結川あさき×中村悠一:テレビアニメ「逃げ上手の若君」第二期インタビュー 時行と頼重の変化 圧倒的な足利尊氏
配信日:2026/07/17 19:31
「魔人探偵脳噛ネウロ」「暗殺教室」などで知られる松井優征が描く歴史スペクタクルマンガ 「逃げ上手の若君」。テレビアニメ第二期がフジテレビ系のアニメ枠“ノイタミナ”で7月17日から毎週金曜午後11時半に放送される。2024年7~9月に放送された第一期以来、約2年ぶりの続編となる。原作は、2021年1月~2026年2月に「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載された人気作。鎌倉幕府滅亡後、北条家の生き残り・北条時行が動乱の世を駆け抜ける。北条時行役の結川あさきさん、時行の庇護者である諏訪頼重役の中村悠一さんに、第二期に懸ける思いを聞いた。
◇アニメならではの魅力
--第一期を振り返り、特に印象的だったシーンやセリフは?
結川さん 本当にたくさん印象的なシーンがあるのですが、第二期の収録を進めていく中で改めて、印象深いなと感じたのは、第十一話で自分の考えを弧次郎に伝えるシーンです。あそこで時行は「私は何が何でも死にたくない。自害する暇があったら、死ぬほど生きたい」という本心を口にし、これからの生き方を改めて確信します。その後、第十二話で、戦から帰る途中の湖のシーンも印象的でした。弧次郎、玄蕃、吹雪に「ありがとう」と伝えるのですが、湖を背景にした時行の静かなセリフに対して、逃若党のみんながハッと息をのむような空気がありました。「時行はこういう子なんだ」と、みんなも改めて実感した瞬間だったのかなと思います。あの静けさと映像の美しさ、そして時行が戦を通して自分の本心にしっかりと向き合い、自分がどういう存在なのかを改めて自覚するシーンでもあって、印象深いです。第二期にも深くいきてくるシーンだと思います。
中村さん もう2年も前のことなので、記憶が薄くはなっているのですが、その中でも印象に残っているのは、第一話です。映像的なところもそうですが、収録のことも含めて強く印象に残っています。第一話というのは、原作に対してどういうアプローチをしているのかが最もはっきりと分かります。この作品がアニメ化されるにあたってオーディションを受けさせていただき、参加することが決まったわけですが、第一話のアフレコ用の映像や実際のオンエアを見たときに、これほど大きくアレンジを効かせてくるんだなと驚いたことを覚えています。もちろん原作通りではあるのですが、組み合わせを少し変えていたり、行間を埋める動き、エピソードを挟み込んでいたりと、アニメならではの見せ方をしていました。原作を読んでいたときに感じたさまざまな要素から、アニメとして特にどこをピックアップしたいのかが先鋭化されたイメージを受け、そこがすごく印象的でした。
--第一話の収録時は映像ができていた?
中村さん 第一話は結構できていて、監督から「第一話はなんとかここまで仕上げたので、イメージがつきやすいと思います」という言葉をいただきました。アニメ用に動かすキャラクターデザインにディファインされていますし、色が付いた状態の映像を最初に見られたのはすごく良かったです。時行にしてもあの年齢だからこそ漂う特別な魅力というものが、アニメではより強く描かれていると感じました。
--映像の美しさも話題になりました。
結川さん キャラクターの細かい表情がすごいんですよね。アフレコの最中に、スタッフさんから「ここは絵にお任せください」と言われるシーンがいくつかありました。アドリブをあえて入れなくていいシーン、セリフの後に余韻があったり、セリフの後に表情がさらに変化していくようなシーンです。第一期が放送され、完成した映像を見ると、本当に細かくキャラクターの心情を拾っていて、表情がほんの少しゆがんでいく様子や、ちょっとほほ笑んでいく様子などが、魅力的かつ生き生きと描き込まれていました。あのシーンが、完成してこうなったんだ!という素晴らしい気づきが本当にたくさんありました。細やかに描かれたキャラクターの表情は、ぜひ第二期でも注目していただきたいポイントです。表情だけでなく、アクションも含めて素晴らしい作画に挑んでくださっていると実感しています。
中村さん やはり色味ですね。マンガはカラーページ以外、基本的にはモノクロで進行するので、そこから膨らむイメージがあると思います。ですが、アニメになって色が付くと、本当に雅で色鮮やかな世界が広がっていると感じました。そんな美しい世界の中で、血生臭い事件がどんどん巻き起こり、時行たちが追い込まれていきます。そのアンバランスさが、アニメになったことでよりはっきりと見えたことが、この作品の大きな魅力だと思います。第二期を収録する中でも、随所でスタッフの皆さんの変わらぬ情熱を肌で感じています。
◇頼重への一歩進んだ信頼感
--第一期以来、約2年ぶりの放送となります。皆さんが久々に集まった収録現場の空気感は? すぐに第一期の感覚に戻れた?
結川さん 私個人の感覚としては、みんなすんなりと元の雰囲気に戻れたんじゃないかなと感じていました。私自身、すごく久しぶりの収録でしたが、時行のキャラクター像やお芝居の感覚を忘れてしまったり、薄れたりといったことは全くありませんでした。ただ、アフレコを進めていく中で、「逃げ若」のテンポ感やギャグの濃さはこうだった!と徐々に思い出していったところもあります。感覚を思い出すにつれて、心もどんどん乗っていったので、戸惑いや不安はなく、これこれ!と心地よく収録に臨めました。本当にうれしかったです。
中村さん スタジオも第一期と同じ場所でしたからね。ただ、収録時間が前回は午後だったのに対して今回は午前になったという違いがあったのですが、僕は24時間いつでも全く同じパフォーマンスを提供できるはずと自分を信じていました(笑)。自分自身が取り組む上ではそこまで大きな戸惑いはなかったのですが、キャラクターのアプローチに関しては、“より見守り型”になったなという変化を感じています。第一期は物語の導入ということもあり、時行の手を引いていろいろなことを教え、導いていくことが多かったのですが、第二期では、時行が自分で考えて自分で動くことがこれまで以上にできるようになっています。そのため、頼重から時行へのアプローチが少し変わってきたなと感じる部分があり、演出の面でも「父親目線や保護者目線が強くなっているので、そうではなく、作戦の助言をする、上司と部下のような関係性として言ってください」とディレクションをいただくシーンもありました。時行との関係性の変化に合わせて、自分もちゃんとお芝居を変えていこうとしました。時行を一人前の大人として見始めているような感覚がありました。
--結川さんは、頼重や逃若党との関係性の変化を感じていた?
結川さん すごく感じていました。キャラクター同士の信頼度が、第一期とは全然違っているんです。第一期のときは“うさんくさいおじさん”というスタートでしたしね(笑)。逃若党たちとの出会いは、新しい友達ができたというワクワク感が強かったと思います。第二期では、既に固い絆で結ばれた仲間の状態から始まっているので、連携も自然になりました。日常的なシーンの掛け合いも、ある意味で遠慮がないというか、ずっと隣にいる存在としての自然な距離感がよく出ています。頼重殿に対しても、うさんくさいところはあると思いつつ(笑)、同時に、自分のことを真剣に考えて、助けようとしてくれている人だと分かっています。だからこそ第二期では、一歩進んだ信頼感に基づいたやり取りが増えました。キャラクターたちの親密度が深まったからこその関係性や掛け合いの面白さが、第二期にはたくさん表れていると思います。
◇結川あさきの成長
--結川さんは、第一期でテレビアニメの主演を初めて務めました。約2年間の経験を積み、再び時行を演じるにあたり、心境の変化は?
結川さん 第一期のときは本当に何も分かりませんでしたし、自分は何が分からないのかすらも分からない状態でした。お芝居のイロハなど多くのことを皆さんに教えていただきました。当時、教えていただいたことは、初めて経験することばかりだったので、どうすればそれができるようになるんだろう……と必死に食らいつくのが精いっぱいだったんです。第一期の頃はアニメの収録経験自体が少なかったのですが、ありがたいことに、ほかの作品でもアフレコの経験を積み重ねることができました。その上で第二期の収録に臨んでみると、もちろん難しい部分はたくさんありましたが、第一期のときよりも、スタッフさんが言ってくださるディレクションやアドバイスの本質のようなものに少しだけ近づけたのかなという感覚がありました。以前は言われたことに対して必死にやっていたのが、今回は、自分の中で落とし込んでお芝居を出せる場面がありました。自分に落とし込んだ上で、こうしてみてはどうだろうというアプローチができるようになったなと思います。もちろん、第二期の収録が始まった当初は内心すごく焦って緊張もしていました。でも、アフレコの中で「いいね」という言葉をいただけることも増え、少しずつ自分の成長を実感しながら前向きに楽しく収録することができました。
--第一期の頃は、特に“息のお芝居”などのアクション部分で苦戦されていたそうですね。
結川さん 当時はアドリブというものが全く分かっていませんでした。「逃げ若」の収録が始まる本当に直前に関わった作品が、私にとって人生初めてのアニメの収録だったのですが、そのときは、閉じ口のアドリブ、開け口のアドリブ、それに伴う息違いすらも本当に分かっておらず、現場の皆さんにはたくさんご迷惑をおかけしてしまいました。例えば、大きく息を吸って清々しい気持ちを表現するアドリブは、自分ではそうなっているつもりでも、客観的に聞いてみると、そう聞こえていなかったりして、頭の中の表現と、実際にお届けする音との間にある差を埋めることに、ものすごく苦戦しましたし、本当にたくさんのことを学びました。第二期では、その学んだ経験を生かして、より生き生きとした時行の息遣いをお届けできるように頑張りました。
--中村さんから見て、結川さんの成長を感じたところはありますか?
中村さん 音響監督の藤田(亜紀子)さんは熱血タイプの方でして、役者に対して熱い演技指導をされるのですが、第二期の収録(第十三話)が始まった時、結川さんが最初に藤田さんから「この2年間で、どんな現場に行って、何を学んできたかはよく分かった。だから一回それを捨ててほしい」と言われていたんですよ(笑)。要するに、時行というキャラクターの視点に立ったとき、求められるのは培ってきた経験値ではなく、第一期の頃の手探り感や危うさなんですね。それをもう一度出してほしいということで、「経験を一度リセットしてくれ」という指示を受けているのを聞いて、僕もなるほどと思っていました。成長していること自体は素晴らしいのですが、その成長の全てが時行というキャラクターにとって必ずしもプラスになるわけではない、という非常に高度なディレクションです。ですが、一度、引いてみるということ自体も、役者の経験値としては僕自身も通ってきた道ですし、大事な学びです。結川さんは、その指摘を受けてからも、本来の時行のアプローチへと戻していました。素晴らしい技術的な成長を遂げているし、勘所の良さやバランス感覚を感じました。僕自身はジャッジする立場ではないのですが、この2年間でお芝居の塩梅を表現できる経験値を積んできたんだな、と強く実感しました。
結川さん 第二期のギャグシーンで、ほかのコメディー作品などで学んできた経験を生かして、アドリブで少し誇張しようと挑戦したんです。藤田さんから「できるようになったのはよく分かった。でも、時行はそこまでやらなくていいから。一回それを捨てよう」と言われたんです。やっちゃったな……と落ち込むのではなく、持っていない引き出しは開けられないけれど、第一期の時よりも引き出しをたくさん増やすことができたんだなと、ポジティブに捉えることができました。引き出しを増やした上で、じゃあ今回はどれを選択するかと考えられるようになったんです。時行として、力を入れすぎず、肩の力を抜くことに、お芝居の方向性をシフトさせていきました。
◇足利尊氏への強い憤り
--原作は完結しました。お二人は最後まで原作を読んでいる?
中村さん 僕は、あえて最後まで読んでいません。アニメで描くことが決まっている範囲までしか読まないようにしています。
結川さん 私も基本的には同じで、アニメで描く少し先くらいまでを読んでいます。ただ、作品の結末やこれから起きることは、歴史の話でもありますし、一通り知ってはいます。私自身は“アフレコ軸”で生きているような感覚なんです(笑)。アフレコの現場で、物語を楽しんでいます。キャラクターと同じように、先の展開を知らない新鮮な気持ちのまま、その瞬間の時行を演じることを大切にしています。
中村さん 作品やアニメの作り方によって違いますしね。「逃げ若」はアニメ化にあたって、アレンジや物語の組み換えを行うことが多いので、原作の展開に縛られすぎないように、あえて先を読まないように意識しています。時には演出上、原作のエピソードの順番を組み換えることもありますので、原作の感情ラインのまま固めてお芝居を作ってしまうと、アニメ独自の物語の流れとズレが生じてしまうので、あくまでアニメとしてのこの物語の感情の流れに合わせてお芝居を構築していかなければなりません。もちろん、収録するエピソードの原作は読んでいますが、それはあくまで、原作からどこが変化しているかを把握するためのものです。
--第二期の大きな見どころの一つとして、いよいよ宿敵である足利尊氏が本格的に時行たちの前に立ちはだかります。小西克幸さんが尊氏を演じています。
結川さん 尊氏は、ある意味で全く肩肘を張っていない、不気味なくらい気合が入っていない、まさに自然体なんですよね。それが、時行の立場からすると腹が立つんですね。時行の中に眠る怒りや憎しみがさらに引き出されたなと感じています。尊氏が何を考えているのか分からない恐怖や戸惑いに変わり、衝撃も受けます。最終的には激しい怒りが一気に湧き上がってきます。怒りのグラデーションが何段階もあるのですが、尊氏は悪気がないんです。
中村さん 物語の征服者や覇王は、自分が超えてきた多くの犠牲や屍を背負って次の時代を作る覚悟を持っているキャラクターが多いと思うのですが、尊氏は全くそうではない。大いなる力に導かれて、なんとなくやっているだけ。時行から見れば、尊氏は自分の人生や運命を狂わせた、文字通り、最大の仇敵であり強大な存在ですが、尊氏の側から見れば、時行という存在を気にも留めていない。まだ、気にする段階にすら達していないわけです。第二期は、二人の関係性が非常によく表れているシーンがあります。現実的な力関係を突きつけられるシビアなシーンだと感じました。僕らはどうしても時行の物語を中心に見ていますが、二人の間にはまだまだ圧倒的な差がある。二人の間にある埋めようのないズレは、視聴者の皆さんにも大きな衝撃を与えるのではないかと思います。
結川さん 尊氏からすれば気にも留めていなかった小さな出来事が、バタフライエフェクトのように、自分の足元を大きく揺るがす大騒動に広がっていく。その歴史の大きな変化の始まりを、ぜひ目撃していただきたいです。
第二期では、時行たちの絆や頼重との関係性がさらに深まる一方、足利尊氏という圧倒的な存在との間に横たわる、残酷なまでの壁が描かれるようだ。それでもなお、自らの運命に立ち向かい、巨大な敵の心をほんの少しずつ動かしていく時行の戦いは、見る者の心を激しく揺さぶるはず。圧倒的な映像美で描かれる時行たちが紡ぎ出す歴史のうねりをぜひその目で確かめてほしい。(阿仁間満/MANTANWEB)
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