上田麗奈:「私を喰べたい、ひとでなし」インタビュー 死を望む少女のほの暗さ 16歳ゆえの未熟さを繊細に

配信日:2025/10/13 8:01

「私を喰べたい、ひとでなし」の一場面(C)2024 苗川 采/KADOKAWA/わたたべ製作委員会
「私を喰べたい、ひとでなし」の一場面(C)2024 苗川 采/KADOKAWA/わたたべ製作委員会

 「電撃マオウ」(KADOKAWA)ほかで連載中の苗川采さんのマンガが原作のテレビアニメ「私を喰べたい、ひとでなし」が、10月2日にAT-X、TOKYO MXほかで放送を開始した。同作は、愛媛県中予を舞台に、死を望む少女・八百歳比名子と、その血肉を求める人魚・近江汐莉の出会いから始まる美しくも切ない物語。海辺の街に独りで暮らす主人公・比名子を演じるのが、人気声優の上田麗奈さんだ。「比名子は、見ているこちらまで苦しくなるようなほの暗さをまとっている」と語る上田さんに収録の裏側、作品の魅力を聞いた。

 ◇いびつではかない少女たちの物語 びっくり、ドキッも

 同作は、2020年10月から「電撃マオウ」で連載中のマンガ。比名子の前に突然現れた人魚の少女・汐莉は「私は君を喰べに来ました。」と優しく語りかける。汐莉は、成熟し、最高の状態を迎えるまで比名子を守り「いずれ自分が喰べる」と約束し、比名子の胸には「このひとなら私の願いをかなえられるかもしれない」という切なる想いが浮かぶ……というストーリー。

 上田さんは、原作の印象を「コミカルなシーンがありつつも、ホラーなシーンもすごくしっかり怖く描かれていて、そんな中で、主人公の比名子が見ているこちらまで苦しくなるような全体的なほの暗さをまとっていて。キャラクターたちの関係性も、どこかいびつだったり、はかなさをまとっていて、それがすごく印象的でした」と語る。

 「自分を喰べに来たというのは、本来ならすごく怖い話だと思うのですが、喰べられる、自分の死に関して怖がるどころか、それを救いに感じている比名子がいるというのが、見ていてつらくなってしまう。汐莉と出会った比名子がこれから変わっていくのかどうかを見守っていきたいと思わされる作品だなと思いました」

 比名子は、とある出来事をきっかけに孤独になり、死を願っている。

 「比名子は『死にたがっている』というのが一番インパクトがあると思うのですが、『死んで家族の元に行きたい』という自分の思いと、『生きていてほしい』という家族の思いとで板挟みになって、結果、自分で命を絶つことはできないという考えに至り、自分の命を奪ってくれる何かを欲するように生きている。生きたくないけど、死ぬために生きるしかないという、そんな状態からスタートしているので、序盤は特にほの暗いイメージが強いのかなと思います」

 原作者の苗川さんは、同作について「面倒臭い子が面倒臭い子に振り回されているのがすごく好きで、それを詰め込んだ」と語っていたという。

 「確かにその視点で見ると、このもどかしさ、つらさを含めて作品としての魅力があるんだろうなと思います。比名子は、『ちょっと前向きになったのかも』と読んでいる側がほっとするようなシーンがあったかと思えば、『実は真逆だったんだ』とショックを受けたりするので、すごくびっくりすること、ドキッとすることが多い作品だなと思います」

 ◇感情の淡い色づきを表現 子供としての比名子

 収録では、会話の温度感を意識したという。

 「第1話の収録の際に、比名子のモノローグ以外、ほかのキャラクターとしゃべっている時の温度感についてディレクションをいただきました。当初、私はモノローグとそんなに変わらないテンションなのかなと想像していたんですけど、ディレクションでは『もうちょっと明るく、比名子なりに周りの子となじむような感じ』ということだったので、モノローグとの差が少し生まれて、より見ていてつらい感じになったのかなと思います」

 「ネガティブな感情を出すだけのエネルギーがない」ということも比名子の特徴的な部分だという。

 「悲しいとか怒っているとかを出すこともなく、エネルギーのなさから来る淡々とした感じは、特にモノローグでは強いなと思います。『こうしたい』というよりも『こうしなきゃ』と絶望しながら生きている感じが自然と淡々とした表現になったのかなと思います。声に色が乗るのが、家族のことを思い出した時、家族について語っているモノローグくらいだったかなと思います」

 そんな比名子も、汐莉と美胡と接していく内に、感情の彩りが垣間見えるようになる。ただそれも淡い色づきで「微妙な変化」だという。

 「比名子は、感情がわっと出てきた時、それでも相手にぶつけきれないように感じていて、それが気遣いなのか、慣れていないからなのかは分からないのですが、ぶつけきらずに音としてもあまり前に飛ばない。私自身、『比名子って優しい子だな』と思いながら演じていたからこそ、ぶつけきれないというのがありました」

 上田さんは、比名子を演じることは「難しい」「自信がない」とも語る。そんな中で、原作者の苗川さんの言葉が支えになった。

 「先生は、作品に対して、比名子に対して、すごく広い心で受け止めてくださる方なので、お芝居に関しても、アニメに関しても『素晴らしい』と喜んでくださって、『うれしい』『ありがとう』と言ってくださる機会が多いんです。先生は『比名子は子供だから』とおっしゃっていて。それは自分の子供という意味でもあり、頑固な思いを持っているがゆえに周りを振り回してしまう16歳の普通の女の子という意味でもあって、『子供としてしっかり描いてきた』とおっしゃっていて、私もそこがアニメで伝わったらいいなと思っています」

 上田さんは、比名子の言動について、「まとまりきっていないというか。彼女の中では筋が通っているんですけど、客観的に見ると、『今なんで怒ったんだろう?』『この感情の流れはどういうこと?』と思うことがある」と話し、「16歳の女の子ならではの波」を繊細に表現しようとしている。

 ◇石川由依、ファイルーズあいとの収録の裏側 本編は重いが…

 比名子に密接に関わるキャラクターとして登場するのが、人魚の少女・汐莉と、比名子の親友・社美胡。石川由依さんが汐莉、ファイルーズあいさんが美胡をそれぞれ演じている。第1話で比名子が汐莉と出会うシーンの収録では、上田さんは「すごく怖い」と感じたという。

 「最初は、すごく怪しげだったので、何を考えてるか分からない、底が知れないような人だなと思って。話しているようで話してない、噛み合っているようで噛み合っていないのが、すごくもどかしいというか。ずっと独りぼっちの心持ちだったので、そのかみ合っていない感がよかったのかなと思いながら掛け合いをしていました」

 ミステリアスな汐莉と対照的なのが、明るい性格で、いつも比名子を気にかける親友の美胡だ。

 「比名子がほの暗くジメッとした感じの印象だとしたら、美胡役のファイちゃんは、真逆のカラッとした太陽のような『まさしく』という声でお話しされていたので、『この子がいたら、比名子じゃなくても心強いだろうな』と思わされるような明るさと存在感で、場の空気をガラッと変えてくれる人だなとより思わされました。対比名子という視点では、私は美胡が一番共感しやすいキャラクターなので、美胡が比名子への思いを語っているシーンもすごく納得しながら聞いていました」

 収録現場の様子を聞くと、3人で作品の話をすることはあまりなかったという。

 「というのも、本編がすごく重いので、休憩中は、その場を和ませようという意識が強くて、みんなで同じおやつを食べたりしていました(笑)。ファイちゃんがお菓子を持ってきてくれて、『友情の証』と言ってみんなに配ってくれて。そういうのもすごく作品とリンクしていて、楽しくコミカルなシーンの『わたたべ』を思わせるようなやり取りのほうが多かったです。収録の合間もずっとズーンと重い空気のままだとやっぱりしんどかったと思うので、みんな和気あいあいと話していたからこその良さがあったなと思います。そのおかげで頑張れました」

 上田さん自身、「わたたべ」にはさまざまな「怖さ」を感じたといい、「ホラー的な怖いというよりは、比名子がどうにかなっちゃうんじゃないか、守らなきゃみたいな、心配で怖くなっちゃう。そんなすごく難しいラインにいる比名子に接していく汐莉と美胡を見ていても怖くなる。一歩間違えたら、何か起こってしまうんじゃないかという怖さがあります」と語る。比名子、汐莉、美胡の物語の行く末を見守りたい。

提供元:MANTANWEB

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