5.0
反則か、発明か
ごく短いエピソードの寄せ集め的な漫画、と書くと短編集かと思われるかもしれないが、違う。
こんなものは「短編」とすら呼べない。
ストーリーはないに等しく、誤解を恐れずに言えば、ほとんど漫画の体をなしていない。
反則ギリギリの作品であり、これを受け入れられない読者はたくさんいると思う。
だが、怖い。
この作品は、「瞬間」を捉えることに特化している。
それによって、ホラー漫画として稀有なリアリティーを獲得することに成功している。
世の中には色んなホラー漫画がある。
街にゾンビが溢れたり、心霊スポットで貞子ちゃんみたいなのが出てきたり、排他的な村でレザーフェイスみたいなのに襲われたり、何でもいいのだが、いくら作品が魅力的で、それに没入できたとしても、ふと我に返ると、いい大人であれば、誰もが思ってしまう。
「でもまあ、こんなこと、現実にあるわけないねんけどな」と。
だが、この作品は、違う。
ストーリーを放棄しているがゆえに、「何かわけのわからないものが見えた」という「瞬間」だけを描いているがゆえに、「こんなことなら、あるかも」という実に気味の悪いリアリティーを生んでいる。
ずるいだろ、そんなの。
一方では、そう思う。
「反則」と書いたのはそういう意味だ。
しかし考えてみれば、タイトルからもう、作者はそれを表明している。
これは「物語」などではなく、あくまで「種」なのだ、と。
その種は、漫画の中ではなく、私たちの現実の中で芽を出し、日常のふとした瞬間を侵食する。
私たちは、夕闇の帰り道に、深夜のベランダに、カーテンの隙間に、この漫画で見た、幽霊かどうかも不確かな、何かわけのわからないものの影を見るだろう。
その仕掛けはほとんど発明と言って然るべきで、ムカつくほど感心した。
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