とことんロジカルな展開が快感!エンジニアの夫に薦められた漫画6選を読んでみた
更新日:2018/03/22 10:00
ガチで理系エンジニアな夫に本気で薦められた漫画、読んでみたら予想通りロジカルな漫画でした。
情報工学科出SEで理系脳な夫と、国史学科出で文系脳の妻(私)。夫婦ふたり、たしなみ程度には漫画を読んでいるわりに、共有して楽しむものは歴史ものを除きほぼ皆無。つまり基本的にそれぞれがそれぞれのフィールドで気ままに楽しんでいるわけです。
先日家のタブレットで夫の蔵書目録を眺めていたら、「読んでみる?」と嬉しそうにあれ良いヨ♪これも良いヨ♪といろいろ推し出し始める夫。意外だったのは、待っていましたとばかりのその反応。困惑したのは、私や息子と言う同居人に気づかせることなく、あまりにも静かに蔵書を増やしていたこと。電子書籍怖い。
結局、どんな漫画を薦められたのか?数多の推し本に共通するのは「極めてロジカルな展開」「リアリティの追求」「ディテールへの強いこだわり」。
若干のドヤ感を醸し出しつつ夫が言うには 「普段からロジカルシンキングな仕事していると、漫画にもそういうものを求めちゃう」。 ゆえに「ロジカル、リアリティ、そしてディテール!」。はいはいはい、と。
自信たっぷりで薦めるだけはあって、引き込まれるものばかりでした。悔しいけれど。 そんなガチ理系脳かつ、どうしようもなくエンジニア脳な人は恐らく楽しめるであろう作品をまとめてみました。
①近未来の宇宙ものはずなのに、地に足がついているかのような圧倒的日常感
「プラネテス」幸村誠
時は西暦2070年代。舞台は宇宙と地球。登場人物は宇宙船で星間移動。SFですね。
とはいえ、イケメンのカリスマリーダー率いる反乱軍のビームをくらうこともなく、ピコポコ喋るロボットが足元をうろつくこともありません。
この「プラネテス」 (幸村誠/講談社) の主人公は星野八郎太(ほしの はちろうた)という青年。通称「ハチマキ」または「ハチ」。宇宙空間に漂う数多のデブリと呼ばれる宇宙ゴミの回収業者です。
華あるべき主人公の仕事としては珍しい職だな・・・。と思ったらやはり作中でも地味(しかし危険)な仕事というポジションでした。
彼が自身の夢をかなえるために木星往還船の乗込み員を目指したりする中で、宇宙の中の自分という存在について悩みたおします。同僚や家族とのあれやこれやのエピソードを挟みながら淡々とストーリーが進みます。
興味深かったのは、SFのはずなのに「地に足がついている」かのような圧倒的日常感。無重力が身体に及ぼす影響の記述も現実的で、エネルギー問題など物語世界で起こっている社会問題さえ絵空事とは思えず、これが近未来SFであることを時々忘れます。というより宇宙における職業漫画を読む感覚に時々陥ってしまいます。
将来人類が宇宙に移住なんて始めてしまったら、本当にこんな社会になるのでは、とも思わせてくれました。
宇宙は好きだけど、スペースファンタジーは好きじゃない人に強くお勧めします。
それに「宇宙兄弟」 (小山宙哉/講談社) や映画「オデッセイ」(2015)が面白いと思った人も気に入ると思われます。多分。
②読むほどに自分が逞しいファイターになっていく(錯覚)
「ホーリーランド」森恒二
中身をパラ見→「不良のファイトものか、私はムリかも。あまり興味ないし」。たぶん読めないと思っていたけれど、一度読み始めたら途中でやめられず、結局全18巻を一気に読み終えてしまいました。そして最後の最後で、えっ嘘!どういうこと?!と叫ばずにはいられない。絶妙なラストでした。
あらすじは元いじめられっ子・神代ユウの成長と、最強の元ボクサー伊沢マサキが抱える過去のトラウマ克服です。ふたりの出会いからストーリーが展開します。あらゆる格闘家とファイトを重ねるわけですが、柔道、空手、ボクシング、レスリング等、思いつく格闘技は概ね登場していると思われます。試合ではなく路上ファイトなので禁じ手なし。だから格闘技それぞれの強みを最大限に活かすことができるわけです。
そんなファイトもの作品である「ホーリーランド」 (森恒二/白泉社) 。どこにロジカル要素があるのか。大丈夫です。超ロジカルです。
ストーリーも面白いのですが、興味深いのはユウが関わる格闘技の持つ、独特の攻撃効果や弱点を語る長セリフです。主たる語り部として活躍したのはナレーター(著者)を除くと、元ボクサーの伊沢マサキですが、それはもう饒舌かつ理路整然、時に熱く時にクールにその役を全うします。
単に「こう動け、こう守れ」だと熱く読んでおしまいですが、骨格や筋肉の動きなどからの冷静な分析に、ごく自然にフムフムと腕や足を動かしながら読んでいました。
「路上で柔道はまじヤバい!!」理由にフムフム
「ボクシングはワンタイミング!」理由にフムフム
・・・もしかしたら自分はもう無敵かもしれない。
スポーツ理論ものが好きな方には合うのではないでしょうか。格闘ものとはいえグロ系の描写はなく目に優しいので、免疫がなくても大丈夫です。
- 青年漫画 ホーリーランド
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”神代ユウは高校生だが、学校にも家庭にも身の置き所がなく、自分の存在を確認できずにいた。ユウは...
③検証が命。キレキレの天才が数字で敵を論破する爽快さ
「アルキメデスの大戦」三田紀房
戦争モノ?と思わせるタイトルですが、さらにコアな戦艦モノです。
そして「アルキメデスの大戦」 (三田紀房/講談社) という作品名でなんとなくおわかりでしょうが、数学や物理学を根拠とする数字濃度高めの長セリフが氾濫しています。ちなみに登場するのは、ほぼほぼ軍服や背広を着た中年男ばかりです。私の場合は1度目に読んだ時は顔と名前を覚えるだけで終わり、2度目にしてようやくストーリー理解に着手できました。
あらすじは日本海軍の戦艦造りです。
1930年代、第二次大戦前の日本海軍が新しく建造する戦艦を巡り争いが起きます。一方は航空機時代到来を予測した空母建造派、もう一方は迫力で世界を圧倒させたい巨砲巨艦派。もちろんそこあるのは日本のためなどいう美しげな理念ばかりではなく、権力欲や金銭欲、名誉欲等あらゆる邪念が交差します。そこで空母派に登場したのが、数学の天才、櫂直(かい ただし)。彼の知識に基づく推察と緻密な計算、そして切れっ切れの論述で敵方を黙らせていきます。
興味深いのは敵方が作ろうしている大戦艦の名前で、それが「大和」なのです。実話?「大和」って、あの「大和」?でも主役である櫂直はその阻止を目論んでいる側なのだけど?まだまだ完結前の漫画なので、最終的にどんな形で着地するのか楽しみです。
権力者の邪念が盛り盛りなので、ドラマの「下町ロケット」や「半沢直樹」好きな方にお勧めします。 さらに戦艦つながりということで、「ジパング」 (かわぐちかいじ/講談社) が好きな方も楽しめるのではと思います。
④美術館において、作品の来歴やキャプションを読まずにはいられなくなる
「ギャラリーフェイク」細野不二彦
実在・架空取り混ぜですが、「美」がテーマの漫画です。といっても美術品だけではなく骨とう、文化財、遺跡等、ありとあらゆる「美」です。2005年にアニメ化もされましたが、実写でやればもっともっと迫力あるんじゃないかな、と思った記憶があります(製作費天井知らず)。
「ギャラリーフェイク」 (細野不二彦/小学館) というタイトル名と同じ名の贋作専門アートギャラリ―「ギャラリーフェイク」のオーナーのフジタとその助手サラの周囲で起こる、アートを巡るエピソードです。
彼自身の性格に難がある上に盗品横流ししたりと、裏社会にどっぷりと浸かっているため、トラブルには事欠きません。拉致監禁、某国スパイとの攻防、砂漠で遭難など、次から次へ災難ばかり降りかかります。でも最終的には仕掛けた相手をフジタが持つ鑑定眼や修復スキルを武器に論破したり騙し返したりして一件落着。多少チンピラくさくても知的な啖呵に軽い爽快感。
「美」が「美」である理由、もちろんそれを受け止める感性もこの上なく大切ですが、それをロジカルに説明できますか?劇中の滔滔とした語りを追っていると、これまで漠然と「すごい」なんてひとことで片済ませていた絵画にも、ちょっと識者ぶった感想を付け加えたくなります。ちなみにこれを読んだ直後の息子は美術館のショップでレプリカを手にとっては「これは・・・フェイクだ」と呟く人になりました。フェイクと言われましても。
囲碁漫画で急に碁を打ち始めたような人、音楽漫画で急にクラシックを聞き始めるような人、つまり漫画の影響で趣味が広がりやすい人にお勧めします。
- 青年漫画 ギャラリーフェイク
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⑤数学難題の出しあいっこという、鳥肌ものの知的な趣味
「天地明察」 槇 えびし (原作:冲方 丁)
ああ・・・学生時代こんな奴いたなと、数学マニアの面々を思い出させてくれる作品。難題に出会って感動するとか、逆に憧れ。ところで、これを読んでいる間は誰かが何かを解くたびに、心の中で「明察」としたり顔でうなずいたりしていました。うつりますね、あれ。
この「天地明察」 (冲方丁・槇えびし/講談社) は江戸期の改暦を巡るストーリーです。原作は冲方丁で、実写映画にもなりました。
主人公は囲碁名人で算術マニアの安井算哲(後の渋川春海)。その他、保科正之や関孝和など、歴史教科書では見たけれど時代劇では滅多にお目にかけない面々もちょいちょいと重要な役どころで登場します。
北極出地(北極星の位置から緯度を測る)と関孝和へのあこがれが主軸にストーリーはすすみますが、次第に改暦を巡る流れにうつります。算術と囲碁と天文、一見共通点のないモチーフなのに、最終的に改暦への情熱という1点に集約。その論理的かつ自然な着地にある種の爽快感。
冲方丁ファンにとってコミカライズは賛否両論あるかと思いますが、天文学や設問のくだりは漫画のようなビジュアルがあった方が理解しやすいメリットは大きいので、原作では理解不能な点を残してしまった方にもお勧めします。
また、いわずもがなですが、数学の問題を解くのが好きな方にもお勧めします。もちろん天文好きな方にも。現代の天文図見なれていると漢字で書かれている江戸時代のそれは新鮮です。
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「帝一の國」古屋兎丸
生真面目とギャグは紙一重。再認識させられた作品です。さらに、キャラたちが言い放つムチャな主張もその生真面目なオーバーアクションで「お、おう」と納得させられます。そんな妙な説得力が面白かったので、ロジカル漫画の列にくわえさせていただきました。2017年に実写映画にもなっていますね。ビジュアルの再現性が秀逸すぎて観たくなります。
あらすじは超エリート高校における生徒会長選です。命がかかってます。
「帝一の國」 (古屋兎丸/集英社) の主人公の赤場帝一(あかば ていいち)の野望は「総理大臣になり自分の国を作る」こと。そのために超エリート進学校、海帝高校の生徒会長を目指していくわけですが、造反、盗聴、贈収賄、裏工作、昨日の敵は今日の友、その他もろもろ票獲得工作に明け暮れる高校生。本業の勉強は大丈夫なんでしょうか。
ところで、現実世界の高校の生徒会が持つ権限ってどれほどでしょうか。私の母校のそれはイベントの代表挨拶係のようなものでした。なんか特別な決定権なんてあったっけ?程度の存在感。今どきは生徒の自治権が発達している学校も多いのでしょうが、この作品の生徒会には常軌を逸したレベルの自治権と将来性があります。そう、その力を得るために皆が皆、票集めに年中奔走したくなるほど。
帝一の彼女である美美子(みみこ)嬢と爽やかライバル弾(だん)くん。貴重な常識人キャラであるこの2人以外はみな、相当アクの強いキャラたちばかりのこの作品。彼らのうちの敵味方ポジションが最後の最後まで入れ替り変わり続けるので、目が離せません。
生真面目とコメディは紙一重。「テルマエ・ロマエ」(ヤマザキマリ/KADOKAWA/エンターブレイン)「聖☆おにいさん」 (中村光/講談社) がお好きな人には良いと思われます。もちろん政治まわりの権謀術数ものが好きな方にも良いかも(いや、違うかもしれない)。
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以上6点、ロジカルな長セリフを楽しめる漫画として紹介してみました。
理系脳をひとくくりにして、理屈好きとまとめてしまうのも偏見かもしれませんが、そういうのが好きでなくても(長ゼリフはとばし読みしても)、読む手が止められない作品ばかりなので、是非!
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作者
pacho40
10代以前は『りぼん』『花とゆめ』で育ってきた、アラフォー派遣社員。 もとは読書の間の緩衝材として、ライトでフワフワしたような漫画を読んでいましたが、最近は、夫(40代)と息子(10代)の影響で、未知だった分野にも手をだしつつあります。記事タグ
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