楠木ともり:音楽で自分を深く見つめて CDという形に宿る思い アルバム「LANDERBLUE」インタビュー
配信日:2025/11/22 20:01
声優でシンガー・ソングライターの楠木ともりさんの2枚目のアルバム「LANDERBLUE」が11月26日に発売される。楠木さんはこれまで、デジタル配信ではなく「CDを手に取ってほしい」と話してきた。アルバムには「あなたのお守りとなりますように」という願いを込めたという。楠木さんにアルバムについて聞いた。
◇宝石を身にまとうような気持ちで
アルバムタイトルの「LANDERBLUE(ランダーブルー)」とは、ターコイズの一種。ターコイズは12月22日生まれの楠木さんの誕生石でもある。
「デジタル配信が流行していますが、CDをぜひ手に取ってくださいといつも言っているのですが、CDに価値をつけるとなると、持っていることで元気が出たり、力になったり、お守りみたいなアルバムにしたいと考えていました。ターコイズは12月生まれの私の誕生石で、成功・繁栄・安全というポジティブな石言葉があります。旅のお守りにも使われていました。宝石を身にまとうような気持ちで聴いていただけるアルバムにしようとしました」
アルバムタイトルは「ターコイズ」ではない。
「ターコイズも考えてはいましたが、ランダーブルーは鉱脈が掘り切ってしまっていて、現状あるものに価値を付けながら、やり取りしています。価値のあるものですが、手に入れようという気持ちが大事だという意味を込められたらいいなと考えていました。ランダーには、天体の表面に着陸する着陸船という意味もあって、冒険心とか、追い求めるみたいなニュアンスも込めました」
デジタル配信は便利ではあるが、CDにはモノとしての価値もある。手にする喜びもある。
「デジタルで受け取れるものが例えば100だとすれば、CDは120くらいあると思っていて、コンセプト、ビジュアルもそうですが、実際に手に持つことで得られる経験も大きいはずです。もちろんデジタルに反対しているわけではないのですが、自分が一つ作品を作るのであれば、モノとして残したいという思いが強いんです。私自身、初めて買ったCDのことをすごく覚えていますし、何かを感じてほしいという気持ちがあります。手に取った時の高揚感、目の前にモノがある喜びもあります。ラジオのリスナーさんが『人生初めてのCDは楠木さん』と言っていただけたことがあって、すごくうれしかったですしね。CDとして出すことはやめられないです」
◇“優等生”の悩み
「LANDERBLUE」はコンセプチュアルなアルバムだ。流れがしっかり見えてきて、世界観にどっぷり浸ることができる。
「私が曲順を決めたのですが、元々アルバムのために作ったわけではない曲も収録されているので、バランスを考えました。使われている楽器、メッセージなどで繋がりを考えています。コンセプトがかなりはっきりしているので、サラッと聴くというよりは、世界観にガッツリ入っていただいた方が楽しめると思います。1曲目の『twelve』は、アルバムの1曲目であることを想定して作り始めていますし、世界観がはっきり伝わり、映像が浮かぶような曲を意識していました」
“シンガー・ソングライター”の肩書に偽りなし。全11曲中、9曲を楠木さん自身が作曲した。全曲の作詞も手掛けた。
「短期間で頑張ったので、もうちょっと褒められたいな(笑)。自分でもびっくりしています。シンガー・ソングライターを名乗ってますし、書きたいこともしっかりあるので、できる限りは書こうとしました。今回はあまり難産ではなくて、コンセプトが決まってからは早かったです。私は詞先なので、作詞をしながら曲のイメージを思い浮かべ、曲を作っています。いいのか悪いのかは分かりませんが、以前よりも早くできるようになっています。ただ、今回はなかなか取り掛かれなくて、曲ごとに、締め切りを決めてもらって、ペース配分を考えながら、作っていきました。
スムーズに曲が生まれてきたが、収録曲の「それでも」はすんなりとはいかなかった。
「曲を書くきっかけになった出来事があったのですが、なかなか曲にできなくて……。 言葉は思い浮かぶけど、メロディーが浮かばなかったり、落ち着きがなくて、やっとできた曲です。自分のために書いた曲と言っても過言ではないです。自分にあるものを誰かに届けたい、共感できるものになったら、と考えて自分の中にあることを書くこと多いのですが、自分のために書くことは珍しいかもしれません。『それでも』に関しては、発表しなくてもいい……くらいの気持ちで、自分のためだけに書きました。特殊な曲だと思います」
収録曲が発表された際、「優等生」というタイトルも話題になった。
「中学生くらいまで、自分が優等生という自覚があって。 周りから期待されたことに応えなければいけない、結果を出さなければいけないという気持ちが強かったんです。本来の自分は違うけど、周りの期待に追いつかなければいけないと苦しかった。自分の過去を振り返った時、優等生でいようとする苦しさはあまり共感されないとも感じていました。悪いことをしていた人が更正すると褒められるけど、優等生は評価されない。ずっと苦しかったし。自分が優等生である悩みは、周りからすると、自慢? 自分のことを優等生だと思ってるんだ?と悩みとして受け取られないし、話す機会もありません。特定の誰かに届けるっていうのを考えた時に、あんまり共感されたことない気持ちに共感したいなって思って。この気持ちに寄り添ってくれる曲にあまり出会ったことがなかったので、自分で書いてみようとしました」
曲を作ることで、自分を掘り下げていくことになる。苦しくはないのだろうか?
「しんどいところもあります(笑)。気付きたくないことに気付いたり、そのしんどさを真っすぐ曲に乗せています。今まで気付かないで抱えていたものに、個性があると思っていて、自分にしかないような感情を描くことで、解像度が上がり、奥行きが出て、より深く刺さるはずなので、苦しみながら作っています。誰にでもできることではなく、自分らしさを見つけたいと思っています。演技以上に自分本位で、自分を奥深く掘っていく感じはします」
◇それぞれの青を見つけてほしい
「LANDERBLUE」は“青”をイメージしたアルバムだ。楠木さんは“青”にどんな思いを込めたのだろうか。
「青はいろいろなイメージのある色です。爽やかだったり、青春の青だったり、逆に悲しい時の青もありますし、空や海の青もあります。総じて美しく、特別感のあるものだと思っています。このアルバムで、明確に届けたいのではなく、青の印象を広げていただきたいという思いがあります。顕著なのが最後の『turquoise blue』という曲です。この曲では、青を『つかみ取るもの』と表現していたり、『咲き誇るもの』としても表現しています。そういう不明瞭なものだと思うんです。タイトルの『turquoise blue』と歌詞の青はイコールではなくて、ターコイズのようにお守りのような曲になってほしい。皆さんが、それぞれの青を見つけてほしいという思いで書いてました。ほかの曲は、ストレートに断定しているものが多いですが、メインテーマとなるこの曲は広い意味を持たせようとしました」
楠木さんの誕生日の12月22日には、EX THEATER ROPPONGI(東京都港区)でバースデーライブ「TOMORI KUSUNOKI BIRTHDAY LIVE 2025 “LAPIDARIES”」を開催する。
「今回はワンマンでは初めてのスタンディングライブです。“LAPIDARIES”には、音楽を聴いた方が、自分自身を見つめて、自分の輝きを見つけられるように、という思いを込めました。皆さんが何かを見つけられるようなライブにしたいです」
楠木さんは、声優、シンガー・ソングライターとして大活躍中だ。ライブでもパワフルなパフォーマンスでファンを魅了している。パワーの源も気になるところだ。
「全然体力がないんですよ……。少し前まではお休みの日は何もしなかったのですが、最近は友達と遊んだり、心を休めることを意識しています。休みがなくてもおいしいものを探して食べたり、楽しくなることを探しています。食べて、遊んで、寝て、湯船にじっくり浸かって……と健康には気をつけるようになってきました」
バースデーライブでもさまざまな思いを胸に力強い歌を響かせてくれるはずだ。(阿仁間満/MANTANWEB)
提供元:MANTANWEB











