rokaさんの投稿一覧

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341 - 350件目/全512件
  1. 評価:5.000 5.0

    ホラー漫画への愛情

    1990年代に、空前のホラー漫画ブームがあった。
    その象徴とも言うべき存在が犬木加奈子だった。
    当時発刊されていたホラー雑誌10誌の全ての表紙を犬木加奈子が担当することさえあった、と言えば、その凄さが伝わるだろうか。
    私は、そんな時代に、従姉の家でホラー漫画雑誌を読んで育った、犬木加奈子チルドレンであった。
    しかし、時は流れ、全てのブームと同じようにホラー漫画ブームも終わり、ついに、ホラー漫画雑誌そのものが日本に存在しなくなった。
    私が、あるいは私たちが、あれほど夢中になって震えたホラー漫画の時代は、終わったのだ。

    今の時代に、「こういう漫画」というのは、もう読めないのではないかと思っていた。
    だから、初めて読んだときは、初めてなのに、あまりの懐かしさに心が震えた。

    暗すぎる絵、終始陰鬱なトーン、不意な残酷描写、他の何の漫画でもなく、これはホラー漫画なのですよ、というベタで優しい雰囲気、そして、見方によっては、半分ギャグ。
    何もかもが、「あの頃」のホラー漫画だと思った。
    どこまでもノスタルジックで、徹底的に時代遅れをやりながら、しかも、古臭さを感じさせない。

    失礼な言い方かもしれないが、この作者は、現代における犬木加奈子の後継者ではないか、と思った。
    決して誇張ではなく、現代のホラー漫画界において、希望であるとすら思った。

    この作者には、ホラー漫画への本物の愛情があると、思ったからだ。

    私はもう、恐怖を求めてホラー漫画を読んでなんかいない。
    そういう時代は、ホラー漫画ブームの終焉と同じくらいのタイミングで、終わったのだ。
    二度とは帰れない。
    私がホラー漫画に感じているのは、単なるノスタルジックな感傷に過ぎない。
    純粋に怖がれる心を失ってしまった大人として、かつて私を震え上がらせてくれたものへの淡い憧憬を、惰性で追いかけているに過ぎない。
    でも、いくぶん肯定的に言わせてもらえば、私はずっと、ホラー漫画に対する愛着を、あるいは愛情を、捨てきれずにいるのだと思う。

    だから私は、この漫画を永遠に支持する。

    • 19
  2. 評価:4.000 4.0

    続・原作への愛情

    「鉄鼠の檻」のレビューにも書いたが、この漫画家の、京極堂シリーズに対する思い入れの強さと、作品に対する理解と、そして愛情は、半端でない。
    そこは、本当に凄いと思う。

    ただ、本作、「鉄鼠」に比べると、ちょっと漫画的な誇張というか、胡散臭さみたいなものを感じてしまった。
    星をひとつ引いたのは、それゆえである。

    ただまあ、その欠点は正直、京極夏彦の原作段階での失態なのかもしれないが。

    • 5
  3. 評価:2.000 2.0

    ホラーに向かない

    非常勤の教師が、周りから疎まれている女子生徒の相談に乗ったら、その子がとんでもない地雷だった、という話。

    主人公の教師は、本気で生徒を救おうとしたわけではなく、彼女の問題を解決できれば本採用の可能性がある、という打算から行動しており、そのあたりのリアリティーは買えた。
    また、主人公が理想に燃える教育者ではないゆえに、彼が酷い目に遭わされても、読者としてはあまり心が痛まない。
    その点も、気軽に読める、という意味ではよかった。

    ただ、こういう言い方は本当に申し訳ないのだが、ホラーとしては、絵が致命的ではないかと思う。
    ホラー小説、ホラー映画、ホラー漫画、もちろん、それぞれによさがあるが、ホラー漫画の強みというのは、やはり「絵」がもたらす一撃の破壊力ではなかろうか。
    (その点、押切蓮介なんかは、基本は軽い印象の絵なのに、本当に凄いと思う。)
    この漫画には、ホラーとしての強さを感じさせる絵が、全くない。
    というか、この絵柄で、それはちょっと無理だと思う。
    この作者は、「恨まれ屋」という別の漫画でも、絵柄が「恨み」というドロドロしたテーマに合っていない、と感じたが、今回もまた然りだった。

    絵の上手い、下手、以前の問題として、合っていない、というのは、私はどうしても受け入れられない。
    ホラー漫画は、特に、である。

    • 5
  4. 評価:4.000 4.0

    現代版・乱歩

    江戸川乱歩という作家は、確かに少年少女向けの探偵小説を書いたし、私も子どもの頃、それで乱歩を知った。
    だが、本質的には、非常に倒錯的で妖艶で淫靡な、「少年少女お断り」的な作品こそが、乱歩の真骨頂だったのだろうと思う。
    そういう乱歩の作品の空気感を、最も強烈に具現化したのは、別の漫画だが、「パノラマ島綺譚」ではないかと思う。

    「パノラマ島綺譚」が、乱歩の作品をそのまま漫画に「再現」したものだとすれば、この「孤島の鬼」は、乱歩の作品を現代的な漫画の文脈の中で「再構築」したものだ、という印象を受けた。

    そのどちらが優れているのかは私にはわからないし、そこに優劣はないのかもしれない。
    ただ、個人的な好みの問題としては、「パノラマ島綺譚」に軍配を上げたくなった。

    • 10
  5. 評価:4.000 4.0

    可愛くて不穏

    少女漫画をほとんど読まない、心の汚れた私は、少女漫画のキャラクターに対しては「いや、そんな奴おらんがな」という無粋な感想を抱きがちで、この漫画の主人公の女の子に対しても、それは同様だったのだけれど、漫画のキャラクターとしては非常に丁寧に描き込まれている気がして、比較的すっと受け入れることが出来た。

    作品としては結構異色で、微笑ましい可愛さの中に、不意に、ミステリ的というか、サスペンス的というか、何とも不穏な空気が漂い始める。
    この奇妙なアンバランスがなかなか魅力的で、不穏が大好きな心の汚れた私は、この先その不穏がどう炸裂するのか、楽しみである。

    • 3
  6. 評価:4.000 4.0

    死者を抱えて

    子どもの頃、従姉の家に大量にあった、今はなきホラー漫画雑誌で読んだ。
    当時、私は何となく、この漫画が苦手だった。
    この漫画の持つ、何となくもの悲しい空気が、ホラーとは別の意味合いで、怖かったのだと思う。

    大人になって読み返してみて、この漫画で描かれている悲しみというのは、死者を抱えて生きることの悲しみではないか、と思った。
    そして、その悲しみは、この漫画の主人公のように、霊を見ることの出来る人間だけが背負う悲しみではない。
    私たちの誰しもが、いずれは、死者を抱えて生きるしかないからだ。
    そういう意味では、特殊な能力を持つ人間を主人公にしながら、とても普遍的なことを描いた漫画である、と言えるかもしれない。

    幼い私には、いつかは自分も死者を抱えて生きてゆかなくてはならないのだ、という真実は、いささか重すぎたのかもしれない。

    • 6
  7. 評価:2.000 2.0

    設定の面白さ、底の浅さ

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    一言で表すなら、「もったいない」漫画だと思った。

    「消したい感情を消せる」能力、という設定は面白いと思った。
    ネガティブな感情、例えば恐怖だとか怒りだとか嫉妬だとか、そんなもの、感じている最中は誰だっていい気はしない。
    だが、ネガティブな感情やコンプレックスが人間のモチベーションになり得るのはよくある話だ。
    だいたい、負の感情だって欠くことの出来ない私たちの一部なのであって、その一部分だけを都合よく消去しようとすれば、人間はあっさり破綻するだろう。
    そのあたりを、どう広げて、掘り下げて、ストーリーに仕立てるのか、というのが、私のこの漫画に対する期待だった。

    しかし、まあーその掘り下げが浅いの何の。
    「恐怖を失ったら、車に轢かれた」
    「怒りを失ったら、にやにやした何か気持ち悪い人になった」
    「嫉妬を失ったら、アイドルをやる気がなくなった挙げ句、狂信的なファンにバットで殴られた」
    おいおい。
    いくら何でも浅すぎる。

    余談だか、昔ジャンプに「マインドアサシン」という漫画があった。
    主人公は医者で、相手が「消したい記憶」を消せる、という能力を持つ。
    設定がちょっと似ているが、はっきり言って、「マインドアサシン」の方が百倍面白いので、興味のある方は、是非どうぞ。

    • 80
  8. 評価:4.000 4.0

    法医学と哲学

    法医学、という分野に何の知識もなかったので、新鮮に楽しめた。
    いや、むしろ、法医学に何の知識もなかった「けれど」楽しめた、ということに価値があるのかもしれない。

    一話のエピソードは短めで、比較的ライトなミステリ調であり、いい意味であまり頭を悩ませずに、サクサク読める。

    スーパー法医学者の桐山ユキは、冷たいようだが一本筋は通っていて、強い価値観というか、確固とした職業観念に基づいて生きていることを感じさせるキャラクターであり、なかなか魅力的だった。
    「死んだら一人だよ。一人ずつ冷たい解剖台の上に寝かされる」
    という台詞には、彼女の哲学が垣間見えたような気がして、結構グッときた。

    • 2
  9. 評価:2.000 2.0

    フィクションのキャパ

    殺_人オークションサイトのアイデア自体は面白いと思った。
    競り落とされるのはあくまで殺_人の「方法」であって、殺_人を行うかどうかをオークションの参加者が決定するわけではないから、上手い具合に罪悪感が軽減され…ということなのだろうが、そのあたりの掘り下げは浅く、単にアイデアを放り出した感が強い。
    しかしまあ、新しいには新しく、「殺害方法を選べる、というだけの権利に億単位の金を払う人間がいるわけねえだろ」というツッコミは、ひとまず飲み込んだ。

    しかし、ストーリーの整合性のなさはひどいもので、特に終盤の展開は必然性もクソもない、典型的な「どんでん返しのためのどんでん返し」の羅列であり、悲惨なほどである。
    こうなると、先にこらえたツッコミが復活して、細かいことにも腹が立ってきた。
    映画「セブン」や、別の漫画「ミュージアム」をかなり参考にしているはずだが、そのことにも腹が立ってきた。

    根本も末端も破綻しすぎている。
    いくらフィクションとはいえ、これを許容できるほどのキャパは、私にはない。

    • 2
  10. 評価:4.000 4.0

    その罪が愛ならば

    表題作「月光」と「LOVER SOUL」の二本立て。

    「よろこびのうた」を読んだ後、本作を読んだ。
    「よろこびのうた」では、認知症、老老介護、児童虐待、といった現代の問題が題材だったが、本作では監_禁、殺_人、そして即身仏である。
    やはり、ポップな絵柄からは想像しにくい、ヘビーなモチーフを描いている。

    共通するテーマは「罪」ではないかと思った。

    「よろこびのうた」も「月光」も「LOVER SOUL」も、登場人物たちは皆、罪に手を染める。
    それは、現代の日本の法律の中では確かに「罪」なのだけれど、読む人がその罪を簡単に否定できないような世界を、この作者は漫画の中に構築する。
    その罪が、優しさであるとき。
    その罪が、慈しみであるとき。
    その罪が、使命であるとき。
    そして、その罪が、愛であるとき。
    私たちはそれを、どう感じ、どう受け止めるのか。
    そんなことを、ずしりと重く、それでいてポップに、読者に提示するこの作者が私は好きだし、今後どんな作品を届けてくれるのか、とても楽しみである。

    • 7

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