4.0
古きよき王道
日常への奇妙な侵入者、明らかに邪悪な存在なのに、主人公以外は誰もそのことに気づかず、主人公は周りに信じてもらえず、孤立してゆき…というある種のサスペンスの王道的な展開。
真新しい話ではないが、漫画としてひとつひとつの恐怖演出が的を射ており、安心して(?)楽しめる怖さである。
非常に安定感のある、古きよきホラー漫画。
- 8
2位 ?
日常への奇妙な侵入者、明らかに邪悪な存在なのに、主人公以外は誰もそのことに気づかず、主人公は周りに信じてもらえず、孤立してゆき…というある種のサスペンスの王道的な展開。
真新しい話ではないが、漫画としてひとつひとつの恐怖演出が的を射ており、安心して(?)楽しめる怖さである。
非常に安定感のある、古きよきホラー漫画。
奇抜な設定とか、あっと驚く展開とか、ハラハラするようなスリルとか、そういうものがあるわけではない。
しかし、独特の空気感は秀逸で、情緒溢れる、という表現がぴったりくる漫画。
私が平安時代の人間なら「いとをかし」と言ったことだろう。
一話完結型のオムニバスホラー。
基本的にはローティーンを対象にした漫画だと思うのだが、意外にきちんとホラーだった。
もちろん、猟奇的な描写などはないのだが、毎回、甘い結末はほとんどなく、やるなあ、と。
題材は、いじめや恋の問題という古典的・普遍的なものから、ネットが絡むような現代的な怪談まで様々。
少女漫画としてのホラーが一大ブームを巻き起こしたのは過去の話で、今やホラー漫画雑誌なんてひとつもない。
けれど、その歴史の一部は、こんなふうに現代に生き残っているんだな、と思うと、ちょっと感慨深い。
基本的な作品のトーンは前作と同じで、相変わらず面白いのだが、一話のエピソードの尺は半分くらいになっており、その点は好みが分かれるかと思う。
よりサクサク読めるようになったという良さもあるが、そのぶん、キャラクターの掘り下げは浅くなり、重みのあるパンチはなくなった気もする。
個人的には、「新」ではないバージョンの方が好きである。
嗚呼、もう、懐かしさで心が震える。
今では、ホラー漫画を読んでも、本気の本気で怖がることなんて出来ない。
それが出来たのは、子どもだけだ。
だからこの懐かしさは、過去に触れた作品に対する単純な感慨ではなく、永遠に取り戻せない私自身の恐怖に対する感傷でもある。
様々な作者によるオムニバスであるがゆえに、なおさら、ホラー漫画雑誌を夢中で怖がれたあの頃が蘇る。
大人になって、ホラー漫画よりも遥かに恐いものをたくさん知った。
でも、マジでホラー漫画がトップクラスに恐かった時代も、あったのだ。
別にそれをいいとも思わない。
ただ、そんな時代も、あったんだな、と。
その思いは少しだけ、郷愁に似ている。
「口裂け女」というあまりにベタで古典的な題材を使いながら、決して埋もれることのない、ハサミのように切れ味鋭いホラーに仕上げている。
流石と言う他にない。
この漫画の口裂け女の「正体」そのものが、ある意味で、怪談話や都市伝説の核心を射抜いていると思う。
小さい頃、従姉妹の家に行くと、今はなきホラー漫画の雑誌が大量に置かれていた。
そのどれもこれも、表紙を飾っていたのは犬木加奈子の絵だった気がする。
当時の私にとって、犬木加奈子の絵は、たまらなく魅力的な怪しい世界への入り口に立つ道標のような、象徴的な存在だったのだと思う。
間違いなくひとつの時代を築いた作者であり、私のような子どもは、きっと日本中にたくさんいたことだろう。
二十年ぶりくらいに彼女の漫画を読み直して、やっと気づいた。
私は、犬木加奈子という人の絵が、好きなのだ、と。
というか、ずっと好きだったのだ、と。
それこそ漫画で、「君のことがずっと好きだったんだって、やっと気づいたよ」とかほざく阿呆な男がいるでしょう。
私はそのレベルである。
しかし、おかげで、これからこの人のホラーを読む度に、温かい気持ちになれることだろう。
そんな漫画は、私にはあまりない。
そして、そんなホラー漫画は、ひとつもない。
読み始めると、止まらなかった。
何ポイント献上したかわからん。
私がオムニバスを好きなこともあるが、それにしても、毎回、見事な安定感、そしてテンポのよさ。
何が凄いって、作品として、一貫して冷徹にルールを守っているところだ。
主人公は依頼人の寿命と引き換えに呪殺を請け負う死神みたいな存在だが、あくまで漫画の主人公だ。
だから普通は、もうちょっと融通が利く。
つまり、ルールを破る。
漫画の展開として、都合のいいことをやる。
具体的に言えば、「いくら何でもこの人が死ぬのは可哀想だろ」という人は、殺さない、とか。
言い方は悪いが、「死んでもいい」と読者が感じるようなキャラを、被害者に設定する、とか。
一度は請けた依頼でも、それが依頼人にとってあまりに悲劇的な結末(例えば勘違いによる呪殺など)をもたらす場合には、それを教えてやってキャンセルさせてやる、とか。
そういう展開は、基本的に、ない。
そういう甘さが、この漫画にはない。
物語としてサクッと感動を演出できるはずの「お約束」よりも、冷徹にルールを守ることを選んでいる。
そのぶれない姿勢は、作品として、とても美しいと思った。
「永遠の恋人」を探す不気田くん。
しかし、彼の不遇な運命により、彼の見初めた女性たちは次々に命を落とす。
主に不気田くんのせいで。
ところが、その度に新たな永遠の恋人がソッコーで見つかる。
この変わり身のはやさ。
そんで、その女性もやはり死ぬ。
不気田くんのせいで。
もう笑うしかない。
わたしはそんな不気田くんが大好きである。
愛は、難しい。
不気田くんのやっていることは最悪のストーカー行為だが、もし彼の想いが実ったならば、それは、美しい愛になり得てしまうわけであって。
いや、実ろうが実るまいが、愛は、愛なんじゃないの、と。
容姿が不気味だったりアプローチがちょっと変わっている(ちょっとどころじゃないけどね、実際)と、愛じゃなくなっちゃうのか、と。
どうなんでしょうか、と。
そういう意味で、この作品は、非常にインパクトのあるホラーであり、一方では完全にギャグであり、そして、愛とは何なのかを問いかける、異色のラブストーリーでもある。
ラストの「ある愛の詩」には、うっかり感動してしまった。
不気田くんは、自分の愛の敗北を認めたのだと思う。
しかし私は、不気田くんの愛もやはり、愛だったのだと認めてあげたい。
懸命な愛し方では、なかったかもしれない。
それでも、愛は、愛だったのではないかと。
だからこそ、敗北を認めた不気田君が、醜い彼が見せた全ての姿の中で、唯一、美しかったのではないかと。
様々な人々の運命と人間模様を、静かに、ドラマチックに描いた作品。
シリアスで、悲惨だが、どこか滑稽で、優しくて、私の大好きなコーエン兄弟の映画を思わせるような漫画であった。
基本的に一話完結(サイトだと二話)で、手軽に読める。
しかし、一話の密度は非常に濃い。
短い尺の制約の中で、毎回ここまでしっかり「人間」を描けるものなのか、と驚いた。
そこにあったのは、まぎれもなく、誰かの「人生」であった。
古い作品ではあるし、色々な描写に時代を感じる。
けれど、それらが違和感なくすっと入ってくるのは、描かれている人間の姿が、それだけ普遍的で、核心を突いているということなのだろう。
今も昔も、人間は等しく愚かで、哀しく、そして、素晴らしい。
そんな、皮肉と温かみをともに感じた。
小さな一話の中に、毎回確かな人生が詰まっている。
そんな漫画を、私はあまり知らない。
客観的に見ると、なかなか残酷な話ではある。
が、作品としては、とても救われている印象がある。
その理由は、単純だが、子どもの可能性、というものを、静かに、きちんと描いているからではないかと思う。
これほどの悲しみと、これほどの希望に満ちた「また会おうね」を、私は他に知らない。
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鈴蘭