4.0
「子ども」の功罪
三億円事件の真相には諸説あるが、「過激派を一掃するための国家規模の陰謀」というのは、さすがにやりすぎの感が強く、説得力には欠ける、と個人的には思う。
まあ、それはいい。
基本は少年少女の逃亡劇で、個々のキャラクターにそれぞれカラーが出ていて、ハラハラしながら楽しめた。
時系列を操作するのはこの作者の得意技なのか、「クダンノゴトシ」でもそうだったが、交錯する現在と過去が、よりいっそうスリルを高めていると感じた。
陰謀渦巻く三億円事件という「大きな」ストーリー。
その主人公には、普通にいけば、老練な刑事や探偵が相応しいように思えるが、敢えて「小さな」主人公を設定している。
それによって、多少の無理は出てしまっているが、少年漫画的な盛り上がりを獲得しているとも思う。
ただ、個人的にどうにもひっかかるのが、二点。
ひとつは、夏美の関口に対する母性の覚醒。
高校一年だろ。
いくらなんでも無理がある。
もうひとつは、ラストの大和の選択。
そこで、死のうとするか?
倫理的に、とかではなく、物語的に、どうにも腑に落ちなかった。
この二点は、どちらも「子ども」をメインの登場人物にした弊害だと思う。
夏美の件はもちろん、大和の件も、例えば主人公が「熱心に事件を追うが、どこか死に場所を探しているようにも見える、悲しげな目をした刑事」だったら…まあ、それじゃ全然違う話になっちゃうんだけど。
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