rokaさんの投稿一覧

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41 - 50件目/全150件
  1. 評価:4.000 4.0

    半ば狂人

    作者が、私の好きな押切蓮介の盟友である、ということで読むに至った。

    この清野とおるという人は、半ば狂人ではないかと思う。

    作者の実体験に基づく漫画だが、感性と行動力がぶっ飛んでいる。
    幽霊の存在を確かめたくて心霊スポット的な場所に行く、まではよしとしよう。
    そこでなぜか一人で酒を飲む、というのも、一般の理解からは遠いところにあるが、まあ、ギリギリよしとしよう。
    それによって得られる奇妙な昂揚感が病みつきになるというのも、ついでだから、セーフにしてしまおう。
    しかし、この男は、例えば幽霊が現れるという話を聞いたマンションの一室の前に、何も知らない自分の知人を、次々と連れて行く。
    彼らが何か霊的なものを感じるかもしれない、ということを期待して。
    ここだ、問題は。
    これだけは、まともな人間には絶対に出来ない。
    幽霊の噂がある場所だ、ということを後で明かして、「実はここってさー」などと怖がらせるためではないのだ。
    作者はあくまで純粋なデータ収集というか、心霊の裏づけ欲しさにこれをやっている。
    そんなことに人を巻き込むか、普通。

    変人を気取ったりライトな狂気を演じたりしながら、自分自身では「装っている」ことに気づいてすらいない、という人間は世の中に多くいる。
    「俺ってちょっと変わってるから~」とか言うアレである。
    まあ、それはいい。
    それはいいのだが、清野とおるは、全く違う。
    完全に自然体で狂気をまとっていて、マジで恐ろしい。

    別にこういう人が世の中にいてはならないとは思わないが、私は多分、友達にはなれない。
    この人の漫画を読むぶんには楽しい。
    だが、誰かが言ったように、遠くから悪魔に手を振るのと、悪魔と手を繋ぐのは全く別の話だ。

    そういうわけで、結局、押切蓮介も尋常ならざる人間かと思われる。

    • 10
  2. 評価:4.000 4.0

    限りなく等身大

    私の好きな押切蓮介の漫画家生活を描いたエッセイ風の漫画。

    私が初めて読んだ押切蓮介の漫画は「ミスミソウ」だった。
    今まで読んできた全ての漫画を思い返してみても、あれほど深く感情を抉られた作品というのは他にほとんどない。
    一体どんな人があんなものを描くのだろう、という興味はずっとあって、本作を知り、手に取った。

    本作を読んでしみじみ感じたのは、どんなに強烈な作品を世に送り出す漫画家でも、やはり人間なのだ、ということだ。
    それは当たり前の事実なのだけれど、私たちは基本的に、知らない。
    あのホラー漫画やあのギャグ漫画を描いている人々が、どんな日常の中で、何を思い、どんな地獄を抱えながら、ネームを提出しているのかを、知らない。

    だからといって、別に、本作で押切蓮介がわかったと言う気もない。
    作者、というものをナメてはいけない。
    エッセイだろうが日記だろうが、作品は作品であり、作者は作者であって、現実の人間ではない。
    ただ、この漫画で描かれた押切蓮介の姿は、限りなく赤裸々で、等身大に近いように思えたし、おどけながらも自分の血肉を紙面に塗りたくるような飾らない姿勢には、好感を持った。

    こういう生活の中から「ミスミソウ」が生まれたのかと思うと、何だかちょっと、胸が熱くなった。
    「ミスミソウ」は、あまりに心にかかる負荷が大きく、一度読んだきり、読み返す決心がつかないでいる唯一の漫画なのだけれど、本作の押切蓮介に敬意を表して、もう一度読んでみようかな、という気になった。

    • 6
  3. 評価:4.000 4.0

    振り回されるだけのミステリ

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    はっきり言って、この設定はずるいと思う。
    遺書が深読みやら裏読みやらいくらでも出来てしまうものである以上、後づけでいくらでも話が作れてしまうからである。
    その上、遺書は活字で書かれているわけで、偽造・捏造可能となると、そもそも遺書が本人によって書かれたものではないかもしれないとか、自殺ですらないかもしれないとか、そういうレベルのことまで何でもありになってくる。
    おそらく、連載開始時点ではそれほど今後の展開が緻密に練られていたわけではないだろう、という気がする。
    別にそれ自体を非難する気もないのだが、ここまで何でもありだと、読者に「推理」の余地というものがほとんどない。
    つまり本作は、「考えるだけ無駄」なミステリなのであり、それはもう、ミステリ漫画としては致命的だと思う。

    ただ、こんなこと言っておいて何だけれど、面白かった。
    プロットとしては変化がなく、三十人くらいの生徒たちがただただ自らに宛てられた遺書を公開していく、というだけの内容、ほとんど「何も起きていない」といっていい話であるにも関わらず、私は読むのを止められなかった。
    「彼女に何が起こったのか」という謎の一点でここまで引っ張れるのは、それなりに作品に力があるということなのだろう。
    また、「こういう系」の作品は、往々にして人が死にまくったり、人間離れしたサイコ学生が出てきたり、何かと「起こりすぎる」ことで興が削がれるが、そういうことがなかったのも、ポイントが高かったのかもしれない。
    要するに、「何も起きない」ということが、奏功したのかとも思われる。
    そう考えてみると、この「やったもん勝ち」のずるい設定を考案した時点で、本作はある部分、既に成功していたのかもしれない。

    読者の推理に対して排他的である、というミステリとしての致命傷を負っている作品ではあるが、「推理を楽しむ」ミステリではなく、「ただ振り回されるだけのミステリ」として、私はそれなりに楽しんだ。
    それを邪道と呼ぶかどうかは、微妙なところなのだけれど。

    • 32
  4. 評価:4.000 4.0

    レビューの是非

    ネタバレ レビューを表示する

    何も知らずに読みたかった。
    が、私は頭から「娘、または娘と夫の両方が死んでいるのでは」と疑いながら読み進めた。
    夫死亡説は離婚届のくだりでどうやらなさそうだったので、そうなると、娘一択。
    そういう目線で読んでいれば、必然的に、消費されない朝食とか、溶けていくだけのクリームソーダとか、主人公を奇異の目で見る周囲の様子とか、伏線は目につく。
    結果、よく出来ているな、という一定の感心はしたけれど、サプライズは得られなかった。

    娘の死に気づいたのは、私が鋭いからではなく、他のレビューによってである。
    さすがに、ネタバレありのレビューの中身は読まなかったが、レビューのタイトルなどで皆が「6話が」「6話が」と書いていれば、どうしても目に入るし、「嗚呼、これは6話でどんでん返しがある漫画なのね」という先入観は、どうしても出来てしまう。

    漫画、というか、作品におけるサプライズには、大きく二種類ある。

    ひとつは、作品に「どんでん返しがある」という前提で見ても、成立するサプライズだ。
    推理小説もサスペンス映画も、基本のサプライズというのは、こっちだ。
    読者や観客は、作品が自分たちを騙そうとしているな、という前提で見るし、あとは読者・観客の想定をどう裏切れるか、という勝負になるわけだ。

    もうひとつは、「そもそもどんでん返しがある作品だと思っていなかった」という種類のサプライズだ。
    推理モノやサスペンスとは違って、「えっ、そういう話だと思っていなかった」というサプライズである。

    本作は完全に、後者だ。

    そして重要なのは、後者の場合、「どんでん返しがある」ということ自体がネタバレなのだ、ということだ。
    問題はそのどんでん返しの内容ではない。
    どんでん返しがあると知ってしまった瞬間、サプライズのかなりの部分が失われるのである。

    今まで結構な数のレビューを書いてきて、他のレビューに恨み言を言うようなことはほとんどなかったのだけれど、今回はちょっと、残念だった。

    まあ、本作の場合、そのどんでん返しは「オチ」ではなく、言わばスタートのようなものなので、今後が楽しみなことに変わりはないのだが。

    • 63
  5. 評価:4.000 4.0

    唯一無比の勢い

    冷静に見れば、いくらホラー漫画とは言え滅茶苦茶で、突っ込みどころだらけなのだけれど、こちらが突っ込む余地を残さないほどの強烈な勢いでもって押し切られる。
    そして、冷静に見る、なんてことを考えたこちらが間違っていたのだ、というような気分にさせられる。
    楳図かずおというのはそういう無類のパワーを持った作家であって、ここまで来るともう、一種のスタンド使いみたいなものだと思う。
    私としてはもう、「参りました」と言う以外にない。

    • 8
  6. 評価:4.000 4.0

    あの子もこの子も

    いわゆる「スクールカースト」をテーマにした群像劇。
    女子高の人間模様が、それぞれの生徒の立場から描かれる。

    オムニバスで、テンポよく読んでいける。
    形式としては、好きな部類である。
    私は男子高だったから、これが現実の女子高の姿にどれほど近いのかは全くわからない。
    それに関する意見は、女性の皆さんに任せる。
    ただ、さもありなん、とは思ったし、個々の登場人物の描き分けは、それぞれに個性があって、パリッとキャラが立っていた。
    どのキャラクターの視線にも、光があり、影があった。
    群像劇として、単純に、よく出来ていると思って感心した。

    スクールカースト、という概念は厳然とあるとしても、その上位がハッピーで、下位が惨めだ、というほど、学校という社会は、というか、生きてゆくということは、単純ではない。
    私の好きな小説の中に、「何かを持っている人間はいつそれを失うかと怯えているし、何も持たない人間は一生何も持てないままなんじゃないかと怯えている、みんな同じさ」という意味のくだりがる。
    スクールカーストの最上位で肩で風を切って歩いているあの子も、何とか彼女にしがみついて生き抜こうとしているあの子も、下位でひっそりとうつむいているあの子も、実のところ、皆それぞれの痛みを抱えて生きている。
    どこに属してどう生きたところで、イージーモードの人生というのは、多分、ないのだろう。
    本作のスタンスというのは、そういった全てを、大人の興味本位の目線から笑うのではなく、少しずつでも彼女たちに寄り添おうとしたものであるように思えて、私は嫌いではなかった。

    • 3
  7. 評価:4.000 4.0

    言葉にならないその何かを

    「先生の白い嘘」から飛んできた。

    「これはちょっと言葉にならないよな」という、感情だったり、あるいは感情未満の感覚みたいなものだったり、自分でもそれが何なのかわからないような、ときにはそれが自分の中に存在していることにも気づけないような、あるいは認めたくないような、ぐちゃぐちゃの有象無象を抱えて、私たちは日々、生きている。

    それは別に、言葉にならなくていいものなのかもしれない。
    形にならなくていいものなのかもしれない。
    それは、そうなのだけれど。

    そんな、何とも表現されないままに、自分の中にたまっていったり、通り過ぎていったりする「何か」に、漫画という手段でもって形を与えたのがこの作品なのではないかと思ったし、私たちの言葉にならない言葉を翻訳するような感性と技術には、もう、感心するしかなかった。

    • 3
  8. 評価:4.000 4.0

    理想的なタッグ

    話としてはそこまで凝ったミステリ的な深みはないが、それでかえって、漫画としての勢いで読ませる、コンパクトでスリリングな作品に仕上がっている。
    ストーリーはシンプルな反面、道中で様々な小道具を駆使して盛り上げるのも、まさに匠の技である。

    心理描写の雰囲気なんかは完全に「カイジ」のそれで、「絵」なしで作者のカラーを感じさせるというだけでも、福本伸行の色の濃さは大したものだと思う。
    ただ、これで「絵」が福本伸行だったら…と考えると、正直、これほど緊張感のあるサスペンスになったかは疑問符がつく。
    そういう意味でも、本作のタッグは理想的だった気がする。

    話の尺も、絶妙なところ。
    これはもう、一気読みするしかないだろう。

    • 2
  9. 評価:4.000 4.0

    抜群の展開力

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    壮絶ないじめを受け、挙句の果てには屋上から落とされた主人公が、落下地点で教師と激突し、その教師と精神が入れ替わる、というところから始まる復讐の物語。
    うんざりするほど量産されてきた典型的な「いじめ→復讐」系の漫画ではあるのだが、烏合の衆とはレベルが違い、これがもう、滅法面白い。
    完全にハマってしまい、最新話まで一気読みした。

    細かい点を見れば、教師の肉体で女子生徒と関係を持ってしまう主人公の行動原理だとか、無能すぎる警察だとか、特に後半では「精神の入れ替わり」を周りの人間があっさり信じてしまうとか、突っ込みどころは豊富にあるのだが、そんなものは些事に過ぎないと断言したくなるほど、本筋がマジで面白すぎる。

    本作の突出した魅力は、その「展開力」だと思う。
    緻密な構成力、というのではなく、どちらかと言うと荒っぽいのだが、とにかく話を勢いよく転がしていくのが、上手い。
    その展開力、ストーリーの推進力を支えているのは、キャラクターのドラスティックな変貌ぶりで、メインの登場人物の多くが、作品開始時とはまるで違う印象になる。
    半端な変化ではなく、熱血漢の教師が極悪人のサイコ野郎になり、いじめに加担していたクズ女がヒロインになり、役立たずの端役が女神になる、という具合である。
    しかも、それらに決定的な違和感がない。

    いやー、久しぶりに漫画で少年時代のワクワクを思い出した。
    これほどまでに手垢にまみれたジャンルで、今更これほど胸が高鳴ろうとは、驚きであると言う他にない。
    ありがとうございました。

    • 8
  10. 評価:4.000 4.0

    ホラーの二重奏

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    土着系、民族系のホラーで、小説が原作(未読)。
    個人的には好きなジャンルで、軽度な(よく言えばポップな)民俗学のバックグラウンドで味をつけた「ぼぎわん」の存在感はなかなか面白かった。

    題材は目新しいものではないが、本作の見せ場は構成の妙で、原作がホラー大賞を受賞したのも、おそらくこの構成力が評価されたのが一因かと思われる。
    三部構成で、第一部が夫、第二部が妻、第三部が事件を追う記者の視点から、それぞれ綴られる。

    私は、第一部から第二部への切り替えの見事さに感心した。
    第一部を読むと、語り手の夫は普通のサラリーマンで、妻と子どもを守るために怪異に立ち向かうオーソドックスな主人公として映るのだが、まずこの夫が、第一部のラストで死ぬ。
    そして第二部では、その夫が、妻から見れば、実は半ば死んでほしいくらいに疎ましい男だったことが明らかになる。
    この描写が、凄い。
    何が凄いって、夫が実は不倫をしていたとか、とんでもない過去の秘密があったとか、そういうことは一切なく、ただ単に、夫が見ている世界と妻が見ている世界が全く違った、という描き方をしている点である。
    現実とは多くの場合、こうなのだろう。
    主観と客観のズレ、というか、誰かの主観と誰かの主観のズレ。
    「寄生獣」の中で、ミギーが「仮に魂を入れ替えることが出来たなら、全く違う世界が見えるはずだ」という意味のことを言っていたが、私たちはそういうズレの中に生きており、そのズレが許容量を超えて乖離したとき、例えば夫婦関係が破綻したりする。
    それに気づかないのはだいたい男の方で、本作も然りである。
    本作はいわゆる「人怖」のホラーではないが、「ぼぎわん」という怪異の恐怖と、人間関係にまつわる人の愚かさという一種の恐怖が二重奏となって、とても興味深かった。

    ところが、問題は第三部である。
    「ぼぎわん」という正体不明の怪異を描く第一部。
    オカルトの恐怖に人間関係の恐怖を重ねつつ、謎解きが進む第二部。
    そして第三部は、雑に言うと、霊能バトル漫画に近い、イメージ的には。
    どうしてこうなったんだろう、と私は首を捻ったが、もしかしたら作者が本当にやりたかったのはこれなのかもしれない。
    だとしたらしょうがない。
    しかし、私はこのジャンル変更みたいな展開にどうにも乗っかれず、第二部までが楽しかっただけに、ちょっと残念だった。

    • 5

設定により、一部のジャンルや作品が非表示になっています