5.0
ありのまま、なんて
例の「ありのままの~」が流行った頃、自分でも不思議なくらいあの歌が不快だった。
この漫画を読んで、その理由がちょっと、腑に落ちた気がした。
ありのままでいいとかよくないとか、生きることはそんなに単純ではないのだ。
欲求に振り回され、抑圧に引きずられ、あり得ないくらいの多様性を許された価値観と過剰な装飾品に囲まれて、誰かのようになりたくて、なれないことも知っていて、もがいて妬んで憧れて、人はときに、自分が何を望んで生きているのかすら、わからなくなってゆく。
そういう醜い何もかもに蓋をして、何が「ありのままでいい」だ、馬鹿言うな。
本当は何が欲しかったんだっけ。
自分がどんどん脱線していることに気づいていながら、引き返せない。
そんな人間の狂気じみた転落をあまりに正確に切り取っていて、そういう意味で、とても怖い漫画だった。
特に印象に残ったのは主人公の恋人の男で、その歪みきった依存心と執着の醜さは半端ではない。
これを女性の作者が描いているのかと思うと、その感性の異様な鋭さに寒気すら覚えた。
本当に、自分を見失わないで生きているだろうか。
読み終えて、私はそんなことを考えた。
私は今日も出かける。
新しいジャケットと、着古したジーンズと、お気に入りのハットと、優越感と自尊心と、自意識とコンプレックスで着飾って。
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