3.0
追いつかない画力
単純に「巨大な虫が…」というパニックでごり押しするのではなく、政府、製薬会社の思惑と、自衛隊、一般市民の動きを丁寧に描こうとしている点には、非常に好感を持った。
ただ、いかんともしがたいのは画力で、漫画である以上、どうなんだ、と。
ストーリーが丁寧に作り込まれた生物パニック映画でも、モンスターのCGが浮きまくりだったら、やはり冷めてしまう。
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23位 ?
単純に「巨大な虫が…」というパニックでごり押しするのではなく、政府、製薬会社の思惑と、自衛隊、一般市民の動きを丁寧に描こうとしている点には、非常に好感を持った。
ただ、いかんともしがたいのは画力で、漫画である以上、どうなんだ、と。
ストーリーが丁寧に作り込まれた生物パニック映画でも、モンスターのCGが浮きまくりだったら、やはり冷めてしまう。
それなりに面白く読んだのだが、あまりにも「ゲーム」だ。
感覚としては「プレイできないゲームを読んでいる」ないし「グラフィックの綺麗なゲームを他人がプレイするのを見ている」というのに近かった。
正直、これなら自分でゲームをプレイしていたほうがいいんじゃないか、と感じてしまった。
ただ、作者のゲームに対する愛着は伝わった。
「ウシジマ君」のヒット以来、こういう「裏社会もの」の漫画は一気に増えた印象があるが、その大体が「ウシジマ君」に遠く及ばないのは、作品の中で「哲学」を提示できていないからではないかと思う。
陰惨な裏社会の世界観を描くことは、ある程度の技術があれば、多分できる。
だってそんなもの、現実にあるんだから。
本作も、そうだった。
けれど、その中で漫画のキャラクターが生き抜く様を魅力的に見せるのは容易ではない。
現実の世界観のインパクトに、漫画のキャラクターの魅力が負けてしまっては、漫画の意味なんかない気がする。
そうならないためには、半端ではなく恐ろしい現実に立ち向かうだけの強い哲学がなければいけない。
が、難しいよな、そんなの。
あらためて、「ウシジマ君」はすごいと思った。
「怨み」というおどろおどろしいテーマに反して、作品の手触りは軽く、爽やかですらある。
ひとつには絵柄のせいもあるだろう。
このアンバランスな軽さを、どう感じるかで、好みが分かれそう。
読みやすくてポップだ、と肯定的に思うか、物足りないと、感じるか。
個人的には、もっとどろどろしたものが欲しかった気もする。
いじめというデリケートな問題を「ホラーの題材」になんて不謹慎だ、という批判も理解はできるし、そのあたりは、難しい。
ただ、そういう不謹慎すら引き受けて、マジなホラーをやろうとしたのではないか、と。
私としては、丁寧に作り込まれた作品に尋常ではない気合いを感じ、批判する気にはなれなかった。
もう、序盤からやられた。
一度希望という餌を与えてから絶望を叩きつけるとか、そんなハイレベルな小学生のいじめ、ありかいな。
でも、現実に、ありなんだろうな。
読み進めるうちに、気づく、というか、思い知る。
ああ、これが続くんだ、と。
希望の影がちらつく度に、絶望への予感に包まれる。
その読者サイドの絶望は、作中の登場人物たちの絶望とシンクロする。
もう終わってほしい。
これ以上読みたくない。
それでも読ませる吸引力の恐ろしさ。
これが一級のホラーでなくて、何だろう。
既にルールの決まっているゲームをモチーフに作品を描く人はたくさんいる。
というか、普通はそうだ。
スポーツというゲーム、バトルというゲーム、恋愛というゲーム。
その制約の中で、いかに優れた作品を編み出すか、という勝負が、普通だ。
でもこの作者は、次から次へと、新しいゲームのルールを編み出す。
その点においては、ちょっと追いつける人がいないんじゃないかと思う。
主人公三人がそれぞれ違う色合いで、パリッとキャラは立っている。
テンポのよさも手伝って、退屈せずに読めたことは確か。
ただ、正直、あまり共感はできなかった。
個人的な問題で、この漫画に責任はないのだが、大人の条件のひとつは、孤独を受け入れられることではないかと思っている。
確かウシジマくんもそんなことを言っていた。
嫌な言い方になってしまうが、四十代、孤独くらい引き受けろや、と思ってしまった。
ただまあ、この作品には一貫して「持つべきものは友」という軸があるので、これはこれでいいのかもしれない。
「それが四十代の結論でいいのか」という思いは残るが、それは、四十代を経験したことのない私が言うことではないかもしれない。
ベースは仏教界なのだが、そこに、昔話から現代ジャパニーズホラーまで飲み込んで、ごった煮にした不思議な世界が広がる。
滅茶苦茶のはずなのに、しっかりバランスがとれていて、とっちからったカオスでありながら、漫画としてちゃんとまとまっている。
こういうのをセンスというのかな。
その絶妙な世界観が楽しい。
もともと、ホラーとギャグとは、線引きの難しいものだと思う。
小さい頃に怖くてしょうがなかった「ホラー漫画」が、今読むとことごとくギャグだったりする。
この作者はそれをよくわかっていて、本作では確信してギャグの方向に振り切っていると思う。
絵が「古きよき」ホラー漫画タッチであることもあり、妙にノスタルジックな味わいがあった。
当たり前のことなのだが、世の中には、本当に色んな漫画の表現があるんだな、と感じた。
ストーリーはあってないようなもので、アメリカのB級ホラー映画の表面をなぞった程度のものだが、そのB級スラッシャーに、この絵で挑んだことに意味がある。
例えて言うなら、ディズニーがB級スプラッターのアニメを制作したような感じである。
もちろんディズニーは、そんなもの、作らない。
だからこの漫画は、ちょっとした発明なのではないかと思う。
個人の好みは置いておくとして、漫画の可能性を感じさせてくれる作品に出会えるのは、嬉しいことである。
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