5.0
これも80年代
少女漫画が竹宮惠子から内田春菊へ移る実験期。作家性が模索されていたけど、共有の物語は失われていた。新しいトレンドを無国籍と形容するのが流行ったけれど、それは単に歴史がないというだけのことだった。吉野朔実は痛々しかった。
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少女漫画が竹宮惠子から内田春菊へ移る実験期。作家性が模索されていたけど、共有の物語は失われていた。新しいトレンドを無国籍と形容するのが流行ったけれど、それは単に歴史がないというだけのことだった。吉野朔実は痛々しかった。
これもあれも80年代、ちょうど「鬼龍院花子の生涯」なんて小説と映画が喜ばれていた。あれが「かっこいい男」「健気な女」の最高モダンな限界だった。少女漫画は男の子からもお父さんからも無視されて、理想のイケメン・理想のお転婆を作り上げた。結局2020年代、残っているのはこちら。槇村さとるは今でも読めるのに、当時の少年漫画が古びたことと言ったら。
バブル最中の日本の六本木、渋谷、港区!この時代の若者たちは、いつか繚乱日本が歴史的記念物になるなんて思いもしなかった。特に女性。ただただ、母親と一緒の人生は嫌だった。ロックもジャズも、西海岸も、彼女たちの服だった。
東京に住んで2年、それまでの浮世離れした生活一変して、自分で稼ぐようになりました。自分自身について貧困を考えたことはなかったけれど、東京でいろんな生活の人、特に若い女性の多様な生き方を見て、日本は行き詰まっていると思うようになりました。中村淳彦さんの同タイトルの本をわざわざ読んだのも、その懸念があったから。誰もが幸せになる世界はない。いずれ大半は進化の掟によって淘汰される。それは統計的に証明されていること。でも、やっぱり、その過程を逐一見なければならないのでしょうか。
こんな高い額とギリシャ彫刻の目鼻、特にノルマン特有の四角い顎、これで封建時代の日本と言われても誰も信じないし、作者自身、自分の作っている世界を信じていないとしか思えません。
池田理代子のフェミニズムは70年代に特徴的なもので、民主主義的な知性の加熱が生んだ高学歴で急激な教養主義的再教育を受けた女性が描いたバイポーラーな理想の自分。半分男で半分女、女王であり愛のスレイヴ。それだけを女と信じる人がどうやって女性の歴史を紐解けるだろうか。
力と愛、政治と愛の弁証法について、池田理代子はどこまで考えたんだろう。愛は政治で、権力のみが感情を生み出す、しかし、権力以上の権力がある、それは信仰だ。。。その意識が紫式部を導いていたけれど、池田理代子にはそんなものはない。いつまでも、高度経済成長日本のサブカルチャー的教養に裏打ちされた「女の生きにくさ」を唱えているよう。
外伝、スピンオフ。。。そんなものがいっぱい出ていてびっくりしました。池田理代子さんが作画をしていないというのは、指でも痛められたのでしょうか。元々のオル窓はとても情熱的な話で、実際にヨーロッパに住むと、池田さんの教養がいかに図書館的かということはわかります。ただ一つ、日本の戦後の民主教育は少女漫画で花開いた、ということは確か。オルフェウスの窓は大きな業績でした。スピンオフは必要なかったと思うけれど、ここから源泉に戻る人もいるかもしれない。
画力があるとかどうか、素人には分かりませんが、漫画でしか実現できない伝え方があると痛感しました。漫画でしかありえないのか、まずはっきりとした表現のイメージがあって、漫画は必然として生み出されたのか。そこまで考えてしまう。漫画家を模倣している漫画家が多い中で、漫画という表現方法を自ら生み出したみたいにすら思われる作家。
紫式部の源氏物語は社会小説、政治小説の堂々たるスケールを持っていた。現代では少し拗らせた中年の夢見る女子が作り出した、ひねくれたハーレクインロマンスとなった。ただ、「あはれ」とか、自然、とか、和歌、とか、山桜の大和魂、とか、そういう漠然としたパラダイムの広報力のおかげで何か深い思想があるみたいな印象を与えている。作者はこの1000年の物語を10代の少女が夢中になる読み物にした点で、その辺の学者よりも勲章もの。一方で、漫画の魅力が原典に接近するそれ以上の努力を妨げてしまったことは、源氏から深い文化思想や、グローバル世界における、西洋的ヒューマニズムを超える物語の可能性を探る、限りない展望を奪ってしまった。
紛れもなく、面白い。つまり、血湧き肉躍る面白さ。活劇の面白さと人間喜劇の面白さ。デュマの面白さであり、少年探偵団の面白さであり、漫画の真骨頂。作者の天才だけじゃないと思う。時代が生み出した物語だと思う。カリカチュアになってしまった現代では、この時代の漫画の底力は残っていないと思う。
小説もそうだけれど、漫画もこんな短編集がもっと欲しいものと思います。短編で光る才能をわざわざ長伸ばしして疲弊させる必要なんてない。
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少年は荒野をめざす