添い寝するけどHはナシ! 歪な男女関係『カカフカカ』
更新日:2016/07/15 10:00
付き合ってないけど身体の関係を持つ、結婚してるけど配偶者以外に恋をしている…表に出てくることは決して多くはないものの、そうした歪な男女関係は世の中にはびこっています。
この作品に出てくるとある男女は、恋愛感情も肉体関係もなくただ一緒のベッドで眠るだけの、いわゆる添い寝フレンド。通称ソフレと呼ばれる彼らの関係は、特別な感情を持ったり、それ以上の行為に及ばないのが暗黙のルールらしいです。
そうとは言っても男と女、何かしらの間違いが起こってもおかしくないでしょ! ハラハラしちゃうリアルなイマドキの男女関係を楽しめる作品「カカフカカ」 (石田拓実/講談社) の魅力をご紹介します。
黒歴史でしかない元カレと再会! なんと彼は○○になっていた!?
主人公・寺田亜希は就職活動にくじけ、フリーター生活を続ける24歳。同棲していた彼氏の浮気現場を発見し、別れてからは帰る場所もないというどん底に陥ります。
そんなとき友人が紹介してくれたのは、赤の他人同士が共同生活を送るシェアハウス。藁にもすがる思いでやってきたら、そこには中学時代の元カレで初体験の相手・本行智也がいた!
おっとりした草食男子に見える彼ですが、実は深刻な悩みを抱えていて…その悩みが『添い寝』関係のきっかけとなります。
入居初日、ちょっとしたハプニングで本行と密着!すぐ後ろの彼から感じる、固い感触。さすがに何かわからないほど鈍感な亜希ではないので、悲鳴を上げてすぐに離れます。
後日、亜希が知ることになる彼の悩みとは…男性にとって大事なところが元気にならないこと。
こんな深刻でプライベートな悩みを、数年ぶりに再会した元カノに打ち明けちゃうから本行のマイペースぶりにはびっくり。ちなみにシェアハウスの人間も全員知っています。
前の彼女ともそれが原因で別れたのに、なぜか亜希にだけは反応する模様。それを発見した本行は、亜希に“相談がある”と言って協力を求めてきます!
「ヘンなことは絶対しない」そう約束してなぜか始まった添い寝生活。一体どうなっちゃうのでしょう?
Hよりも官能的? ドキドキの添い寝シーン
本作の見どころは、なんと言っても添い寝シーン。Hシーンよりも官能的でドキドキ感が煽られちゃうのが魅力なんです!
添い寝のときは、本行が亜希に抱きつくような格好が彼らの通常スタイル。絶対動かさないから、という約束のもとお腹に回された手でしたが、あるとき今日は動かしていい?と問う本行。本行の手が体をそろそろと這う様子は、見てるだけでこっちまでくすぐったくなってきちゃう!
お互いの顔は見えないままで、相手の手の動きや息遣いだけ感じるという状況。見えるところが少ない分、音や触感に敏感になってドキドキしちゃいますよね。
昼間でも本行の言動に振り回される亜希。掃除のためマスクをかけていた亜希をじっと見つめ、マスク越しの突然のキス!
「直接じゃないからセーフだよね」って、何がセーフなの?! と絶句する亜希に涼しい表情のままの本行。
添い寝をするだけの関係なのに、どうしてキスなんてしたの!? なんてモンモンとした読者もきっと多いはず。もちろんそんな亜希や読者の気持ちなんてつゆ知らず、本行はいつも通り飄々とした態度なのでした。
「本行に触れられたい」そう気がついた亜希は、(最後まで)してもいいよ、と打ち明けます。さあどうなる…!
子どもじゃないけど大人でもない。リアルな若者像
ルームシェアの住人たちは、本行を始め個性的な面々ばかり。
シェアハウスの管理人・長谷太一は、いつでもさわやかな笑顔を浮かべているイケメン編集者で、小説家である本行の元・担当者でもあります。
でもその裏に見え隠れする歪な心…どうやら過保護な母親によって植えつけられた様子。たまりませんね!
彼は、これといった夢も目標もなく家事をひと通りこなせる亜希に「ちょうどいいから」という理由でプロポーズします。
愛だの恋だの一時の感情よりも、損得で動いたほうが合理的。どこか冷めた考えを持つ若者の代弁をしているようにも見えます。
そんな彼のプロポーズによって、亜希と本行の関係にも変化があって…?
もう一人の住人、栗谷あかりは、亜希のバイト先の先輩でもあります。本行作家先生の大ファンで、とても美人で近寄りがたい印象ですが、本行のこととなると語り出したら止まりません!
彼のことは崇拝に近い感情を抱いているあかりですが…本行に触れてほしいとか、抱きあったりキスしたいとか思わないの? という亜希の問いに顔を真っ赤にしてしまいます!
どうやら自分の気持ちを自覚していなかったようで…あかりの初々しい恋を応援したくも、“添い寝”協力だけだったはずの亜希と本行の関係も気になる!
大人になりきれていない、子どものようなワガママさが残る大人たち。そんな微妙な年齢の若者たちを描いた本作は、同世代はもちろん、さまざまな世代な人達が面白いと思うはずです!
自分の価値とは? 現代的な悩みを抱えるリアルな若者像
純真無垢な中学時代、亜希は理由もなく無敵でした。自信に満ち溢れ、クラスで特に目立つわけではなかった本行に「つきあってもいーよ?」と上から目線の告白。
しかし成長するにつれ、ランク付けが明確にされてきて、自分は平凡な人間なんだと気付きます。就職活動は大失敗し、長く付き合った彼氏にも振られる。
自然と「どうせ」「私なんか」と自分を低める卑屈っぽい話し方が身についてしまった亜希に対して、あかりがズバッと一言。
作中、亜希はそんな自分について値引きシールを使って例えています。
自分自身に高価な値札を貼っていたら、上からどんどん値引きシールを貼られていく。それならばいっそ初めから安い値札を貼っておこう。
そんな亜希の考えにギクッとした人も多いのでは?
何かと期待することに疲れ、期待して裏切られたり失敗をしたりするくらいなら、始めから最小限の期待に留めておく。イマドキの若者っぽさが現れています。実際に、「カカフカカ」 (石田拓実/講談社) の感想でも「やたら自信のない亜希に共感する」というものは多いのです。
社会からも恋人からも見放され、自分はいらない存在なんだ、と思っている中、例えどんな理由であれ自分を唯一無二として求める存在が現れてしまったら…それが中学時代の黒歴史を知っている相手だったとしても、ぐらついてしまいますよね。そんな人間の弱さも描かれていて、ちょっと心が痛くなります。
でも、“毎日が最安値”な亜希は、あかりからの言葉にハッとさせられます。
皆さんも買い物のとき、わざわざ興味のないモノの値札までチェックすることはありませんよね。
周りにどう思われているか、周りの目に自分はどう写っているのかを気にする人は多いと思います。でも、自分が思っているより他人は自分に興味はないもの。本当に興味を持ってくれる人にだけ、自分の価値をさらけ出してあげればいいんですね。
「カカフカカ」 (石田拓実/講談社) は、作者・石田拓実さんの描く柔らかい絵柄と、人間への深い洞察力が見事に組み合わさった傑作。女性が思わずきゅんとするようなシーンはもちろん、ハッとさせられるような言葉もたくさん散りばめられています。
元カレから打ち明けられたシモ話、というあらすじだけでも興味を引きますが、それ以上に人間ドラマを垣間見ることができる、おすすめの少女漫画です!