5.0
これ以上は、何も
前近代的な村に赴任してきた主人公の駐在が、村の人間が人を喰っているのではないかという疑惑を追うサスペンス。
カニバリズムの異様性が醸し出す不穏な緊張感と、「八つ墓村」的な村の閉鎖性が煽る緊迫感、このダブルパンチがなかなかスリリングで、一気に読ませる。
絵も、作品との相性はばっちりで、ちょっと劇画の香りを漂わせつつ、抜群の迫力がある。
特に、登場人物の表情の雄弁さは素晴らしい。
泥臭く、破壊力があって、しかも、繊細だ。
主人公の娘が口をきけない理由、布を被った謎の大男(横溝正史の「犬神家の一族」へのオマージュかもしれない)、「後藤家には関わるな」という村の掟の秘密など、ストーリーの随所に魅力的なアイテムが散りばめられており、文字どおり、一部の隙もない。
また、サスペンスでありながらなかなかドラマチックでもあり、特に、妻と娘を先に村から逃がして自分は村に残ろうとする主人公の決意のシーンは素晴らしい。
こういうのって、普通だと「いや、逃げたらええですがな」という突っ込みどこなのだが、そういう「お約束」的な文脈を超越した、作品としての気高さに、私は泣いた。
ストーリーの面で、何と言ってもポイントが高かったのは、あくまで皆「人間」という枠内で作品を編み上げた点だ。
こういうタイプの作品は、往々にしてゾンビやらのモンスターが怪異の正体になる傾向にあり(別にそれを全否定するつもりもないのだけれど)、正直、途中までは「どうせ村人がゾンビ化しますんやろ?」と思いながら読んでいたのだが、いい意味で、完全に読み誤っていた。
人を喰う村がある、というだけの設定から、よくぞここまで築き上げたと、手放しで称賛せずにはいられない。
そして、村人たちの造形も、単なる異常者、ではない。
時代に取り残された村という小さな世界の中で、また、因習と血脈というある種の呪いの中で、それぞれの村人が死に物狂いで何かを守ろうとしながら生きる姿もまた、私の胸を打った。
主人公、その家族、村人たち、捜査関係者、その全ての姿を、思いを、真摯に描こうとする、作者の立ち位置が美しい。
完璧だ。
私は、サスペンス漫画に、これ以上は何も望めない。
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ガンニバル