女装家ブルボンヌが語る、草分け的オシャレ女流漫画特集
更新日:2016/05/13 10:00
女装パフォーマー・編集者・ライターとして、各種メディアで幅広く活躍し、ゲイカルチャーを牽引するブルボンヌさん。
今回、“オシャレ女流漫画”という括りで、自身も感銘を受け、多くの人にオススメできるコミックをご紹介。「ゲイカルチャー」「セクシャリティ」「整形」「トランスジェンダー」など、様々なテーマを絡めて語ってもらいました!
“等身大のゲイ”を描いてくれた作品
ワタシが高校生か大学生くらい、ちょっと大人っぽい漫画を読みたいなと思っていた時期に、岡崎京子さんや桜沢エリカさんの作品に出会いました。
当時は今ほどゲイカルチャーみたいなものが世の中に浸透していなくて、ドラマや漫画でオカマが出てくるときは、大体が笑わせ役だったり、コテコテのイロモノみたいな扱いでした。
1994年に『リバーズ・エッジ』(岡崎京子/宝島社)という漫画が出たんですけど、この作品はオカマを画一的なオカマとして描いていなかったんです。
主人公の女の子が、ゲイの少年に「ゲイって男役とか女役があるんでしょ? どうやってセックスするの?」と聞くんだけど、そのゲイの子が「じゃあ、キミはク○○リスを舐められるのが好き? 乳首をつままれるのが好き?」って聞き返して、女の子はギョッとしてしまう。それで「自分の知らない世界だからって、何でも聞いていいわけじゃない」とゲイの子が言い返すシーンがあるんです。
ゲイを真っ当な目線で扱う作品がほとんどない時代に、岡崎さんが“等身大のゲイ”を描いてくれたことで、「ああ、すごく分かってくれてるんだな」と感動しました。先見の明があるというか、ワタシたちゲイのことを描くにしたって何にしたって、物の見方や洞察力が凄まじい作家さんだと思いました。
岡崎京子さんとほぼ同時期、90年代前半あたりに作品の中でゲイを描いていたのが桜沢エリカさんです。
まず『サロン』(桜沢エリカ/祥伝社)は、東京に憧れている田舎の少女が上京して、出会ったイケメンのゲイたちとクラブへ遊びに行く、という世界を描いています。
■『ドルチェ・ヴィータ』(桜沢エリカ/祥伝社)
そして、『サロン』と同じく桜沢さんの「ドルチェ・ヴィータ」 (桜沢エリカ/祥伝社) も当時としては画期的な作品でした。こちらにゲイは出てこないんですけど、クラブを舞台にした青春モノです。
昔から少女漫画の定番は、女子がとんでもなく現実離れした砂糖菓子みたいな甘い世界に憧れるというものでした。でも、『サロン』や『ドルチェ・ヴィータ』のように、下品な部分もしっかり描きつつ、都会的でオシャレ、女子が仲間のイケメンたちとクラブに行って、ダンスミュージックで盛り上がる、というような新しい形の“女子が憧れる世界”を提示してくれたんです。
それまで少女漫画が与えてきた幻想から離れ、きらびやかでオシャレな切り口でゲイの世界を紹介してくれたのがこの桜沢さんでした。
そして、ゲイの心の内面、セクシャリティ(性的指向)の部分について、軽はずみに聞いていいものじゃない、ということを伝えてくれたのが岡崎京子さん。
オシャレ女流漫画の草分け的な存在で、すごくアンテナに長けているお二方でしたね。
笑いと叫びはよく似ている――人間の心を深く掘り下げた衝撃作
■ヘルタースケルター(岡崎京子/祥伝社)
岡崎京子さんを語る上で欠かすことができないのが「ヘルタースケルター」 (岡崎京子/祥伝社) です。蜷川実花監督、沢尻エリカさん主演で映画化され、世間的にも広く知られることになった作品ですね。
この漫画は、“笑いと叫びはよく似ている”という印象的な一言から始まります。
ワタシはホラー作家の楳図かずおさんも大好きなんですけど、『まことちゃん』(楳図かずお/小学館)にあるような絶叫と『ヘルタースケルター』のこの一言には通ずるものがあります。
強烈な感情の二大が“笑い”と“叫び”で、岡崎さんは人間の精神を掘り下げいく中で、最終的にこの境地に達したんだと思います。
心の深い部分を突き詰めていくと、それを包み込んでいる「外側」に意識が向きます。これは『ヘルタースケルター』の大きなテーマでもあります。
内側と違って外側は作れてしまう。主人公・りりこの物語を通して、外側を作っていく過程の中で取り残される心、壊れていく心をこれでもかというくらい描いています。
ワタシたちの業界の中で言う「トランスジェンダー」の人たちは、心と外殻のズレが問題になっていますよね。だから、皆それぞれの段階や環境で目指すところは違うんだけど、自分のズレを補正するかのように、別の性別になるための手術をしたり、ホルモン投与をしたりします。じゃあ、外側を変えたら幸せになれるか? といったらそうでもない。
トランスジェンダーの友人も多くいますが、そのうちの一人の言葉が印象に残ってます。「自分はある程度まで、納得のいく見た目の変化が得られた段階で止めたけれど、完璧に近い手術を求めた知人たちは、逆に心から幸せなように見えない」と。これはあくまで彼の私見ですが、外側の理想を追い求め過ぎる心は、むしろ本物ではないことへの苦悩も浮き立たせるというのは、分かる気がします。
今じゃ国民的アイドルですらガンガン顔を変えているけど、ワタシも整形自体は否定しません。敬愛している中村うさぎさんも整形してるし(笑)。
だけど、彼女のようにそれをネタにして、本を書いてしまうくらい心と両輪じゃないと潰れてしまうと思うんです。「憧れのアイドル〇〇ちゃんみたくなりたいから、私もやろう」みたいな覚悟なき心でやる整形は、ズレを生み出す恐れが大いにあります。
「外側」抜きの自分にどれくらい価値があるのか?
なぜズレが生じるのか――ワタシのことを少し言うと、女装パフォーマーとしての見た目が面白いから、こういう表現をする場をいただけて、自分の外側は自分と外を繋ぐために大事なのは重々承知しています。
まずは包装紙をキレイにしないと受け取ってもらえないから、衣装やメイクをきっちりやる。それは自分が作り上げたものなんだけど、じゃあその内側、発端である自分にどれくらいの価値があるのか? 外側を抜きにした自分がどれくらい人に伝わって、受け入れてもらえているのか? という疑問はいつも付きまとっています。
そういう葛藤や歪みの怖さ、その落としどころを見つけるには覚悟が必要であることを、この漫画では“作られたスーパーモデル・りりこ”という極端な形で教えてくれています。
りりこは外側と内側のズレに苦しみ、もがき続けて、どんどん壊れていきます。 ただ、最後の最後でりりこは、外側を変えても心を強く持って生きることを選びました。
中途半端に、倫理的に「整形したから不幸になった」「やっぱりこういうことは良くないよね」で物語を終わらせるのではなく、「大変だけど心の持ち方次第で安住の地は見つかる」というメッセージがこのコマに込められていると思います。
岡崎さんは「整形」「セクシャリティ」「女の自立」といったものへの注意は忘れないようにしながらも、そこに潜む小さな可能性を見出してくれたんです。 「リスクが伴うからダメ」というのが前時代的な発想で、それを乗り越えれば別の何か新しい世界が開けることを示してくれた。そういう意味で、とてもかっこよくて尊敬できる作家さんだと思います。
なかなか報われず、迷い苦しむ若者たちへ
岡崎京子さんや安野モヨコさんの作品には、迷い苦しんでいる若者、忙しく働いているけど報われない女性たちへ向けたメッセージが込められています。安野モヨコさんは、絵柄だけ切り取って見ると流行のオシャレ漫画風だけど、内容がしっかり骨太なんですよね。
「働きマン」 (安野モヨコ/講談社) は、今頃になって安倍総理が「女性の活用を…」なんてことを言っているけど、そんなのよりもずっと前にモヨコちゃんが、女性目線で女性自身の手で、労働の喜びや葛藤を描いていたのはすごいことだと思います。
また、花魁の世界を描いた『さくらん』(安野モヨコ/講談社)での女同士のバトルとか、オカマみたいに男勝りで強い女性を取り上げてくれるのが、ワタシたちの業界としては嬉しいんですよね。
砂糖菓子ばかり食べていたら、チャンスを逃す女になる
楳図かずおさんもそうだし、手塚治虫さんや赤塚不二夫さん、永井豪さんなどの大作家たちは、SF映画の基本やあらゆる作品のルーツになるようなものを初期の頃に描いてるんですよね。何かハリウッド映画を観ても「あ、これ藤子・F・不二雄先生のSF短編集にあったネタじゃん!」ということが結構あります。
流行りモノの中に面白い作品があるのも分かるし、もちろんワタシも好きです。でも、今の若い人たちには、ちょっと遡って、大家と呼ばれている作家さんの作品もつまみ食いしてみることをオススメします。そこには取り逃がしてはいけないものがきっとある。
食べ物のお話に例えると、砂糖菓子やジャンクフードって、子どもが手を出しやすいし、キャッチーな味だから食べるんだけど、身体を作る栄養のことを考えると、ほどほどにした方が良いと思うの。
少し大人になってきたら、見た目はそれほど良くないけど味の良い定食屋だったり、ちょっとお金を奮発してでも、美術品のように美しい料理を作ってくれるレストランや料亭、そういうものに例えられるような、人間味や歴史のある漫画も手に取ってほしい。
女の子が憧れるような「大勢のイケメンたちに、何の取り柄もない私が気に入られちゃいましたぁ」みたいな漫画は砂糖菓子だから、そればかり食べていたらブクブク太って、むしろ、そういうチャンスを逃す女になっちゃう。
子どものうちはまだいいけど、ある程度の年頃からは栄養のある漫画を見抜く目を持って、漫画を読んでいってほしいですね。それがオシャレ女流漫画でいうと、岡崎京子さんが大家だし、今回紹介した作家さんたちは、三者三様だけどすごく共通している部分があると思います。
取材・構成:小山喜崇
【ブルボンヌさんプロフィール】
ブルボンヌ
女装パフォーマー・編集者・ライター・タレント。新宿二丁目のゲイミックスバー「Campy! bar」や女装パフォーマー集団「Campy!ガールズ」のメンバーとして、全国のクラブイベントをプロデュースするほか、テレビ・ラジオ・雑誌など各種メディアでの露出も多い。LGBTをテーマに扱った番組から情報番組のコメンテーター、女性誌や映画雑誌への寄稿、クイズ番組の回答者と幅広く活躍する。
ブルボンヌさん公式twitter
https://twitter.com/bourbonne_campy
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作者
小山喜崇
昼は編集者、夜はイラストレーターとして働く。好きな漫画は、吉田戦車や和田ラヂヲ、漫☆画太郎などのギャグ作品。記事タグ
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