rokaさんの投稿一覧

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41 - 50件目/全107件
  1. 評価:5.000 5.0

    叙情のミステリ、物語の物語

    文学少女、というか文学オタクの少女と、ある事件をきっかけに筆を折った小説家の探偵を主人公にしたミステリ。

    コナン君や金田一少年のような「謎解き」に主眼を置いた漫画ではなく、そういう意味では「本格」ミステリでは決してない。
    むしろ、事件がなぜ起きたのか、その背景には人々のどのような情念や執着があったのか、という部分が焦点であり、ミステリと呼ぶには、随分と叙情的な作品である。
    これは決して非難ではなく、こういうミステリ漫画もあり、というか、こういうミステリ漫画がもっとあってほしい、と感じた。
    ミステリのトリック的な部分にはあまり感心しなかったが、事件に秘められた人々の想いには、何度もハッとさせられた。

    もうひとつ、本作は、「本(というか、フィクション)を読むとはどういうことなのか」を紐解いてゆく物語でもある。
    フィクションというのはもちろん、「嘘」の話だ。
    人は、嘘を嘘と知りながら、なぜフィクションなんてものを必要とするのか。
    私の好きな小説の中に、こんな文句がある。
    「ある種の真実は、嘘によってしか語れないのだ」。
    この漫画は、そんなふうに答えを明示しているわけではないけれど、「物語とは」というテーマは、文学少女と小説家を主人公とする本作のストーリーと密接にリンクしており、なかなか興味深かった。

    この漫画の登場人物たちは皆、ある意味で、物語によって傷つけられ、損なわれ、そしてまた、物語によって救われてゆく。
    それは、自らの物語を生きる私たちの姿そのもののようで、感動的であった。

    この漫画が何の物語なのかと問われれば、やはりそれは「物語の物語」ということになると思うし、漫画として「物語を生きること」というテーマに果敢に挑んだその勇気は、称賛に値すると私は思う。

    • 10
  2. 評価:5.000 5.0

    因習と、運命と、愛と

    「りんごの村」に婿入りした主人公が村の禁忌を知らずに破ってしまったことで、妻が生け贄(的な何か)にされることになり…というストーリー。

    閉鎖的な村の伝承と因習を紐解いてゆく展開はちょっと横溝正史的というか、ある種のミステリーであり、民俗学をバックグラウンドに据えた舞台装置は、なかなか魅力的であった。

    だが、そのミステリーの「着地点」は、犯人がどうとかトリックがどうとか、そういうことにはなり得ない。
    何しろ相手は超自然であって、神様みたいなものだから、「解決」なんてあるはずがない。
    どうしたってミステリーがファンタジーの文脈へと回収されてゆくわけで、そのあたりの落としどころをどう定めるかという部分には結構、注目していたのだけれど、これはもう、見事という他なかった。

    そして、忘れちゃいけない、本作はラブストーリーなのだった。
    ミステリアスで、ファンタジックで、でも何より、ラブストーリーなのだった。
    共同体の中で揉み消され、「なかったこと」として忘れ去られていった愛は、逆らいようのない運命に踏み潰され、吹き散らされていった愛は、昔も今も(それこそ決して「物語」にはならない次元で)掃いて捨てるほどあったのだろう。
    しかし、因習にも運命にも命をかけて抗って、文字通り全てを失う覚悟で守ろうとした、優しくて穏やかだけれど、苛烈で壮絶なその愛の発露に、私は泣いた。

    • 4
  3. 評価:5.000 5.0

    怪談の節度

    「山」にまつわる怪談の短編集。

    この作者はホラー描写にとても安定感があり、変な言い方になるが(ホラーなのに)、安心して読める。

    怪談として、非常にセンスがいいと思った。
    全ての話において、「わけのわからない部分」を、慎重に残している。
    そうなのだ。
    いくら話として、あるいは画として、怖くても、正体とか因果関係がスマートに説明されてしまったら、ホラーは、弱くなる。
    わけがわからないことほど恐ろしいからだ。
    かといって、あまりにわけがわからなすぎても、読者はついてこない。
    そのあたりがバランスだし、センスなのだと思う。

    「わかるのは、ここまで」。
    本作はその抑制されたバランス感覚が素晴らしく、読む人に、何とも嫌なひっかかりを残す。
    その「嫌なひっかかり」こそがホラーの余韻であるし、怪談としての愛すべき節度であると私は思う。

    • 9
  4. 評価:5.000 5.0

    「楳図かずお」というジャンル

    超能力みたいなものを持つ主人公の少女「おろち」は、狂言回し的な役割(アウターゾーンのミザリーとか、ウシジマくんとかのポジション)で、彼女が関わる様々な人々の物語を描いたオムニバス。

    独特の表現力と、キレのあるストーリーで、一話一話の完成度が非常に高い。
    怪しく美しい絵柄もさることながら、オカルトの要素を用いつつ、人間の醜さ、あさましさ、嫉妬や憎悪や執念の恐ろしさ、そして哀しさを炙り出すような手腕には舌を巻く。

    「恐怖漫画」というジャンルを確立した楳図かずおの功績は、今さら語るまでもないけれど、登場人物がただ叫んだり笑ったりするだけの表現が、他のどこにもないホラーになり得てしまうというその圧倒的なオリジナリティーは、もう、「楳図かずお」というひとつのジャンルであると言ってもいいくらい、凄いと思う。

    • 17
  5. 評価:5.000 5.0

    静かで、グロテスクで、ロマンチック

    この漫画のことはだいぶ前から知っていたのだが、読む気になれなかった。
    というか、避けていた。
    理由は単純で、私がオリジナルの「寄生獣」をあまりに好きだからだ。
    大好きな作品について、アニメ化とか映画化とかスピンオフとかでがっかりさせられるのはよくある話で、「寄生獣」というのは、私にとって非常に特別な漫画であり、また「完成品」であって、何がスピンオフだ、と思っていたのだ。
    ましてや、別の作者で。

    しかし、読んでみてよかった。

    主人公はあの広川の息子である。
    最初は、主人公の造形が明らかにオリジナルの絵柄ではなく、違和感があった。
    だが、オリジナルのキャラクターたちの描写は、素人目に見ると、ほぼ完ぺきな「模写」であった。
    そのため、印象としては、「新しいキャラクターが、寄生獣の世界に紛れ込んでいる」という感じに近い。
    その違和感すらも一種の味として感じられたのは、スリリングでサスペンスフルで、それでいて「静か」である、というオリジナルの雰囲気に上手く近づけてあることが大きい。
    構成も非常に巧みで、テンポがいい。

    そして、何といっても、忠実に再現されたオリジナルのキャラクターたちが動いていることに、胸が躍る。
    広川、刑事の平間、田宮良子といった主要キャラクターはもちろん、「こんな奴まで」という名もなきマイナーなところまで、彼らの新しい物語をもう一度見られるなんて、何だか夢のような話だ。

    それはきっと、作者の、夢だったのだろう。
    「寄生獣」が私なんかよりずっと大好きで、「こんな漫画が描けたら」と思いながら漫画家になって、本当に「寄生獣」を描くチャンスを掴んだのだろう。
    それは、「あり得ない」はずのことだった。
    最初に書いたとおり、「寄生獣」は「完成品」だからだ。
    でも、あり得ないようなことだから、夢なのだ。

    静かで、冷たくて、グロテスクでありながら、存在自体があまりにロマンチックな、特別な意味を持つ傑作。

    • 25
  6. 評価:5.000 5.0

    頼むから

    問答無用で一気読みさせる力がある。
    この吸引力は、もう、超一級である。

    基本はいわゆるタイムリープもので、主人公は、無差別の大量殺_人犯として死_刑判決を受けた元警察官の父親の無罪を信じて調査を開始するが、事件が起こる前の時代にタイムスリップして…というストーリー。

    細かく見ていけば、タイム・パラドックス問題みたいな瑕疵は見つかるのかもしれないが、そんなもの、あったとしても、クソくらえである。
    あまりにもスリリングで、サスペンスフルで、リズミカルで、エモーショナルな展開力に、私は無条件降伏するしかなかった。
    参りました。
    すみませんでした。
    と、何も悪いことをしていないのに謝りたくなるくらい、凄かった。

    最新話までノンストップで一息に読んで、完結していないことに絶望した。
    頼むから早く続きを読ませてくれ。

    • 88
  7. 評価:5.000 5.0

    マサルの純真、ジャガーの悪意

    「マサルさん」と「ジャガー」の違いは、と考えると、それは「悪意」の所在なのではないかと思う。

    花中島マサルは、いわば「天然」系の主人公だった。
    というか、「マサルさん」の登場人物は、誰も彼も天然みたいなものだった。
    あれは、誰にも悪意のない、誰も傷つかない、実に優しいギャグ漫画だった。
    そういう意味でも、他人を貶して笑いに変えることがまかり通るこの世の中で、「マサルさん」は偉大な作品だったと思う。

    しかし、ジャガーさんは全く違う。
    彼は、悪意に満ちている。
    ジャガーさんどころか、ハマーにも、ロボットのハミィにすら、悪意がある。
    「ジャガー」は、「マサルさん」に比べて、かなりの毒を含む漫画であると思う。

    しかし、その悪意や毒を、読者に全く「毒」とは感じさせない。
    ジャガーさんがどれほど悪意に満ちた悪行をはたらこうとも、あくまでそれは、漫画の中では、優しく、マニアックでありながら妙にポップで、爽やかですらあるギャグへと昇華されている。
    このあたりが、うすた京介の稀有な才能なのではないかと思う。

    • 6
  8. 評価:5.000 5.0

    それは、革命だった

    当時、中学生で少年ジャンプを読んでいた私たちにとって、この漫画が与えた楽しさと衝撃は、尋常ではなかった。
    ジャンプの発売日の翌日、私たちは登校すると、真っ先に今週号の「マサルさん」について話した。
    同時期の連載に「スラムダンク」も「ダイの大冒険」も「るろうに剣心」もあったのに、何よりも「マサルさん」について話した。

    シュール・ギャグ、ナンセンス・ギャグ、呼び方は色々あるのだろうが、「マサルさん」の破壊力はあまりに斬新で、それは、私たちの世界にあった「笑い」のあり方を、すっかり変えてしまったのだった。
    それはほとんど、革命だった、と言ってよい。
    そんな漫画を、他に思いつけない。

    私は、あるいは私たちはもう、十年以上、「マサルさん」を読んでいない。
    しかし、今でもときどき、妻が私に、この漫画の言い回しを真似て語りかけてくることがある。
    革命、というのは、そういうことである。

    • 8
  9. 評価:5.000 5.0

    少年漫画としてのホラー

    嗚呼、もう、懐かしさで心が震える。
    ジャンプの「ホラー枠」といえば、これだった。

    基本的には「世にも奇妙な物語」系のオムニバス・ホラーで、今となっては珍しくも何ともないけれど、当時の少年誌の読者にとっては、漫画としてとても新鮮に感じられた。
    ホラー好きな少年漫画読者としては、もう、たまらなかった。

    当時、より大きな漫画のマーケットで見れば、ホラー漫画自体が流行っていたけれど、いわゆるホラー漫画雑誌に載っていたホラー漫画とは、明確に違った。
    それは、本作が、あくまで「少年漫画」の文脈を守っていたことだ。

    ホラーは、怖がらせたり不安にさせたりするのが本分だから、当然、善人が決まってみんなハッピーになってはいけない。
    何の罪もないキャラクターが、不条理に酷い目に遭うのがホラーなのだ。
    だが、「アウターゾーン」は違う。
    善良な生き方をしていれば、必ず報われる。
    そういう漫画だった。
    それは本来、ホラーとしては失格なのだ。
    しかし、本作は、ホラー漫画である以前に、少年漫画であることを選んだのだと思う。

    本作のアプローチは、ホラー漫画としては甘すぎても、少年漫画としては正しいと思うし、そういう甘ったるいホラーの温かさが、私は好きであった。

    • 15
  10. 評価:5.000 5.0

    完全無欠の細部

    14年前の事件の凶悪犯が出所し、小さな集落を訪れたことから、そこで暮らす人々の人生の歯車が狂い始める、というストーリー。
    あまりに素晴らしいサスペンスで、全く目が離せない。

    テンポよく、スリリングで、しかも極めて安定感のある展開、みなぎる緊迫感と立ち込める不穏さ、丁寧で奥深いキャラクターの造形、サスペンス漫画として何もかもが見事だが、強烈なリアリティーを力強く支えているのは、圧倒的なレベルのディテールだ。

    例えば、凶悪犯の「名前」の件。
    登場時、14年前とは、名字が変わっている。
    これを「偽名」だと主人公サイドは見抜くわけだが、読者サイドとしては、「そんなに簡単に名前を変えられるのか?」という小さな引っかかりは残る。
    本筋とそこまで関係なさそうだし、まあいいか、と私なんかは思うのだが、この漫画は、そういう細部をツメにツメる。
    「小さな引っかかり」をおろそかにせず、徹底的に拾い上げて、しかもそのディテールをいつの間にか本筋に繋げる。
    この上手さを何と言えばいいのか。
    私などの言葉では伝わらない。
    もう、読んでもらうしかない。

    些細なことと言えば些細なことだが、結局のところ、作品の完成度を左右するのは、そういう些細なことの集積なのではなかろうか。
    特に、伏線がものをいうサスペンスでは、なおさらである。
    その点、この漫画の気合いと緻密さは凄まじい。
    「神は細部に宿る」とは、こういう作品のためにある言葉だろう。

    完全無欠のディテールに支えられた、唯一無二の傑作。
    サスペンス漫画ファンは、必読である。

    • 16

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