日笠陽子&戸松遥:「劇場版モノノ怪」インタビュー(1) 画力に負けない「女の強さ」を “言葉に込めない”表現も
配信日:2025/03/15 7:31

2007年にフジテレビの深夜アニメ枠「ノイタミナ」で放送された人気テレビアニメ「モノノ怪」の完全新作劇場版三部作「劇場版モノノ怪」の第二章「劇場版モノノ怪 第二章 火鼠」が、3月14日に公開された。劇場版は女たちの情念が渦巻く大奥を舞台に、薬売りが“モノノ怪”の正体を追うことになる。新人女中のアサとカメがメインキャラクターとして登場した第一章「唐傘」を経て、第二章では、天子からの寵愛を一身に受ける町人出身の御中臈・時田フキと、老中の娘・大友ボタンがメインキャラクターとなる。たたき上げのフキと、名家出身のボタン役という対照的な2人を演じるのが、声優の日笠陽子さんと戸松遥さんだ。第二章の魅力や収録の裏側を聞いた。
◇「劇場版モノノ怪」が描く大奥 大きな渦
――第二章では、天子の世継ぎを巡る大奥の家柄同士の謀略や衝突が描かれます。シナリオを読んだ印象は?
戸松さん 第一章とはテーマがちょっと違っていて、大奥の真髄の部分、深い闇の部分を掘り下げたお話だなと。大人の生々しさ、人間の汚い部分というか、陰謀が渦巻いていて、ドロドロしている。多分皆さんも、いろいろな思いを抱きながら見ることになるだろうなと。自分も大奥について詳しかったわけではないので、女子たちのドロドロとか女たちの戦いくらいの印象だったんですけど、「モノノ怪」の世界の大奥では、偉いおじさんたちがすごく腹黒くて。ボタンに関しては、サラブレッドな家系で生まれているにもかかわらず利用されていたりして、客観的に読むと「うわ……すごい世界だな」と感じました。
日笠さん 第二章のカットを見ていると、色彩豊かに描かれていて、きっと最初は真っ白なキャンバスに描き始めたんだろうけど、今回は“火鼠”ということで消し炭になるな……と諸行無常を感じます。ストーリーとしては、大奥も最初作られた時は白いキャンバスのようで、“色”がついていくごとに「いや、この色にこの色を合わせたらダメだよね」と、良かれと思って始まった“色合い”にだんだん不和が生じ始めて。規律、法則性も先々進んでいくと、「あれ? うまくかみ合わない」と、キャンバスがぐちゃぐちゃになっちゃう、時代には合っていないものになっちゃうというか。やはり大奥は人の手で生み出してるものであって、最終的に消し炭になるんだな、なくならないものって多分ないんだと。「火鼠」はそんなことを思わせるお話でした。
――確かに、大奥はなくなってしまいます。
日笠さん 私たちは大奥がなくなってしまった歴史を知っているけど、なくなるその日まで、燃えかすになろうとも「よりよいものは何なんだろうか?」と探求していったのがボタンであって。フキに関して言うと、子供という次につながっていくものに何を与えていけるのか、何を残していけるのかと。そういうことをすごく考えさせられるし、歴史は巡る、時代は繰り返すみたいなものが各章の中に描かれている。恐らく第三章を含めて、きっと大きな渦みたいなものがあるのかなと思いました。
◇精いっぱいのフキと超ビジネス脳のボタン 2人の対比
――フキとボタンは第一章にも登場しました。第二章では、総取締役だった歌山の後任となったボタンが規律と均衡を重んじるあまりフキと対立することになります。演じる上で意識したこと、大切にしたことは?
戸松さん ボタンは、第一章の時はそんなに出番がたくさんあったわけではなく、アサやカメたちから見えるボタンを演じている感じだったので「マジ大奥……!」みたいな(笑)。「これはかなわないわ、上の人ってすごい」という存在になれていたらいいのかなと。第二章は、天子様に選ばれたい女子たちがたくさんいて、御中臈たちの内情が描かれていく中で、特に前半はフキとボタンが対照的に描かれることが多いんです。ボタンは、自分の家系も含めて、長く続くこの大奥を自分がどうにかしたいというよりも、みんなで協力して、誰かが成績を残してくれればいいという考え方なので、「私を選んでください」という我はなくて。誰が選ばれようと、大奥が存続してくれるならそれでいいという超ビジネス脳なんです。
――感情的になりがちなフキとは対照的です。
戸松さん フキは結構人間臭くて、感情豊かに思いの丈をぶつけるのですが、ボタンとしては「それで気が済みましたでしょうか?」みたいな。最初のほうのボタンはかなりシステム的で、私情はいらないという感覚だったので、演じる上でも大奥に対しての責任感と存続を第一に考えることを忘れないようにしました。途中からは昇進して立場が変わって、父親との関係性も含めて怒涛の展開になっていくので、この第二章を通して、ボタンの変化を皆さんに伝えられたらいいなという気持ちで演じました。
――日笠さんは、フキをどのような人物と捉えて演じましたか?
日笠さん フキは、天子様から寵愛を受けている優越感があったりして、ものすごく人間らしいなと思うんですけど、彼女が自分なりに「これが正義だ」と貫いていたものが、実は外から見ると「それってちょっと悪くない?」「ダメじゃない?」ということもあって。私自身、フキを演じてはいるんですけど、映像を見ていると「フキよ、ダメじゃない、お前?」「自分だけが頑張っているって思ってないかい?」と、フキを子供のように思う感覚があるんですよね。
――ボタンとの対比は意識しましたか?
日笠さん 自分が真っすぐフキを演じていると、自然と対比されるように描かれていたので、あえて対比しようとは思わずに演じていました。フキとボタンの対立、対比もあったなと思うのですが、深く見ていくと、実は根幹にお父さんの存在があって、お父さんと自分という対比もある。大奥の外に老中という男たち、中に女たちがいて、広い世界の男たちと囲まれた女たちという対比もあって、いろいろな対比が存在しているなと。フキは、そうした渦に飲まれるか、飲まれないかのところで精いっぱい生きている女性だなと感じています。すごくいっぱいいっぱいで、精いっぱいで、一生懸命で、全力だなという感じはありますね。
◇モノノ怪を生むほどの情念 言葉、音だけでない演技
――「劇場版モノノ怪」シリーズは、膨大なカット数、独特の映像美が特徴です。収録でこの作品ならではと感じたことはありますか?
戸松さん やはりカット数がすごくて、油断すると、もう10カットくらい進んじゃっている。この意味ありげなカット割が「モノノ怪」の独特の演出でもあるので、ものすごい勢いでカットが切り替わっていく中で、見ながら、考えながら、聞きながら、声を当てるのを全て同時にやるという。1回の収録での集中力は、すごく必要とされていたかなと思います。実際出来上がったものを見ると、このくらいのスピード感がないと「モノノ怪」じゃないなと。すごい画力に負けないくらいの芝居もしなきゃいけなくて、力強さと、音だけじゃない気の強さ、女の強さみたいなところを出していかないと、というのはありましたね。
日笠さん 当時は、大奥の規律もそうですし、着物を着ていて、所作があって、という。着物の重さを考えると、殴りかかりにいこうとする場面も、ジャージで殴りかかりにいくのと、着物で殴りかかりにいくのはやっぱり違う。この時代は、寝てる時も着物を着て、帯を締めていたりするから「きついだろうな」と。でも、それが普通であるように芝居をする感覚というか。感覚の違い、時代の違いは、すごく難しいと思いながらやっていました。
――本作で描かれる大奥は、ほかの作品と違う部分もあります。
日笠さん 「この大奥」という世界線だからこその難しさだとは思うんですけど、この作品に登場するモノノ怪は、人間の情念とか黒い気持ちが生み出したものだと思います。モノノ怪を生むくらいの情念がある。それを言葉だけで表現するって難しい。だから、逆に言葉に込めないというか、表に出さない。表に出せない思いや政治のいろいろなものを中に煮詰めたからモノノ怪が生まれているから、そういう意味では、せりふに乗せようと思わずに、自分の中で思いを乗せる、ということを意識しました。
インタビュー(2)に続く。
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