ステつよ:羽原信義監督インタビュー 初の異世界アニメ 80、90年代OVA風“影”の演出が新鮮!
配信日:2025/10/05 10:01

オーバーラップ文庫の赤井まつりさんのライトノベルが原作のテレビアニメ「暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが(ステつよ)」がテレビ東京ほかで10月6日から順次放送される。監督を務めるのは「蒼穹のファフナー」「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」などで知られる羽原信義さんだ。「ステつよ」はいわゆる“異世界転移もの”で、羽原監督はベテランではあるが“異世界転移もの”を手掛けるのは初めて。羽原監督に制作の裏側を聞いた。
◇アニメの監督はやめようと思っていた
羽原監督は、1963年生まれ。1986年の「マシンロボ クロノスの大逆襲」でキャラクターデザインと作画監督を務め、1988年には「レイナ剣狼伝説」で監督デビュー。「D・N・ANGEL」「蒼穹のファフナー」「ブレイク ブレイド」「宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち」などで監督を務め、近年は「境界戦機」を手掛けた。SUNRISE BEYOND(サンライズビヨンド)の取締役も務めてきたが、定年退職となり、現在はフリーとして活動しており、「機動戦士ガンダムSEED FREEDOM」の演出を担当したことも話題になった。
羽原監督は「実はアニメの監督はもうやめようと思っていて……」と明かす。
「アニメを作るのは本当に大変なんです。全てのスタッフが自分の命を削って作っています。いろいろダメージを受けますし、それがそろそろ蓄積してきているんでしょうね。年を取ってくると、集中力がなくなってきたり、絵コンテを描こうとして頭には浮かぶけどなかなか描けない。昔からそんなに早い方ではなかったけど、ここにきて、しんどくなってきて……。自分が嫌になってきますし、何より人を待たせるのが一番しんどいんです。もうアニメの現場は体力的に無理だろうと思って、最初はお断りさせていただいたんです。いろいろあって最終的に自分が監督をすることになりました」
アニメは集団で作るものだ。羽原監督は「スタッフの皆さんに助けてもらった」と笑顔を見せる。
「今回も作業に時間が掛かって、ご迷惑をお掛けしてしまいましたが、なんとか進めることができたのは、チームが素晴らしかったからです。制作進行もほぼ20代前半で、若いスタッフもが多く、すごく助けてもらいました。最終的に本当にやってよかったと思っています。クリエーターと制作が一体になって頑張ってくれました。基本的にはSUNRISE BEYONDにいたチームがそのまま作っているのですが、バンダイナムコフィルムワークスの仲間たちが助けにきてくれました。大きな敵に立ち向かっている時、どこからともなく仲間たちが集まるみたいな感じで、すごくうれしかったですね。僕は3Dを含めたクオリティーコントロール、力の入れどころの配分を決めました」
◇異世界がウソっぽくなると集中できない
同作は、クラスメートと共に異世界に召喚された高校生・織田晶が、存在感が薄いがゆえ平凡な暗殺者の力を手に入れたはずだったが、そのステータス値は最強の職業である勇者を軽々と上回るものだった……というストーリー。晶は、冤罪をかけられて逃げ込んだ迷宮深層で、エルフの美少女アメリアと出会い、真の暗殺者になっていくことになる。
「異世界転移ものはジャンルとしては初めてですが、アニメは基本的に異世界ものが多い。僕の中で異世界ものというくくりは、そんなには意識していないかもしれません。原作は、情景が丁寧に描かれていますし、映像化しやすいとも感じました。キャラクターがどんどん出てくる群像劇としての面白さもありますが、アニメ化の際はバランスを考えて、晶やアメリア、夜をポイントにしようとしました。甲冑を着ているキャラクターも多く、アニメ化にあたって技術的に難しいところもあるので、そこをコントロールすることが念頭にありました。 元のキャラクターデザインのままでやったら、おそらく作画が崩壊する。ギリギリのラインまで線を減らしてチャレンジしました」
舞台は異世界となる。背景にもこだわった。
「異世界がウソっぽくなると、見ている方が集中できない。少しでもリアルにしたかったので、原作のチームに、どこの街のイメージですか?と聞いて、それを踏まえてリアルにしようとしました。基本的に僕が行ったことのある場所が描きやすいので、フランスのお城などの風景写真を撮っていものを参考にしました。空気感が分かっていないと、美術さんに説明するのが難しいですし。美術監督の鈴木朗さんが頑張ってくださって、とにかく背景が素晴らしいんですよ。見てくださる方には風景も楽しんでいただきたいです。本編では少ししか見えないところも提供バックで使っていたりします」
◇格好よさを優先
1980、90年代のOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)のようなリッチな画面も魅力になっている。近年はあまり見られないスタイルのようだが……。
「スタイルを決める時、基本的に影をたくさん入れようとしました。影を増やすことで、情報量を増やそうとしています。サンプルとなったのは『ベルサイユのばら』です。止めてもなるべく絵が持つようにして、作画のレベルが若干上下したとしても目立たないようにしたかった。最近のアニメは影をあまり描かないですよね。それはそれでキレイなのですが、影がないとデッサン力の差が露骨に出ますし、キャラ表では格好いいのに、映像になるとベタッと見えてしまうこともあります。現代で90年代の手法は新鮮に感じていただけるでしょうし、ダークファンタジーであるところが強調され、一つの作品のカラーになればと考えていました」
確かに令和の時代に、影を強調したアニメは新鮮に見える。
「最近ないんですよね。影をこれだけ付け始めたのは、80年代の前半くらいですね。若いスタッフはやったことがないので、最初は難しいと言ってました。キャラクターデザインの岡田洋奈さん、斉藤香さんにサンプルをいっぱい作ってもらい、第1話で影を入れてもらったものをみんなで見ながら、影を入れていきました。光源を考えると、この影の入り方はおかしいと言うスタッフもいましたが、この作品に関しては光源を無視していいと話をしました。リアルではなくて、リアルっぽい格好よさを大切にしているので、光源はウソをついてもいい。アニメーションならではの表現ですし、格好よさを優先しています。きらびやかさや豪華さも出ますしね」
スタッフによると「羽原監督の作品なら……ということで、豪華スタッフが集まってくださった」といい「若い人が多かったのですが、ベテランアニメーターの方も入っていただけました。びっくりするようなメンバーに集まっていただいているので、ぜひその辺りも注目してご覧ください!」と話す。
「アニメの監督はもうやめようと思っていた」という羽原監督だが、制作を終えて「楽しかった」と笑顔を見せる。
「中割が足りないから足して、動きも滑らかにしたり、すごくぜいたくにリテイクをさせてもらいました。みんなに協力してもらって、クオリティーがどんどん上がりました。もう大満足しています。そしてこの作品、オープニング,エンディングはもちろん、音楽も素晴らしいんです。五十嵐聡さんという方で初めてご一緒させていただいたのですが、僕がイメージしていた以上の豪華なBGMです。セリフも効果音も含めて、ぜひヘッドホンなどで細かい音まで楽しんでいただきたいです。原作を読まれた方も読んでいない方も楽しめる作品になっています。最後までご覧になっていただき、晶君と一緒に旅を楽しんでいただきたいです」
なお、羽原監督は引退したわけではなく、現在も参加している作品もあるという。次はどんな世界を見せてくれるのか? 期待は高まるばかりだ。
提供元:MANTANWEB