津田健次郎:ヒーローへの憧れ 悪役の醍醐味 アニメ「東島丹三郎は仮面ライダーになりたい」インタビュー
配信日:2025/11/16 9:01
「ハチワンダイバー」などで知られる柴田ヨクサルさんのマンガが原作のテレビアニメ「東島丹三郎は仮面ライダーになりたい」。40歳になっても本気で仮面ライダーになろうとしていた東島丹三郎だったが、その夢を諦めかけた時、世間を騒がす偽ショッカー強盗事件に巻き込まれる……というストーリー。物語の途中からショッカー戦闘員となる中尾八郎を演じるのが津田健次郎さんだ。津田さんが演じる中尾は、最初は悪役として登場するが憎めない。愛すべきキャラクターだ。津田さんに、ヒーローや悪役への思いを聞いた。
◇凡人の挫折や悔しさに共感
同作は、「仮面ライダー」を愛しすぎるオトナたちによる“本気の仮面ライダーごっこ”が描かれる。仮面ライダーのように変身したい……。子供だけではなく、大人もヒーローに憧れていいはずだ。何かとストレスの多い現代社会を生きていると、ヒーローへの思いが募ってくるというのもよく分かる話だ。
「ダメなおじさんの復活劇ですし、おじさんが大好きな作品ですよね。東島も中尾もおじさんですし。ただ、おじさんに限らず、若いキャラクターも現状に対して抱えているものがあり、それぞれの戦いの物語でもあります。そういう意味では、すごく勇気の出る作品だと思います。褒め言葉なのですが、とってもバカバカしくもあって、ほぼ全員がバカ(笑)。最高ですよね。キュートな馬鹿がずらっと並んでいて、すごく面白い作品です」
津田さんが演じる中尾は、ショッカーに憧れる極道。幼少期の過酷な日々の影響で、自分を救ってはくれなかった正義の味方・仮面ライダーの存在に疑問を抱いており、ショッカーに傾倒していく。組同士の抗争の中、蜘蛛男と遭遇、体を貫かれ、命を落としたかに思えたが、ショッカー戦闘員になってしまう。中間管理職のようなところもあり、中年男性が共感するポイントも多い。
「東島は一匹狼的なところはあるけど、中尾は組織の中にいるダメなあんちゃんという感じで、確かに中間管理職的かもしれません。中尾もいい意味でバカなので、自分のことをうまく分析できるタイプではない。フラストレーションがたまっていて、爆発しそうになっています。元々、悪役への憧れがあって、悪役好きの人の共感を得られると思います。僕も中尾の気持ちが分かります。中尾自身もバカですが、その子分の3人もバカで、キュートなんですよね。最初は、子分たちのことを見くびっているけど、段々と感化されていくところもあって、中尾はそういうドラマも抱えている」
津田さんは、中尾の魅力を「東島側のチームとはまた違う意味で面白いキャラクターです」とも話す。
「暴力的に最強クラスなのですが、圧倒的に強い奴らに出会っていって、挫折していく。そこも面白い。東島側のチームは突き抜けた変人が多いけど、中尾は凡人感があって、 凡人の持つ挫折や悔しさがあります。そこも共感しやすいところです。東島達は突き抜けているけど、中尾はあくまでショッカー戦闘員で、元々怪人でもないですし」
◇悪役は自由度の高さが魅力
津田さんが話すように、中尾は魅力的で愛すべきキャラクターだ。どのように演じようとしたのだろうか?
「社会に対して突っ張ってるものがいまだに残っているおじさんで、うまく消化できていない。イライラとか怒りが非常に強い人物で、そこが根っこになっていて、ネガティブ感情があります。ほかのキャラクターの根っこには、憧れがあるけど、中尾は自分へのいら立ちが根っこにあることを考えていました。あとは、コメディーパートをしっかり笑えるようにしないといけません。勢いがあるキャラクターが多いので、勢いを大切にしつつ、丁寧にも演じようと思っていました」
ショッカー戦闘員のおなじみの「イーッ!」というセリフも「思い切ってやった」という。
「『仮面ライダー』という歴史あるヒーロー作品の中で、変身シーンはカタルシスの一つでもありますし、中尾も変身パートがあるので、カタルシスを感じられるような強いシーンにしないといけないと思っていました。ある種の怒りの爆発みたいなものが『イーッ!』に乗っかっていってる感じはあると思います」
津田さんは、深みのある低音ボイスと演技力で、シリアスからコミカルまで幅広い役柄を演じ分ける。悪役にも定評がある。悪役の醍醐味を聞いてみると……。
「自由度が高いことだなって思っています。正義はやってはいけないことがあるけど、悪役にはほぼない。どんなことをやっても大体成立するので、自由度の高さが魅力だと思います。楽しいんです。普段できないこと、言えないこともいっぱいできますし」
◇偉人にもらった勇気
津田さんは子供の頃、ヒーローのような存在はいたのだろうか?
「子供の頃はあんまりいなかったんですよね。 『スーパーマン』とかは好きでした。あとは『スター・ウォーズ』など洋画が好きでしたね。もちろん『仮面ライダー』は見ていました。世代的には『アマゾン』で、格好よかったですね。ライダーベルトがほしいと思っていました。ヒーローは、規範になっていき、自分を鼓舞する存在だと思います。思春期になると、音楽家や画家、役者、映画監督などの偉人がヒーローになっていきました。表現者に限らず、偉人はほぼほぼ変人しかいないと思うんです。ある種の集中力は高いけど社会性がない。勇気をもらえます」
役者として大活躍している津田さんもヒーローのような存在にも見えるが「僕は全然足んないんじゃないですかね」と語る。
「突き抜けたい気持ちはあるんですけどね。偉人たちは守りに入らず、走り続けている。見習わないといけないと思っています」
「東島丹三郎は仮面ライダーになりたい」も突き抜けた魅力のあるアニメになっている。
「設定の面白さだけではないキャラクターのドラマがあって、それぞれが本気で、バカバカしくもあるけど、キュートなんです。人間味にあふれています。中尾がニワトリと戦うエピソードに、なんでこんなに尺を割いているんだ?ともなるけど、笑いに貪欲で、贅沢なアニメなんです」
津田さんが度々口にしていた「バカバカしい」は、最大級の褒め言葉だ。突き抜けたいけど、普段の生活ではなかなかできない。「東島丹三郎は仮面ライダーになりたい」は、勇気を与えてくれるアニメなのかもしれない。
「東島丹三郎は仮面ライダーになりたい」の原作は、「月刊ヒーローズ」(ヒーローズ)で2018年に連載を開始し、現在はマンガ配信サイト「コミプレ-Comiplex-」(同)で連載中。石森プロ、東映が協力している。アニメは、TOKYO MXほかで放送中。(阿仁間満/MANTANWEB)
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