rokaさんの投稿一覧

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351 - 360件目/全512件
  1. 評価:5.000 5.0

    これが愛じゃなくて、何なのだ

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    実際の「福井火葬場心中事件」を基にした、いい意味で、極めて現代的な漫画。
    心が震える傑作である。

    認知症、老老介護、児童虐待、という現代社会のヘビーな諸問題を題材にしており、ある意味では悲壮な物語であるけれど、シンプルでポップな絵柄が、絶妙なバランスを生んでいる。
    これは、漫画だから出来る素晴らしい表現のひとつだと思う。

    興味深かったのは、この漫画で描かれる、日本の古い共同体の姿である。
    閉鎖的な限界集落で、八つ墓村的というか、今の時代、こんな共同体に魅力を感じる人間はまずいないし、私自身、否定的なイメージをずっと持っていた。
    しかし、主人公の妻が犯した罪を、地域の住民皆が協力して隠し通そうとする姿には、胸が熱くなった。
    悪く言えば、そういう隠蔽体質というのは、日本の古い共同体のネガティブな側面そのものなのだけれど、それを真逆から描いてみせたような抜群の切り返しには、思わず唸った。

    生き方を選ぶということは、ある意味で、死に方を選ぶことと等価であると私は思う。
    これは、老夫婦が死に方を選択する物語であり、そして、究極のラブストーリーでもある。
    結末は、悲しくて悲しくて、でも、これ以外もこれ以上もきっとないんだ、と思って、涙が溢れた。
    だって、これが愛じゃなくて、何なのだ。

    • 13
  2. 評価:5.000 5.0

    妖怪と現代

    動物園のように妖怪を展示する「妖怪園」を舞台にしたコメディ。

    私のような妖怪オタクには素晴らしい拾い物だった。
    妖怪園、行きたい。
    マジで行きたい。

    かつて、水木しげるが「妖怪保護区のようなものを作りたい」と話していた。
    時代の変化とともに妖怪は絶滅の危機に瀕しており、保護する必要がある、というのが水木しげるの主張だった。
    冗談のように聞こえるが、マジな主張だったのではないかと私は思う。
    そして、動物園の役割が、時代とともに、単なる「見世物」ではなく「保護区」も兼ねるようになってきた(パンダなんかはその典型だろう)みたいに、この漫画の妖怪園も、そんな保護区として感じられ、心が温まった。

    基本的にはコメディで、それぞれの妖怪にからめた時事ネタの使い方が、実に上手い。
    爆笑、というより、微笑みがいっぱい、というタイプのコメディである。

    時代が変われば、人も変わる。
    妖怪も変わる。
    水木しげるが言ったように、現代の夜は明るくなりすぎたし、妖怪たちはもう、江戸時代のような姿では、私たちの前に現れてはくれないだろう。
    それでも、妖怪という素敵な存在は、その姿を自在に変えながら、この国で、ずっと生き残っていてほしい。
    私はそう思うから、その生き残り方のひとつの形を、この漫画の中に見たような気がして、何だか感動してしまった。

    • 32
  3. 評価:3.000 3.0

    比較の問題として

    京極夏彦の原作の雰囲気をなかなか丁寧に表現しているとは感じたのだが、残念ながら、この漫画の直前に読んだ「鉄鼠の檻」(作画は別の作者)が凄すぎた。

    短編と長編の違いもあるから、単純な比較はフェアではないけれど、それにしても、原作の空気の再現度、登場人物の造形の巧みさ、世界観の厚み、表現のインパクト、どれをとっても「鉄鼠」が圧倒的であり、本作は完全に霞んでしまった。

    そういうことで、評価は厳しめになってしまったが、決してつまらない漫画ではなかった。

    • 2
  4. 評価:4.000 4.0

    奥様は怨霊

    どういう経緯かはわからないが、妻が怨霊である、という夫婦のホラー・コメディ。

    ホラー映画の典型みたいな描写や展開を逆手にとって、巧みにギャグ化している。
    怨霊である妻の行動は、「幽霊が頭につける三角のやつを洗濯物として干す」「夫が忘れた弁当を届けに会社のトイレの鏡から現れる」など、かなりキレがあり、細かい着眼点が面白い。

    B級ホラー映画がしばしば「こんなのギャグじゃねえか」と感じられるように、もともと、ホラーとギャグは紙一重みたいなところがある。
    そういうホラーの特性を上手く利用した、なかなか斬新で、楽しい漫画であった。

    • 2
  5. 評価:3.000 3.0

    普通に奇妙

    「世にも奇妙な物語」的な連作短編。
    一話完結(サイトだと二話)で、私はこういうサクサク読める話は好きである。

    ただ、いたって、普通。
    普通の、奇妙な物語。
    「世にも奇妙な物語っぽい漫画だよ」と紹介されてあなたが想像するとおりの漫画だと思って間違いない。
    まあ、こちらとしてもそれ以上の何かを期待して読んだわけではないから別にいいのだけれど、本当に、普通。
    よく言えば安心感があるし、悪く言えば驚きがない。
    もう一度言うが、普通。
    そんな本作に捧げる星は、三つ。

    • 2
  6. 評価:5.000 5.0

    原作への愛情

    今まで、「原作あり」の漫画には、ほとんど星五つをつけてこなかった。
    当たり前だが、漫画は、絵と、話だ。
    その「話」の部分がオリジナルでない作品に対して、最上級の評価をするというのは、正直どうなんだ、と思っていたからである。
    しかし、これは文句なしに例外だ。
    素晴らしい。

    京極堂シリーズの小説は、「姑獲鳥の夏」「魍魎の匣」「狂骨の夢」までは学生時代に読んだけれど、それ以降は、何しろ長すぎて、私の読むスタミナが落ちたこともあり、完全に脱落していた。
    未読の「鉄鼠」を漫画でクリアしてしまおう、という魂胆で読んだのだが、大当たりだった。
    小説版が喚起するイメージとあまりにぴったり合致したキャラクターたちがそこにいて、京極夏彦の小説を漫画化するならこれ以上は望めないだろう、という再現度の高い世界観がそこにはあった。

    それにしても、こんなの、よく漫画にしようと思ったな。
    「姑獲鳥」くらいならともかく、この「鉄鼠」は、難解な禅の世界、複雑極まりない仏教の宗派とその歴史がベースにあり、とても漫画として成立させられそうなストーリーではない。
    だいたい、次から次へ出てくる大量の坊主たちを、わかりやすく完璧に描き分けるだけでも大したものだ。

    正直、「原作あり」の漫画の中には、売れる題材を「利用」しているだけだわな、と感じられてしまうものもある。
    もちろん、商売だから、そういう面があって然るべきなのだけれど、原作のファンとしては、そんな思惑が透けて見えるような作品には、寂しさも感じる。
    だが、私が「鉄鼠」から感じたものは、全く違った。
    半端ではない原作への理解度の深さと、絶対にこの小説を再現してみせるのだという圧倒的な意志力が、紙面から立ち上っているようだった。

    この漫画を成立させたのは、当然、技術的な面もあるけれど、一番大きいのは、原作に対する漫画家の強烈な愛情、それ以外にはないと思う。
    その愛情の深さに、私は感動した。
    原作にとってこれほど幸福な漫画化の例を、私は他に知らない。

    • 22
  7. 評価:4.000 4.0

    未来なき強み、死に場所を探して

    ネタバレ レビューを表示する

    わずかな余命を宣告された孤独な老人が、ふとしたきっかけから家族の温かみを知るが、その家族が殺され…というところから始まる復讐劇。
    あまりに悲惨な設定に胸が痛むが、だからこそ、老人の凄惨な復讐を全面的に肯定できた面もある。

    また、「引っ張りすぎだろ」という漫画が巷に溢れる中、極めてコンパクトな尺に収めてある点も、個人的には評価ポイントだった。

    主人公はいたって普通の老人である。
    が、復讐というのは多かれ少なかれ、その後の自分の人生をも犠牲にするものだ。
    その意味では、老い先短い人間ほど、復讐に全てを賭けられる、と言えるかもしれない。

    「先のことなど考えない」は若者の専売特許であるように聞こえるが、状況的に考えれば、むしろそれは老人の強みであって、「未来なんかもうねえよ」というのは、ある意味、最強の開き直りである。

    この高齢社会にあって、漫画の読者層だって一定数は高齢化していくわけで、昔に比べて漫画というメディアの対象年齢が広がったことを考えるにつけても、今後、「未来なき強み」を持った老人を主人公に据えた漫画は、増えていくかもしれない。
    「少年」である読者が主人公の「少年」の活躍に胸を躍らせるように、「老人」の読者が主人公の「老人」の生きざまに胸を熱くする時代は、もうすぐそこに迫っているのかもしれない。
    あるいは、その時代はもう、始まっているのか。
    そのうち、「老人漫画」なんてジャンルが出来ちゃったりしてね。

    本作は、あり得ないくらい不幸な物語だが、皮肉なことに、一人の老人が「これ以外にない」というくらいの死に場所を見出だす物語でもある。
    どう死ぬかを見出だすことは、多分、どう生きるかを見出だすことと同じくらい、難しい。
    結末には、確かな救いがあった。
    私には、始めから、老人がどこにもない死に場所を探しているように見えたから。

    • 46
  8. 評価:4.000 4.0

    相棒は自分

    タイムスリップした先で過去の自分を相棒にする、という設定は斬新に感じた。
    「自分のことだからこそわかる」という仕組みを上手に利用した展開もあり、なかなか巧みだと思った。

    ストーリーは、過去の自分の冤罪を晴らすため、真犯人を追う、というのが基本線。
    異様な犯行、テンポのいいミスリード、二転三転する真相と、サイコサスペンスの映画のようで、気になる破綻もなく、かなり引き込まれた。

    ちょっと気になったのは台詞回しで、いくら漫画とはいえ、「そんなこと言うかいな」という部分がかなりあった。

    ただ、ストーリーが魅力的だったのは確かで、これだけのサスペンスをオリジナルで組み立てられる技量は、大したものだと思った。

    • 2
  9. 評価:4.000 4.0

    少女&推理

    普段、少女漫画を読まない。
    が、結構引き込まれて、一気に読んでしまった。

    おそらく、少女漫画の読者層にも、推理漫画の読者層にも受け入れられる、そういう意味では、とてもバランスのとれた作品。

    私のようなすれた人間は、正直、登場人物たちが眩しすぎてちょっと気後れしたし、物語の核心のところにはもう少しひりついたリアルなものがあってほしかったのだけれど、それは、この漫画に求めることとしては、間違っている気もする。

    • 3
  10. 評価:2.000 2.0

    自由と責任と金田一少年

    夫がろくな人間ではない、ということには何の異論もない。
    世の中にこういう夫婦が多くあって、苦しみながら何とか生活している妻が多くいることにも異論はない。
    その痛みが生半可なものではないことにも、本当に、異論はない。
    ただ、申し訳ないが、自分の不幸を他人のせいにする大人が、私はどうしても好きになれない。

    現代の日本社会には問題もたくさんあるが、素晴らしいこともいっぱいあって、そのひとつは、基本的には互いの自由意志に基づいて結婚ができる、ということだ。
    自分の生きたい相手と一生を共にする自由がある、ということだ。
    これほど素敵なことが他にあるか、と私は思う。
    少なくとも、江戸時代はこうはいかなかったのだ。

    それほど素晴らしい自由であるから、当然、そこには責任がつきまとう。
    結果的にどんな相手だったのであれ、どんな経緯や偽りがあったのであれ、選んだのは、自分であるはずだ。
    仮に、結婚してみたらアル中でヤク中のバイオレンス野郎だった、という場合ですら、選んだのは、自分なのだ。
    その重大な責任を置いといて、「結婚したら変わってしまった」とか、安直に被害者ヅラするのが、私は嫌いだ。

    ある人が「この人と幸せになりたい、じゃなくて、この人とだったら不幸になってもいい、っていうのが、愛なんじゃないかしら」と言ったそうだ。
    それは、極端かもしれないが、ある部分、完璧に正しい気もする。
    酷い人間だから別れたい、ではなくて、酷い人間であってもこの人がいい、というのが夫婦なのではないか、と私は思う。
    いや、そうではない、というならば、その結婚はやはり、失敗という他にない。
    ただし、大人がどんなに失敗を悔いようが、その大人の姿を見て生きる子どもがそこにいるということは、肝に銘じておかなくてはならない。

    中学生のときに読んだ『金田一少年の事件簿』で、金田一君が「自分の不幸を他人のせいにするのは、ガキだって言ってんだよ!」と言っていた。
    そのときから、私はずっとそう信じてきたし、これからも信じていきたい。
    ありがとう、金田一少年。
    漫画って、いいなあ。

    • 43

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