4.0
悲しい欲望
世の中にはそれはもう、ありとあらゆる種類の性的嗜好がある。
私自身は性的には多分ノーマルで、面白くも何ともない人間だが、達成するのが極めて困難な性的嗜好を持って生まれなくて、本当によかったと思いながら生きている。
だって、例えばだが、相手が未成年じゃないと興奮しないとか、相手を殺さないと満足できないとか、そんな運命のもとに生まれてしまったら、いくら何でも人生がハードモードすぎる。
あーよかった。
さて、この漫画の主人公は、自分が殺_されることに対して性的興奮を覚える「オートアサシノフィリア」という嗜好を持っている。
これはもう、性的嗜好としては最大級に悲劇的なそれであり、ある意味、究極でもある。
何しろ、その欲求が真に満たされるチャンスは、ただの一度しかないからだ。
我々は、死んだら終わりですから。
主人公は、それを達成すべく、私のような一般ピーポーの理解を遥かに超えて、あり得ないレベルの労力を費やし、努力を重ねる。
それは、単純なものさしではかってしまえば、「異常」の一言で切って捨てられる種類の執着だ。
だが私は、主人公を軽蔑することも、嫌悪することも、上手く出来なかった。
誇張抜きで、私は性的嗜好を「運命」だと思っている。
それは、生活や性格を変えることよりもずっと難しい、というか、ほとんど修正不可能なものだと思う。
現代の社会生活と相容れない種類の性的欲求は、逃れることも抗うこともかなわない、残酷な足枷だ。
私は「たまたま」そのような足枷を持たずに生まれ育ったに過ぎない。
私が主人公に対して感じたのは、違和感や不快感ではなく、自らの欲望に殉じようという潔さと、そんなふうにしか生きられない悲しみだった。
それだけに、終盤の展開はちょっと残念だった。
はたから見たらどんなに異様でも不毛でも、主人公を死なせてやりたかった。
また、女子高生の多重人格という設定は、ちょっとぶっ飛びすぎていて、いささか冷めてしまった。
- 7
女子高生に殺されたい