タコピーの原罪:永瀬アンナ×逢坂良太インタビュー 東兄弟の闇と光 気を緩めたら飲み込まれそうに
配信日:2025/07/19 9:00

集英社のマンガアプリ「少年ジャンプ+(プラス)」で連載されたタイザン5(ファイブ)さんのマンガが原作のアニメ「タコピーの原罪」。第3、4話では、久世しずかの同級生・東直樹とその兄の潤也の複雑な関係が描かれた。直樹は成績優秀で優等生だが、完璧な兄・潤也に強烈な劣等感を抱いている。直樹役の永瀬アンナさん、潤也役の逢坂良太さんに、収録の裏側を聞いた。(以下、第4話までのネタバレを含みます)
◇少しずつ変化していく東くんの演技
--作品の印象は?
永瀬さん 私は連載時から原作を読んでいましたが、衝撃を受けました。まさに「言葉が出ない」とはこのことで。登場人物と全く同じ体験をしているわけではないのに、この苦しさやつらさが身近に感じてしまうところがありました。
逢坂さん しんどい気持ちになりますよね。絵が可愛いから、余計にしんどい。僕も親になったのでなおさら、(作中に)ろくな親がいないな……と感じました。不思議なんですよ。子供に対してあんな扱いをしたり、暴力を振るったりする感覚が分からない。怖いですし、作品に出てくる大人にイラつきました。没入感が強かったので、そう感じたところもあると思います。
永瀬さん 私も大人たちの行動が理解できなくて、だからこそ子供たちのつらさがすごく分かるんです。
--直樹は家族に対して複雑な思いを抱えています。
永瀬さん つらいですよね。兄と比較される、母に失望される、しずかちゃんにすら見放されてしまったら……と考えてしまうこと。全てがしんどいです。東くんには「僕のことを見捨てないでほしい、置いていかないでほしい」という切ない気持ちがあります。家庭内で孤独感や自分の居場所がないと感じてしまうから、他人に優しく振る舞って人から褒められたり、求められたりすることで、自分の存在価値を確かめようとしているのかなと思いました。空回りしてしまうことがありますが、私は登場するキャラクターの中で一番共感しました。4話の最後、そんな東くんにたった1人の弟・直樹とちゃんと話してくれた潤也との場面は思わず泣いてしまいましたね。
--直樹を演じる中で大切にしたことは?
永瀬さん 常にネガティブな心を持つことです。兄に対する強烈な劣等感を抱いていたり、自己肯定感が極端に低かったりしますよね。誰かに認められるよう努力する東くんですが、マイナスなパワーが大きすぎて、基本的に物事を前向きに考えることができないんです。演じる上で意識することも増えました。1話とそれ以降では変えているところがあります。1話はしずかちゃんと助けようとしていて、相手がどんなことをしたら喜ぶのか、自分のことを認めてくれるのかを考えて発言しています。頭の中で一回テキストにしてから出力しているので、どこかわざとらしく聞こえる。3、4話で予想外の事態がたくさん起きて、その場しのぎの発言や行動しかできなくなります。そうするとチグハグな音量になったり、声がブレたりするんです。話の流れに合わせて、演じ方も少しずつ変化させようと意識しました。
--逢坂さんは潤也にどんな印象を持った?
逢坂さん 友達が多く、勉強ができて、弟のことを大事に思っているけど、全知全能じゃないので、弟の全てを見られているわけではありません。直樹が実はどういう思いを抱いているかは分かっていませんし、いろいろ怒られているだろうけど「頑張れ!」くらいの感覚だった。けど、実際は全然そんなものではないんですよね。直樹の心がバキバキに折れていたことを知って、「もっと頼れよ」という言葉がパッと出てくる。この作品に出ていることが信じられないくらい、いいヤツなんです。全然悪いところがない。
--演技もほかのキャラクターと違う? ほかのキャラクターは湿度が高めのイメージですが……。
逢坂さん そうですね。カラカラの晴天です。特に3話は、単純にいいお兄ちゃんで、直樹との差を見せようとしました。明るく突き抜けた方が、直樹の闇が見えてきますし。
◇収録のこだわりもすごい!
--オーディションと実際の収録では演技に変化は?
永瀬さん 大好きなマンガでしたし、「絶対やりたい!!」と思いオーディションに挑んだのですが、手応えが全くなかったんです。ダメだった……と思っていたので、出演が決まった時はすごく驚きました。(飯野慎也)監督に「何で選んでいただけたのですか?」と聞いたら「オーディションの時のとあるセリフでほかの人がやっていない芝居をしていて、それが面白かった」と言っていただけたんです。意識していたわけではなかったのですが、オーディションのお芝居を面白いと言っていただいたので、そのイメージを崩さないように演じました。
逢坂さん オーディションを一緒に受けた人に、出演が決まったことを話したら「ああ、やっぱり」と言われたんです。そう思ってもらえるってことはオーディションで演じた方向は間違っていないはずなので、変えないようにしました。
--収録の様子は?
逢坂さん 掛け合いを大事にしていて、(メインキャラクターの声優が)全員そろわないと収録しないんですよね。監督のこだわりがすごい。
永瀬さん 全員でやるからこそ、それぞれのお芝居も変わってきますし。最初からじっくり時間をかけて収録していました。
--共演する中で感じたことは?
永瀬さん 先ほどカラッと演じられるとお話されていましたが、潤也が登場すると、一瞬別作品を見ているのかと錯覚するくらいに圧倒的な“光”を感じるんです。潤也の言葉には裏がなく、全てが素直で影が一切ない。だから東くんの影がより濃くなるんです。私は逢坂さんと現場でご一緒させていただくのは初めてだったのですが、逢坂さんの持つ人柄やあたたかさが潤也と似ているのかもしれないと思いました。
逢坂さん ほかのキャラクターの掛け合いを聞いていると、「あれ?自分の演技浮いている?大丈夫かな?」と思いながら演じていました。でも、逆にそれが正解だったのかもしれないと今、分かりました(笑)。永瀬さんは、男の子はこれまでも演じていたんですか?
永瀬さん こんなにガッツリ演じるのは初めてです。
逢坂さん 直樹が落ちた時の闇がすごいですよね。僕はアフレコ現場の流れに乗って演じることが好きなので、潤也を演じる時、切り替えるのが大変でした。ほかのキャラクターに引っ張られて落ち込んでしまいそうになるけど、気合を入れないと、切り替えられなかったところもあります。
--永瀬さんは直樹を演じる中で闇に引っ張られるところもあった?
永瀬さん 家でリハーサル用の映像を見ていた時、東くんが追い詰められる描写があまりにもつらくて、少し練習できなかった時間がありました。特に4話はそうでしたね。果たして自分にできるのかと、不安にもなりました。アニメになったことでさらに残酷に見えてしまったところがあったんです。その辛さや恐れを抱えて収録に挑みました。私の抱えるその不安が、東くんの心情にうまく映っていればいいのですが。
◇こんなにしんどいのは初めて…
--しずか役の上田麗奈さんの演技にも引き込まれます。共演する中で感じていたことは?
永瀬さん 引き込まれますよね。上田さんの魅惑的な声と演技。少し気を緩めたら飲み込まれるような感覚がありました。休憩中はみんな和やかで、ワイワイ楽しくお話していました。それがあったから何とか収録できたんだと思います。
逢坂さん 3、4話で、上田さんの芝居を聞いていると、言葉は笑ってたりするんだけど、空虚さを感じたんです。いじめられていた頃の1、2話の方が感情を感じるんですよね。 不思議です。正直、上田さんにこういう役をやってほしくないんです(笑)。心がキレイな人だからね。
永瀬さん しずかちゃんはチャッピーを探しに行くという目的以外に何にも興味がないんですよね。東くんのこともただ利用していただけで、何とも思っていないんですよね。
逢坂さん そうそう。「自首してくれないかな」のところもすごく怖かったですよね。
--話題作ということでプレッシャーもあった? 挑戦になったことは?
永瀬さん 話題作でしたし、私自身原作が大好きだったので、緊張感やプレッシャーはありました。挑戦になったことは、気持ちの切り替えですかね。自分はフィクションと現実世界の区別はしっかり付けているつもりだし、普段の自分と演じる役の切り替えも得意だと思っていたのですが、演じていてここまで心がしんどくなるのは初めてで。毎話「飲まれすぎてはいけない、頑張らないと!」と自分を鼓舞して収録に挑んでいましたね。
逢坂さん 話題作は、期待値が高いですし、どうしてもよく見せようとして、変な気合が入って、空回りしちゃうことがあります。でも、そこを自然にしないといけないですし、皆さんと一緒に作っていくことを大切にしなきゃいけないと思います。だから、毎回が挑戦なんです。そりゃ、意識しちゃいますよ。タイザン5先生の「一ノ瀬家の大罪」のボイスコミックに出演させていただいたこともありますし、余計にそうです。でも、しっかり潤也でいようと意識しました。
--スタッフ、キャストの思いが詰まったアニメになっています。
逢坂さん すごいことになっていますよね。1話からずっとすごいです。
永瀬さん 絵コンテの段階から、これはすごいアニメになる!と思っていました。こだわりがたくさん詰まっていますよね。
--第5話以降は?
永瀬さん 原作から少し膨らませて追加されているシーンがあるので、既に原作を読んでいる方も、キャラクターたちの違う一面も見られるかもしれません。ぜひ楽しみにしていただきたいです。「タコピーの原罪」ぜひ最後まで見ていただけるとうれしいです。
提供元:MANTANWEB