ダーウィン事変:アニメ化の挑戦 逃げずに描く “ヒューマンジー”チャーリーを「異質で親近感のある存在に」 津田尚克監督インタビュー
配信日:2026/02/23 8:31
「マンガ大賞2022」で大賞に選ばれたことも話題のうめざわしゅんさんのマンガが原作のテレビアニメ「ダーウィン事変」が、テレビ東京系で毎週火曜深夜0時から放送されている。原作は、2020年から「アフタヌーン」(講談社)で連載されており、ヒトとチンパンジーの間に生まれた“ヒューマンジー”のチャーリーがテロ、炎上、差別といった“ヒト”が抱える問題に向き合うことになる。センシティブな題材も取り扱っていることから、原作者のうめざわさん自身も「アニメ化はさすがになかろうと思っていました」と語っていた。同作のアニメ化に制作陣はどのように挑んでいるのか。津田尚克監督に制作の裏側を聞いた。
◇アニメ化は難しいと考えていたが… 頭を悩ませたシナリオ会議
津田監督は、連載当初から「ダーウィン事変」に注目しており、「逃げていない表現がすごく格好いいという印象でした。普段生活していたらあまり気にしないような部分を問題提起として掲げているのですが、そこをマンガとして正面から描いている。普段考えないようなことまで考えさせられるマンガ」と魅了されながらも、同時に「アニメ化は難しいだろうなと思っていました」「さまざまな表現もありますし、絵柄も最近の主流ではないので、描けるアニメーターはそんなに多くないだろう」とアニメ化のハードルの高さを感じていた。
そんな中で津田監督は、ベルノックスフィルムズの代表の梶田浩司さんから「ダーウィン事変」のアニメ化企画について聞くことになる。
「元々は、3つくらい原作を出されて、『監督をするならどれがいい?』と聞かれたんです。その候補の一つに『ダーウィン事変』があり、僕の中ですごくピンと来るものがありました。アニメ化の難しさは感じていましたが、どうせやるんだったらチャレンジングなものがいいという思いもあったので、『ダーウィン事変』を選んで、監督をやることになりました」
津田監督ら制作陣がアニメ化に挑む上で軸としたのは、「表現を逃げない」「原作通りに描く」ことだった。
「表現を逃げたくない、というのは各所にお願いしました。やるんだったらスクールシューティングも人間屠殺もちゃんと描きたい。東宝のプロデューサーさんも『逃げる気はないし、大多数の視聴者を置いてけぼりにしてもいい』と攻めたことをおっしゃっていて、じゃあいくらやってもいいんだなと。原作通りを目指して、さらには原作よりも分かりやすくして万人向けになるようにコントロールしてアニメ化したい。『ダーウィン事変』は、キャラクターも魅力的ではあるのですが、物語の何について話しているのかが理解できないと、見続けるのが難しい話だと思います。なので、映像媒体になった時、マンガと遜色ないようにするためにはどうしたらいいんだろう?と考えました」
アニメとして「ダーウィン事変」の魅力を引き出すべく、各話をどこで区切るかといったシナリオ作りには、相当頭を悩ませたという。津田監督は「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズにディレクター、総監督として参加しており、これまでも原作のある作品を手がけてきたが、「原作もののシナリオ会議でこんなに頭を使うことってあるのかな?と。これまでの作品でも頭を使っていたつもりなのですが、シナリオに書かれている言葉以外に気を配らなきゃいけないものが多くて、そこを踏まえた上でシナリオに落とし込んでいかなければいけない作業でした」と振り返る。
「それは、原作側がいかに多方面に対して気を配って制作しているかという部分でもあります。シナリオ会議には、原作の編集担当の寺山晃司さんも参加してくださって、『原作ではこういうふうに気を配っていた』ということを細かく教えてくださるので、そこを頼りになんとかやっていったという感じです。ただ、そういった部分は、画面にそうそう出る部分じゃないと思います。見えている部分以外の下地部分を形成するのにすごく難航しました」
原作では、「一つの話題を取り扱うにあたって、差別的に聞こえないためのキャラクターや話題の配置がされていて、例えば『ここでこの言葉を誰かが放ってしまうと、そこに対して普段から気にしている人はとても気分が悪くなってしまう』という部分に対して、ちゃんとカウンターを準備されているんです」と細やかな配慮がなされているという。
「原作側からは、尺の関係などアニメ都合で制作しているとオミットしてしまうような部分も『あえて拾ってください』というオーダーをいただきました。また、シナリオを進めていく上で、原作側からチャーリーや、チャーリーの親代わりのバート、ハンナの人物像について見えていない部分の説明をたくさんしていただくことで、キャラクターの下地が出来上がっていきました。演技についても、全てのアフレコに参加していただけたので、うめざわ先生と二人三脚でやらせていただけたなと思っています」
◇静と動のチャーリー 人間っぽいリアクションはしない
ヒトとチンパンジーの間に生まれた“ヒューマンジー”のチャーリーが“動く姿”を表現することも、アニメ化の上での課題となった。
「チャーリーは人間よりも運動能力が抜群に優れていて、頭もはるかにいいという新しい種なんです。それが僕らの人間社会に紛れ込んでいるという流れなので、とにかく異質になるように、人間とは違う存在になるような描き方をしなくてはいけないというところに気を遣っています」
チャーリーは「うん」という相づち一つにも、人間とは違った意味合いが生まれてしまうという。
「最初のうちは、普通にチャーリーが『うん』と返事をするシーンがあったのですが、うめざわ先生から『チャーリーというキャラクターは引き算で成立させているので、人間っぽいリアクションは極力避けてください』というオーダーをいただきました。チャーリーは人間の何倍もの頭の回転の速さで話を聞いているので、脊髄反射的な答えは出さないというお話でした。普通の人が、誰かに何かを言われた時にする『あ、うん』というリアクションがないと。『うん』と言うのだとしたら、全て納得した上での“OK”の意味での『うん』なんです。だからうなずくこともないという」
人間っぽいリアクションをしない上、「目が黒めがちなので、目線の移動がなかなかできない難しさもあります。そういうのも相まって不気味な感じになっているんです」とチャーリーの異質な面について説明する。その一方で、「チャーリーの独特の造形は、先生的には狙っているらしく、できる限り可愛い方向に振ることでチャーリーに親近感を持ってもらえるようにしたいというお話をされていました。親近感と異質は相反する要素なのですが、不思議と同居するのが『ダーウィン事変』の面白い部分の一つかなと」と独自の魅力を表現しようとした。
チャーリーは、普段の生活では目線、口の動きも含め動作が少ない印象だが、敵と対峙した際は驚くべき身体能力を見せる。
「アニメは必要のない動きは極力省略する作り方なんです。動いていること全てに意味が出てきてしまうところがあるので、ちょっとした動きすらできない。ただ、動く時は躍動感がある動きになるその静と動の差が、チャーリーをチャーリーたらしめる部分かなという気がしております」
◇画、音が合わさることで真価を発揮する ただのエンタメで終わらない魅力
アニメでは、チャーリー役の種崎敦美さん、ルーシー役の神戸光歩さん、リヴェラ役の大塚明夫さん、バート役の森川智之さん、ハンナ役の佐藤利奈さんら声優陣の生々しい演技も話題になっている。津田監督自身が制作の中で手応えを感じたのも、アフレコだったという。
「アフレコをした時に、この作品は画、音が合わさることで本当の価値が生まれるなとすごく感じました。どの作品も、画・音両方が大事なのですが、この作品は特に役者がしゃべっている分量が多くて、しゃべっている内容がとても重要なので、そこがすごい存在感を放っていると、圧倒的な説得力が生まれて、世界観に広がりが出る。出演してくださっている役者の方々は魅力的な方ばかりですし、アフレコした時に、やっぱり『ダーウィン事変』は面白いと改めて思いました」
アニメは、衝撃的な「レッド・ピル銃撃事件編」を経て新たな展開へ突入している。
「『ダーウィン事変』は、ほかのアニメとはテーマ性が大きく違いますし、テーマになる部分をすごく前に打ち出す作品です。なかなかほかの作品ではやっていないことだと思うので、そこだけでも見る価値はあると思っています。普段アニメを見ていて、自分の実生活に跳ね返って考えられるような問題はなかなかないと思うのですが、『ダーウィン事変』は、そこにアプローチしている作品だと思います。アニメを見て、生活の中でふとした瞬間に作品を思い出してもらえると面白いなと。ただのエンターテインメントで終わる作品ではなく、皆さんの記憶に残る作品になってくれるんじゃないかなと思っています」
※種崎敦美さんの「崎」は「たつさき」
しろいぬ/MANTANWEB
提供元:MANTANWEB











