押井守監督×天野喜孝:伝説のOVA「天使のたまご」40周年記念インタビュー その後の仕事のベースになった“繰り返される物語”

配信日:2025/10/13 7:01

「天使のたまご 4Kリマスター」のビジュアル(c)YOSHITAKA AMANO (c)押井守・天野喜孝・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ
「天使のたまご 4Kリマスター」のビジュアル(c)YOSHITAKA AMANO (c)押井守・天野喜孝・徳間書店・徳間ジャパンコミュニケーションズ

 1985年に発表された押井守監督の“伝説のOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)”「天使のたまご」が、2025年に40周年を迎え、4Kリマスター版が制作された。押井監督による監修の基、35ミリのフィルム原版をスキャンし、最新技術で4Kリマスター化した。同作は、押井監督の初めてのオリジナル作品で、天野喜孝さんが原案、アートディレクションを担当した。限りなくモノトーンに近い色彩、ごくわずかのセリフ、異例の長回し、約400カットという通常のアニメ約3分の1という少ないカット数……と禁欲的なスタイルで制作された。1985年にOVAとして発売され、発売を記念して期間限定で劇場でも上映された。40周年を記念して、押井監督、天野さんに制作当時を振り返ってもらった。

 ◇生殖と切り離された永遠の少女

 ーー「天使のたまご」を見返すこともある?

 天野さん 去年見る機会がありました。それ以外にもどこかで見たかもしれませんが、覚えているのは去年ですね。今回、4Kリマスターを見て、新鮮でした。音もすごくよかった。改めて、いいなと思いました。

 押井監督 基本的に仕事が終わっちゃうと見返さない。海外で見たかもしれないけど、10年以上前かな。パネルディスカッションとかでもフルで流すことはないじゃないですか。通して見ることはほとんどなかったかも。映画館でも上映されないからね。「パトレイバー」や「攻殻機動隊」はテレビで放送されて、見ることはあるけど「天使のたまご」はほとんどないから。作業で何回も見ていて、リテークも覚えているから、苦痛なんですよ。久々に真っさらに近い状態で見て、ちょっと感動した。音響もよかったしね。

 天野さん 去年見た時とはまた違う感じがした。何が違うか分からないけど、発見があるんだよね。

 押井監督 映画って、見ているようで、実はほとんど見ていないんですよ。映画を見た人と話してみると、全然違うところを見ているし。

 天野さん 各シーンが違って見えてくる。毎回違うところに目がいきます。

 ーーそもそも天野さんが参加することになった経緯は?

 押井監督 おぼろげではっきり覚えていないけど、「ルパン三世」が失敗して、中途半端に終わっちゃったから、ちゃんと一回仕事をしたいと思っていた。天野ちゃんはいろいろやっているけど、キャラクターだったんだよね。キャラクターもいいけど、アートディレクションをやってもらいたかった。ボードを描いてもらいたかった。

 天野さん アニメのキャラクターをやっていて、絵も描きたいと思っていました。「SFマガジン」に持ち込んで、連載でオリジナルをやって、それまでは自分のオリジナルというものが分からなかったけど、こういう世界が好きなのかな?と思うようになって、面白くなってきた時期でした。アニメからは離れていた時期でもあって、自分のオリジナルに近いものができそうだから、話に乗ったんです。

 押井監督 この世界を描いてもらうとした。建物、コスチュームなどを絵に起こすことで、いろいろな発見があるわけ。フランスの地方のある街の写真集を参考にした。ステンドグラスもそうで、そういうものを積み重ねることで架空の街を作った。

 天野さん 恐竜展にも行ったよね。

 押井監督 見てほしいものがあったんだよ。始祖鳥の化石なんだけど、昔から好きでね。化石の中で一番美しい。

 天野さん 印刷では凹凸が伝わらないけど、実際に見るとすごくキレイなんです。

 押井監督 写真じゃ分からない。実際にあるものを見ると、いろいろなイメージが生まれてくる。

 天野さん 見ない方がいい時もある。少ない情報でやるのもよくて、案配が難しい。

 押井監督 アニメーションはものを見ることが大事。可能な限り見ないといけない。スタッフと一緒に見て、体感してもらった方がいい。アニメーションは、実感、感覚の再現なんですよ。特にオリジナルアニメーションは、取っ掛かりがないと作れない。女の子のコスチューム、部屋の作りとか全部含めて同じ世界観で作らないといけない。どこで寝ているとか何を食べているとか、もちろん分からないけど、実感できないといけない。あの部屋は、世界の中心なんだけど、形が必要なんです。だから、誰かが描かないといけない。何で瓶がいっぱい並んでいるのか? 一つ一つが表現なんです。言葉では思い浮かぶけど、どんな形なのか? 一つ一つが違う。あれは子宮なんだよ。一つだけ赤い液体が入っている。生殖と切り離された永遠の少女なんです。具体的な説明はほとんどしていないけど、言葉から天野ちゃんが描いてくれる。

 天野さん ビジュアルにすることで、違う世界が見えてくる。ビジュアルは空間を作ることだから。

 押井監督 天野ちゃんのデザインは独特なんだよ。装飾的なデザインが好き。アクセサリーのデザイナーだったらアクセサリーを描けるかもしれないけど、キャラクター込みでも描ける人はなかなかいない。架空の世界であればあるほど、誰かが描かないといけない。いつも要求されるわけではないけど、ある種の作品では絶対必要になる。特にファンタジー系では間違いなく必要になってくる。

 ◇繰り返されるものの原型になった

 ーーアート寄りの作品で、発売当時は商業的に成功したわけではありません。商業作品として意識して作っていた?

 押井監督 OVAの黎明期だから、誰もどう作っていいのか分かっていなかった。テレビとも映画とも違う。どういう需要があるのかも分からなかった。どこも最初はオリジナルを考えるんだよ。当時、ぴえろを辞めてフリーだったし、企画をサラサラ書いたんです。「水棲都市」っていうタイトルだったけど、敏ちゃん(鈴木敏夫プロデューサー)は、ダメだ!って言うの。あの男はタイトルから入るから。女の子と方舟の話で……と説明したら、敏ちゃんが勝手に企画書を作った。不思議な女の子やメカが出てくる「うる星やつら」の延長みたいな企画だった。確かに女の子もメカも出てはくるんだけど。

 ーー押井監督の頭の中には最初からイメージがあった?

 押井監督 割とね。でも最初は、深夜のコンビニの話だったんだ。

 天野さん そういう風に見えなくもない(笑)。

 押井監督 やっているうちに変わってくる典型だよね。天野ちゃんとやることになって全面的に変わった。こういうものが出てくると多分誰も思ってなかった。ただ、実は自分の中には根強くあったものだった。「うる星やつら」でも、これに近いものはやっていたから、気付く人は気付くと思っていた。敏ちゃんも薄々分かっていたんだろうね。主題歌の話もあったんだけど、どこで入れるの?となった。敏ちゃんが会議で怒鳴って、なくなった。何をやればOVAとして成立するのか? 誰も分かっていなかった。OVAが確立されてきた数年後だったらできなかった。

 ーーお二人にとって「天使のたまご」という作品はどんな存在なのか?

 天野さん 自分の世界を表現したいと思い、イラストレーターとして独立して、「SFマガジン」ではキャラクターじゃない世界観を絞り出した。それが面白かったんです。その流れが「天使のたまご」になっていて、世界観を作っていくことが僕にとっては魅力的でした。押井君には、才能を感じていて、オリジナルで一緒にやったら面白そうだと思っていましたし。

 押井監督 「天使のたまご」の後、3年くらい仕事がなくなっちゃったけど、その時にいろいろな企画書を書いているんだよね。同じ失敗は二度とできない。全振りすると難しい。やっぱり物語が必要だった。ある時、気が付いたけど「天使のたまご」は、自分の中で繰り返される物語なんです。結局、いつもそこに帰っちゃう。夜の物語、女の子が徘徊する。廃虚に流れる時間、時間が停止した世界をさまよう。実はほかの作品にもちょこちょこ顔を出している。「パトレイバー」でも「攻殻機動隊」でも見えている。「攻殻」の最後の博物館のシーンなんて、言ってしまえばまんまですよ。「攻殻」は、派手にドンパチはやっているけど、まんまです。繰り返されるものの原型になった。アニメは一枚の絵から出発するので、イメージが固定化されやすい。僕の仕事のベースになっている。モチーフは、繰り返されるから、モチーフになる。

 天野さん 押井君らしいエッセンスが詰まっているよね。

「天使のたまご」の4Kリマスター版は、11月14日からドルビーシネマ限定で先行公開され、11月21日から全国で順次公開される。

提供元:MANTANWEB

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