において、「わけのわからない部分」を、慎重に残している。
    そうなのだ。
    いくら話として、あるいは画として、怖くても、正体とか因果関係がスマートに説明されてしまったら、ホラーは、弱くなる。
    わけがわからないことほど恐ろしいからだ。
    かといって、あまりにわけがわからなすぎても、読者はついてこない。
    そのあたりがバランスだし、センスなのだと思う。

    「わかるのは、ここまで」。
    本作はその抑制されたバランス感覚が素晴らしく、読む人に、何とも嫌なひっかかりを残す。
    その「嫌なひっかかり」こそがホラーの余韻であるし、怪談としての愛すべき節度であると私は思う。

    • 9
  6. 評価:5.000 5.0

    「楳図かずお」というジャンル

    超能力みたいなものを持つ主人公の少女「おろち」は、狂言回し的な役割(アウターゾーンのミザリーとか、ウシジマくんとかのポジション)で、彼女が関わる様々な人々の物語を描いたオムニバス。

    独特の表現力と、キレのあるストーリーで、一話一話の完成度が非常に高い。
    怪しく美しい絵柄もさることながら、オカルトの要素を用いつつ、人間の醜さ、あさましさ、嫉妬や憎悪や執念の恐ろしさ、そして哀しさを炙り出すような手腕には舌を巻く。

    「恐怖漫画」というジャンルを確立した楳図かずおの功績は、今さら語るまでもないけれど、登場人物がただ叫んだり笑ったりするだけの表現が、他のどこにもないホラーになり得てしまうというその圧倒的なオリジナリティーは、もう、「楳図かずお」というひとつのジャンルであると言ってもいいくらい、凄いと思う。

    • 17
  7. 評価:5.000 5.0

    静かで、グロテスクで、ロマンチック

    この漫画のことはだいぶ前から知っていたのだが、読む気になれなかった。
    というか、避けていた。
    理由は単純で、私がオリジナルの「寄生獣」をあまりに好きだからだ。
    大好きな作品について、アニメ化とか映画化とかスピンオフとかでがっかりさせられるのはよくある話で、「寄生獣」というのは、私にとって非常に特別な漫画であり、また「完成品」であって、何がスピンオフだ、と思っていたのだ。
    ましてや、別の作者で。

    しかし、読んでみてよかった。

    主人公はあの広川の息子である。
    最初は、主人公の造形が明らかにオリジナルの絵柄ではなく、違和感があった。
    だが、オリジナルのキャラクターたちの描写は、素人目に見ると、ほぼ完ぺきな「模写」であった。
    そのため、印象としては、「新しいキャラクターが、寄生獣の世界に紛れ込んでいる」という感じに近い。
    その違和感すらも一種の味として感じられたのは、スリリングでサスペンスフルで、それでいて「静か」である、というオリジナルの雰囲気に上手く近づけてあることが大きい。
    構成も非常に巧みで、テンポがいい。

    そして、何といっても、忠実に再現されたオリジナルのキャラクターたちが動いていることに、胸が躍る。
    広川、刑事の平間、田宮良子といった主要キャラクターはもちろん、「こんな奴まで」という名もなきマイナーなところまで、彼らの新しい物語をもう一度見られるなんて、何だか夢のような話だ。

    それはきっと、作者の、夢だったのだろう。
    「寄生獣」が私なんかよりずっと大好きで、「こんな漫画が描けたら」と思いながら漫画家になって、本当に「寄生獣」を描くチャンスを掴んだのだろう。
    それは、「あり得ない」はずのことだった。
    最初に書いたとおり、「寄生獣」は「完成品」だからだ。
    でも、あり得ないようなことだから、夢なのだ。

    静かで、冷たくて、グロテスクでありながら、存在自体があまりにロマンチックな、特別な意味を持つ傑作。

    • 25
  8. 評価:5.000 5.0

    頼むから

    問答無用で一気読みさせる力がある。
    この吸引力は、もう、超一級である。

    基本はいわゆるタイムリープもので、主人公は、無差別の大量殺_人犯として死_刑判決を受けた元警察官の父親の無罪を信じて調査を開始するが、事件が起こる前の時代にタイムスリップして…というストーリー。

    細かく見ていけば、タイム・パラドックス問題みたいな瑕疵は見つかるのかもしれないが、そんなもの、あったとしても、クソくらえである。
    あまりにもスリリングで、サスペンスフルで、リズミカルで、エモーショナルな展開力に、私は無条件降伏するしかなかった。
    参りました。
    すみませんでした。
    と、何も悪いことをしていないのに謝りたくなるくらい、凄かった。

    最新話までノンストップで一息に読んで、完結していないことに絶望した。
    頼むから早く続きを読ませてくれ。

    • 88
  9. 評価:5.000 5.0

    マサルの純真、ジャガーの悪意

    「マサルさん」と「ジャガー」の違いは、と考えると、それは「悪意」の所在なのではないかと思う。

    花中島マサルは、いわば「天然」系の主人公だった。
    というか、「マサルさん」の登場人物は、誰も彼も天然みたいなものだった。
    あれは、誰にも悪意のない、誰も傷つかない、実に優しいギャグ漫画だった。
    そういう意味でも、他人を貶して笑いに変えることがまかり通るこの世の中で、「マサルさん」は偉大な作品だったと思う。

    しかし、ジャガーさんは全く違う。
    彼は、悪意に満ちている。
    ジャガーさんどころか、ハマーにも、ロボットのハミィにすら、悪意がある。
    「ジャガー」は、「マサルさん」に比べて、かなりの毒を含む漫画であると思う。

    しかし、その悪意や毒を、読者に全く「毒」とは感じさせない。
    ジャガーさんがどれほど悪意に満ちた悪行をはたらこうとも、あくまでそれは、漫画の中では、優しく、マニアックでありながら妙にポップで、爽やかですらあるギャグへと昇華されている。
    このあたりが、うすた京介の稀有な才能なのではないかと思う。

    • 7
  10. 評価:5.000 5.0

    それは、革命だった

    当時、中学生で少年ジャンプを読んでいた私たちにとって、この漫画が与えた楽しさと衝撃は、尋常ではなかった。
    ジャンプの発売日の翌日、私たちは登校すると、真っ先に今週号の「マサルさん」について話した。
    同時期の連載に「スラムダンク」も「ダイの大冒険」も「るろうに剣心」もあったのに、何よりも「マサルさん」について話した。

    シュール・ギャグ、ナンセンス・ギャグ、呼び方は色々あるのだろうが、「マサルさん」の破壊力はあまりに斬新で、それは、私たちの世界にあった「笑い」のあり方を、すっかり変えてしまったのだった。
    それはほとんど、革命だった、と言ってよい。
    そんな漫画を、他に思いつけない。

    私は、あるいは私たちはもう、十年以上、「マサルさん」を読んでいない。
    しかし、今でもときどき、妻が私に、この漫画の言い回しを真似て語りかけてくることがある。
    革命、というのは、そういうことである。

    • 8

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