永瀬アンナ:テレビアニメ「あかね噺」インタビュー 落語と真正面から向き合う 「寿限無」収録秘話
配信日:2026/06/21 7:01
「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載中の落語をテーマとしたマンガが原作のテレビアニメ「あかね噺」の第1期が6月20日放送の第12話で最終回を迎えた。アニメでは、主人公の女子高生・桜咲朱音役の永瀬アンナさんら声優陣による落語シーンが大きな反響を呼んだ。当然だが、マンガに音は付いていないため、読者の想像に委ねられるところも大きい。ただ、アニメになると音が付くために、それがある意味“一つの正解”になる。アニメになった「あかね噺」は、“正解”以上を見せられた感覚にもなった。中でも朱音の“高速寿限無”など永瀬さんの演技が光った。永瀬さんはどのように落語、「あかね噺」に向き合ったのだろうか。収録の裏側を聞いた。
◇朱音と一緒に成長しながら歩めた
「あかね噺」は、末永裕樹さん原作、馬上鷹将さん作画の落語マンガで、2022年2月に「週刊少年ジャンプ」で連載をスタートした。桜咲朱音が落語界の最高位“真打”を目指し、試練を乗り越えていく姿が描かれている。アニメはテレビ朝日のアニメ枠「IMAnimation(イマニメーション)」で4月に放送を開始した。
「あかね噺」のアニメ化が発表された際、落語シーンがアニメでいかに表現されるかが注目されていた。永瀬さんもアニメが“一つの正解”になることを意識していたこともあり、重圧を感じていたというが……。
「音が付くことで正解の一つになってしまうのは確かですので、アフレコや放送が始まる前は緊張しましたし、プレッシャーを感じていましたが、楽しさの方が大きかったかもしれません。落語の稽古(けいこ)が始まる前にも、難しくて厳しい世界なんだろうと想像していました。でも始まってみると、厳しさや難しさはありつつ、こんなに自由に表現できるんだと楽しくなりました。収録前は、マンガならではの表現をアニメで演出するにはどうしたらいいのだろうと思っていました。音響監督と落語監修の林家木久彦師匠が、アニメ的な演出に寄せていくか、本来の落語らしさを優先するかを一シーンずつディスカッションされていたので、そんな点も含めてアニメの『あかね噺』の作品の面白さを皆さんにお届けできたと思っています。緊張感やプレッシャーはあったのですが、朱音と一緒に成長しながら歩めたと思います」
永瀬さんは「あかね噺」と関わるまで、落語の経験はなかった。知識もなかった。だからこそ、落語の世界は新鮮だった。
「落語は、日本の伝統芸能と言われていますし、やはり敷居が高いとか文化に精通している人ではないと楽しめないのかなとか勝手に思っていました。近づきにくい印象さえも少しありました。ですが『あかね噺』の原作を読み、実際に寄席に行くと、決して敷居が高いわけではなく、お話自体も江戸時代の庶民の話だったりして、自分とそんなに変わらない日常を過ごしてきた人たちの少しおっちょこちょいな話だったり、人情話だったり、いろいろな話を楽しめるのがすごく素敵だなと感じました。それに、寄席の空間がすごく面白かったんです。お客さんには寝ている人もいるし、ご飯を食べてる人もいれば、クスクス笑ったり、隣の人としゃべっている人もいます。それぞれの人にとって、寄席はくつろぎの場になんだなと思いました。落語家さんもそれぞれタイプが全然違って、一人で15分間漫談をする方がいれば、一本の映画のようにじっくりしっとり落語を披露する方もいて、こんなに自由に表現できる場が昔からあったんだと目からウロコだったんです。私はそういうものに、今までは触れてこなかったので、新しい発見でした。もっと関わりたいという前向きな気持ちが芽生えました」
◇肚に落ちた「初天神」
落語は収録の1年以上前から稽古していた。永瀬さんは数々のアニメに出演する人気声優だ。多忙な中、稽古を続けるのは容易でなかったことが想像できるが、全力で落語に向き合った。
「お稽古は、師匠がまず一席披露してくださったものを録音して、自分で文字に書き起こして、全部覚えて、それを師匠に見ていただき、合格をいただいたら次の話に挑戦する……という形で進みました。まず覚えるのがすごく大変で。私は中高と演劇部だったので、覚えるのは得意だと思っていたんです。でも、全ての登場人物を一人で演じる経験は一度もなかったですし、表情や手振り、落語の美しい所作も意識するのがすごく難しくて。最初の一席は、焦りもあって2日くらいで覚え、師匠に見せたのですが、ダメダメでしたね(笑)。師匠にも『覚えてきたのはすごいですね』と褒めていただきましたが、やっぱり全然ダメでして。それを繰り返しながら、一席ずつ仕上げていくというのを繰り返しました。自分の落語の動画を見返すと、目線が泳いでいたり、手振りがついていっていなかったり、言葉も曖昧になっていたりと……本当に恥ずかしくなるくらいできていなかったんです。悔しくて……。次こそ!という思いでブラッシュアップしながら、アフレコまでこぎつけました」
約1年で8席を覚え、高座にも上がった。最初は思うようにできなかったが、稽古を重ねるうちに転機が訪れた。
「『初天神』という演目が、肚(はら)に入ったという感覚がなんとなくあったんです。頭で覚えるのと、肚に落ちるというのは違って、『初天神』は、頭の中の文章をなぞっているイメージではなく、覚えたときに体になじんだような感覚がありました。披露したとき、肚からスラスラと出てくるようなイメージがあって。師匠からもそれまでの稽古で『肚に落ちたものを出すんだよ』と言われていましたが、これなんだと感じました。始めてから2、3カ月くらいですね。演目自体が私に合っていたのか、タイミングだったのかは分かりませんが、悪戦苦闘しながら、一つ一つ師匠に付き合っていただいて、そう感じたんだと思います」
◇どんどんスピードアップする“高速寿限無”
「初天神」が“肚に落ちる”感覚があった一方で特に苦戦したのが「寿限無」だった。
「私は『寿限無』の名前のところしか知らなかったんです。初めて聞いたとき、覚えるのがまず大変で、ご隠居さんと寿限無のお父さんが名付けを考えるところが前半にあって、それがとにかく難しくて。親が子に名を付ける、という思いが私にはうまくつかめなかったんです。初めて披露したときは上辺だけでやってしまって、師匠にも『自信がないね』と全部見抜かれました。心から、その気持ちに寄り添えていなかったし、理解できていなかったことが大きくて、くすぐりも自分がやったときにどう置き換えていいのか分からない。なじまなかったので、師匠に『じゃあ一旦忘れよう』と言われ、2、3カ月やらなかったんです」
アニメで朱音は「寿限無」で学生落語選手権「可楽杯」に挑む。第6話で兄弟子の阿良川こぐまの前で披露し、第7話の可楽杯の予選、第9、10話の本選でも披露する重要な演目だ。
「なぜか分からないのですが、最初に(こぐまを前に)公園で披露するシーンをやったときに割とスラスラできてしまったんです。私としてはうまくやっているという感覚は全然なかったのですが、音響監督や木久彦師匠から『スラッとできすぎているので、もう少し無邪気にやりましょう』『次につなげたいから、ここは下げて、次で上げましょう』と言われ、ディスカッションしていきました。劇中で、こぐま兄さんに不勉強を指摘されますが、私自身も『勉強できていなかった』と改めて思い、いろいろな落語家さんの『寿限無』を聞いて、こんなアプローチがあるんだ、この方はきっとこういう気持ちでやっているんだな……と自分の中に入れてみました。蓄えてきた知識を生かせたのかもしれません」
第7話の可楽杯の予選では、マシンガンのような圧倒的なスピードとキレで早口の「寿限無」を披露した。あまりのスピードに驚かされたが、「本当にやっています」と倍速再生などをしたわけではないという。
「家で死ぬほど練習しました(笑)。言い立ての勢いで予選を突破するエピソードですし、情熱とパッションを全部ぶつけました。もちろん尺やタイミングもあるので、何回もやらせていただきました。やっていくと『もっと早く、どんどん早く、もっといける!』となって、どんどんスピードアップしていき……。頑張りましたが、疲れましたね(笑)。終わったらバターン!となって、何キロも走ってきた後のようでした」
第9、10話では一転、自然と耳に入ってきて、いつの間にか話に引き込まれるような「寿限無」を披露。高速の「寿限無」とは全く違った。
「『寿限無』の登場人物を立たせるために、朱音の持つ元気さや勢いを一度消してみるところから始めました。収録は少しずつやらせていただき、最後に朱音ではなく『寿限無』の世界がアニメになって表現されるところは、アニメとしての演技なのか、落語としてやった方がいいのか、どちらか分からなかったので、聞いてみると『その中間で』というお話でした。難しかったです(笑)。あのシーンは、長回しで切らずに最後まで流れでやりました。妥協したくなかったので、じっくりやらせていただき、日付はギリギリ超えないくらい夜遅くまで収録していました」
◇『あかね噺』の世界を隅から隅まで届ける
アニメでは朱音として落語を披露しなければいけない。
「最初に木久彦師匠から『落語の基本を自分に落とし込んでから、アフレコに臨めるようにしましょう』という話がありました。アフレコは、まず自分がやってきたことを見ていただき、音響監督と木久彦師匠と一緒に考えながら、朱音の心情を足していきました。現場で一緒に朱音をみんなで作っていきました。落語をしつつ、映像や尺に合わせるという声優としての仕事もしなければいけないので、たまに頭がこんがらがりそうになるんです。ただ、朱音の落語が映えるように、演技に合わせて絵を変えていただいたシーンもあって、その都度相談させていただいていました」
落語の収録はほかのセリフとは別録(ど)りだった。
「立ってもいいし、座ってもいいということだったので、私は正座の方がなじみやすかったので正座をして収録しました。首も動かすので、マイクを追加で3本立てたり、収録体制を整えていただき、本当にありがたかったです。アニメの収録時間は作品によって違うのですが、『あかね噺』に関しては長かったです。それぞれのシーンに熱量が高すぎますし、じっくり時間をかけて収録する現場なんです。メインキャラクター以外の演技プランをスタッフとキャストのみんなで考え、一言一言を丁寧に収録する現場で、『あかね噺』の世界を隅から隅まで届けたいという気持ちが伝わりましたし、アニメは総合芸術と言いますが、改めてそのことを感じました」
◇一生との対峙に震える
第11話で江戸落語界の三極の一つ、阿良川一門のトップ・阿良川一生と朱音が対峙(たいじ)するシーンも話題になった。一生は、真打昇進試験で朱音の父・阿良川志ん太を含む受験者全員を破門にした因縁の相手だ。
「なんで父を破門にしたのか。その理由の一つは、父が未熟だったからだと一生に言われます。その後に一生の『芸の後に応援がついてくるのであり、応援が芸に先立つのは未熟さの証拠』という言葉があるのですが、それは役者全員に言えることなのかなと感じました。『頑張れ』と言いながら見てもらう芸は、お客さんが心から素直に楽しめているのか。この言葉があったからこそ、私も改めて真正面から落語に向き合おうと思いました。刺さった人が多いのではないかなと勝手に思っています」
一生を演じるのはベテラン声優の大塚明夫さんだ。大塚さんと共演する中で大きな刺激を受けた。
「『あかね噺』の中でも重要な山場なので、大事にしたかったエピソードです。圧倒された収録現場でした。二人きりでの収録でしたが、現場に流れる張り詰めた空気に緊張しました。そして、明夫さんのお芝居と声に圧倒されてしまいました。また、明夫さんと音響監督がセリフ(演技)の解釈をどのようにするのか、互いの意見を言い合って、“芝居”の深いところのお話しをされていて。とことん突き詰めて本番を収録されました。……刺激を受けましたし、震えました。すごい現場でした」
第2期が制作され、2027年1月から放送されることも発表された。
「収録は始まっています。新キャラクターも登場し、刺激を受けています。現場の熱量がさらに一段階上がり、アフレコに向けて落語の稽古も引き続きしていて、とても楽しいです。大変ではあるのですが、難しい課題にこそ、挑戦したくなってしまうんです。2期もたくさんの課題があると思いますが、負けないように、これからも頑張りたいと思います」
どんな困難にも立ち向かう永瀬さんの姿勢は、朱音と重なって見えるところもある。第2期も高い熱量で駆け抜けていくはずだ。(阿仁間満/MANTANWEB)
提供元:MANTANWEB











