4.0
貞ちゃんの心象風景
例えば「番町皿屋敷」というクラシックな怪談がある。
井戸からお菊ちゃんが出てきて「いちま~い、にま~い」と皿を数えるアレである。
これは当然、怪談の古典、悪く言えば時代遅れだ。
「いや、井戸とかねえし」というのが現代だからだ。
「皿割っちゃった?メルカリで買えばよくね?」というのが現代だからだ。
「リング」はもう、このあたりから凄くて、「井戸」という古典の怖いモチーフを踏襲しつつ、貞ちゃんは井戸から出てきてしかもテレビから出てくる、という二段構えであって、「いや、井戸とかねえし」という現代人の安全圏を取り払った。
しかし、そこからまた、時代は進んだ。
「呪いのビデオ」なんて言われても、もはやVHSなんか誰も見ない。
かといって「呪いのBlue-ray」とかだと、イマイチ怖くない。
実のところ、貞ちゃんもいつの間にか「時代遅れ」になったのだ。
本作は、終末世界を行く二人の少女と貞子のロードムービー的な漫画なのだれけれど、人類がほとんど滅びてもう呪う相手がいない、という世界は、何だか現代における貞ちゃんの心象風景みたいに感じられた。
無邪気な二人と、どこまでいっても悪霊でしかない貞子の、決して大団円を迎えるはずのない、可愛らしくもどこかもの悲しい道行き。
結末はわかっていたはずなのに、それでも少しだけ、胸が軋んだ。
そんなふうに作品を閉じかけておいて、ラストのラスト、貞子をもって「いや、私ってホラーの人なのよ」と唐突に主張させるような幕切れが、実に素晴らしい。
現代において改変され増殖され消費され続ける貞ちゃんの物語の中で、唯一、本作はちょっと、腑に落ちた。
-
6
終末の貞子さん