5.0
漫画家渾身の「名作」。
「狂四郎2030」がもっと評価されても良いはずなのに、そうでない理由の一つは、濃厚なベッドシーンが多いからではないかと私は勝手に思う。特に、女性読者にとっては、躊躇う人もいるのではないだろうか。
だが、読んでみれば分かる。この壮大な物語の意味を。
独裁者と機械と数字が支配する残酷な世界で、狂四郎とユリカはネット上で出逢い、結ばれる。その二人の濃厚な逢瀬のシーンは、いわば現実の世界に対するアンチテーゼであり「人間賛美」ではないかと思う。
人間は確かに残酷な性格がある一方で弱い。脆い。誰かにすがらなければ、生きられない生き物なのかもしれない。作中でも、何度もそう思わせる惨いシーンや愚かなシーンが描かれている。
だから、人は過ちを恐れ、傷付く事を避け、自ら考え行動する事を止めてしまう。結果、独裁者の甘言に酔いしれ、高度な文明に頼りきり依存してしまう。まるで「機械じかけの揺り篭」の中にいる赤ん坊の様に。
それでも、不条理と残酷さが支配する絶対的な世界においても、作者は「人間」の持つ、数字では表せない「可能性」、崇高な「愛」を信じて、この作品を描いたのではないかと私は思う。
後、時折、絶妙なタイミングで入るギャグセンスも秀逸だと思う。誰かを蔑んで笑う、悪い意味の笑いではない。ユーモアある笑いである。良い意味で「笑う」事。これも暖かい血の通った人間だからこそ出来る、素晴らしいアクションの一つなのかもしれない。
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