相手の知略を読み解け!!『DEATH NOTE』の白熱する頭脳戦
更新日:2016/10/05 10:00
手に汗握る頭脳戦、異なる正義の対決、複雑なストーリー……。
名前を書いた人物を死なせることができる死神のノート「デスノート」をめぐる漫画「DEATH NOTE」 (大場つぐみ・小畑健/集英社) は、2003年12月に『週刊少年ジャンプ』で連載が始まると、そのスリルとサスペンスから、たちまち大反響を呼びました。メディアミックスは映画やアニメだけにとどまらず、小説、テレビドラマ、ミュージカル、TVゲームにまでおよび、連載終了から10年経った2016年現在でも、実写映画版三作の続篇の公開が予定されているほどです。
全12巻の世界累計発行部数は3000万部以上と、いまだ人気の衰えない国民的漫画「DEATH NOTE」。多くの連載作品があり、そのうえ常に読者の支持を得ることが求められる『週刊少年ジャンプ』の中で、これほどまでの大ヒットを記録できた要因はなんだったのでしょうか?
今回は、原点に立ち返って、読者を強く惹きつける「つかみ」となる原作第一巻を中心に、仕掛けられた数々の知略に鋭く迫ります!!
「DEATH NOTE」は、2003年12月に、大場つぐみ原作、小畑健作画で『週刊少年ジャンプ』で連載が始まりました。小畑健は「ヒカルの碁」 (ほったゆみ・小畑健/集英社) などですでに著名なベテラン漫画家でしたが、大場つぐみは当時一切の経歴が不明。
しかし「DEATH NOTE」のヒットで覆面作家ながら一躍有名になり、「バクマン。」 (大場つぐみ・小畑健/集英社) もこの二人のコンビで描かれました。
さて、あらすじに入っていきますが、たくさんのメディアミックスで、ストーリーくらい知っているよ、という方が多いかもしれません。が、ここからは頭の中を一回リセットして、新連載を読むような真っさらな気持ちで臨んでみてください。
衝撃の「第一話」
主人公・夜神月(やがみらいと)は、常に全国共通模試1位の秀才高校生。あるとき、学校の校庭に黒いノートが落ちるのを目撃し、拾って持ち帰りました。ノートの名前は「DEATH NOTE」。
「このノートに名前を書かれた人間は死ぬ」
「書く人物の顔が入っていないと効果はない」
「名前の後に人間界単位で40秒以内に死因を書くとその通りになる」
「死因を書かなければすべて心臓麻痺となる」
「死因を書くと更に6分40秒詳しい死の状況を記載する時間が与えられる」
このようなルールがつらつらと書かれていましたが、ライトはイタズラの類だろうという感想を抱き、「くだらない」と一蹴します。
しかし五日後。ノートを落とした死神・リューク(「デューク」と間違われることが多いが、正しくは「リューク」)がライトの前に出現。
死神の風貌に驚くライト……でしたが、すぐに落ち着きを取り戻し、「これでますます確信を持って行動できる」と言い、リュークにノートの中身を見せます。
ノートにはリュークもびっくりするほどの大量の名前が。ライトはもうすでにデスノートを使った殺戮を始めていたのでした。
リュークは「そのノートはもうお前の物だ。いらなきゃほかの人間に回せ。その時はおまえのデスノートに関する記憶だけ消させてもらう」と述べ、こう続けます。
……「絆」という言葉を使うと物騒な感じがなくなる気がしますが、もちろんノートを使う代償はあります。それは、「ノートを使った人間は天国にも地獄にも行けない」こと。死んでみるまでわからないわけであります。
ここまで読むだけでも、いくつか疑問がわいてきます。ライトはどうしてこんなに殺人を犯せたのか? ライトはノートの所有者となる運命にあったのか? なぜノートは英語なのか? リュークは何のためにノートを落としたのか?
答えは一つ。二人とも「退屈」だったからです。リュークは死という概念がなく暇ばっかりの死神世界に飽き飽きしており、人間界で最もポピュラーな言語である英語に訳して、適当に落としたのでした。
また、ライトはその頭の良さを持て余しており、生活に刺激を求めていました。
殺しても構わない、死んだ方が世の中のためになる人間ばかり……。ノートの力に半信半疑でありつつ、ノートの実験体を探して回ります。
立てこもり犯とナンパ男を殺害し、デスノートを本物だと確信したライト。ドストエフスキー『罪と罰』のラスコーリニコフのような罪の意識に一時とらわれますが、決意を改めます。
犯罪者たちを一掃すれば、世の中は確実により良い方向へ向かうはず。悪の掃除は、自分にしかできない。
悪者たちがそろって心臓麻痺で死んでいくことが世間に広っていけば、「正義を行使する者の存在」におそれをなして、犯罪の抑止につながっていく……。そして最後に自分はその新世界の神となる、と。
少々長くなりましたが、驚くべきはここまでが「第一話」、すなわち連載第一回目であることです。なんと濃密。しかも、デスノートのルールをはじめとする、数多くの設定がどのように活かされていくのだろうという期待感も如実に感じさせてくれます。
いうなれば、ライトの考えは独り善がりです。しかし、誰しも一度は「悪のいない平和な世界」を想像したことがあるのではないでしょうか?少年漫画によく見られるアクションを一切廃し、答えのないこの善悪の問題を突き付けるダークな雰囲気も、読者の心を強く惹きつける要因と言えるでしょう。
究極の推理対決の幕開け
このように「つかみ」から凄まじい漫画ですが、風呂敷は広げすぎると、かえって失敗を呼んでしまうもの。作者側がルール違反をするわけにはいきません。
加えて、この作品は現代社会が舞台であるため、一定程度のリアリティは保たれていなければなりません。つまり、捜査がずさんであったり、警察が馬鹿ばっかりであったりすれば、たちまち批判のもとになってしまいます。
第二話から、マスコミや警察を巻き込んで、もう一人の天才であるL(エル)が登場、ライトとの対決姿勢をあらわにします。
Lは、名前も居場所も顔もわからない正体不明の人間で、世界の迷宮入り事件を数多く解いてきた「探偵」です。デスノートという証拠をおさえられなければ捕まるはずはないと高をくくっていたライトはまんまとLの罠にはまり、救世主としてまつりあげられていた「キラ」の居場所が日本の関東であることを突き止められてしまいます。
世界中を巻き込んで、お互いに顔も名前もわからない相手同士で戦うという、推理小説でいうところのフーダニットの究極形のような対決の開幕であります。
「DEATH NOTE」の白眉は、この天才同士の激しい頭脳戦です。命を懸けて裏の裏の裏を読み合うわけですから、下手をすればご都合主義になりかねません。
そう、第二話の時点でもうすでにルールや制約でがんじがらめなのです。
疑問→仮説→検証→結果の推理サイクル
さて、関東在住であることがばれてしまったライトですが、彼の父親の夜神総一郎は刑事局長であるため、隠れ蓑として使うことができるどころか、警察内部の情報を知ることもできるので、自信は揺らぎません。
しかし、リュークはこんな疑問を持ちます。
……もっともな謎です。ライトは「人間は裏表のある生き物だ」として、Lと警察への策をこう述べます。
不信をはびこらせ、Lと警察の協力関係を引き裂けば、警察がLを突き止めてくれる。そうすればLを消せる。なかなかリスキーですが、ライトの読みどおり、キラに殺されたくないと思う警察関係者が徐々に捜査を離れていきます。
Lもライトの予想したとおり、極秘裏にFBIに警察内部の捜査を依頼し、関係者の家族を尾行するよう申し付けます。
リュークの口添えにより異変に気付いたライトはさっそく対策を練ります。と、そこへリュークが非常に魅力的な提案をします。
死神の目は、人間の顔を見ると、名前と寿命が顔の上に浮かぶ。ノートを手にした人間は、死神との取引として、寿命の半分と引き換えに、その「死神の目」を手に入れられる。Lとの戦いにはもってこいの能力です。
しかし、ライトは「新世界の神として長く君臨したい」として断ります。ライトの性格がよくあらわれたシーンの一つです。
ついでに死神から死神だと褒められます(シリアス場面が続く「DEATH NOTE」で数少ないギャグでもあります)。
リューク認定の、人の死を自在に操る神となったライトは、ルールを最大限に解釈しようとします。以後ますます「死」が記号化され、頭脳戦の色合いが濃くなっていきます。
Lも負けじと、疑問→仮定→検証→結果というサイクルを繰り返してキラの正体に迫ろうとしますが、今度はライトの策謀が功を奏して、FBI捜査官12人全員死亡という手痛い敗北をします。
この「疑問→仮定→検証→結果」という推理サイクルは、続巻でも何度も使われます。というより、このサイクルに基づいて彼らは駆け引きを繰り返すのです。ミステリー的に言うと、これは作者から読者への「天才二人はどのようにこの局面をくぐり抜けると思う?」という「挑戦状」でもあります。
Lの自信
第二巻途中までで、FBIから手を引かれ、捜査継続を望む日本の警察関係者も5名程度となり、苦しい状況に置かれたL。しかし、彼自身はまだ負けたと思ってはいません。
そう、彼はキラが「名前がわからなければ殺せない」ことを突き止めています。捜査の専門家であるFBIを12人も殺害したことで、キラも手掛かりを残しているはずだという確信もあります。
夜神総一郎や松田など信頼できる捜査陣に、部下のワタリとともに顔を明かし、敗因を分析しつつ、「幼稚で負けず嫌い」なキラに対し、「正義は必ず勝つ」と宣言します……。
と、ここまでが11話です。これだけざっくりとした紹介でも、プロットの緻密さ、あふれ出るスリルが伝わったかと思います。このあと、アイドル弥海砂と、もう一冊のノートの死神レム、また第二部では協力者魅上が登場し、物語はますます読めなくなっていきます。
「天才」という設定だけではそのキャラがどう天才なのかわかりません。読者の予想のはるか先をいく読み合いが克明に描かれているからこそ、彼ら二人が「天才」であることがわかるのです。デスノートという奇抜な設定が奇抜なだけで終わっていない理由がそこにはあります。
最後に2016年公開の映画『デスノート Light up the NEW world』について。
2015年9月、テレビドラマ版最終回終了後に制作が発表され、2016年10月29日の公開が予定されています。キラ事件から10年後の世界での六冊のデスノートをめぐる物語です。
キャストは、ライト役の藤原竜也やL役の松山ケンイチは出演せず、弥海砂(ミサ、みさみさ)役は戸田恵梨香が続投します。その他の出演者は、ニア役やメロ役はおらず、この二人とは違うLの正統後継者「竜崎」を池松壮亮、キラに心酔するサイバーテロリスト紫苑優輝を菅田将暉、そしてデスノート対策本部捜査官である主人公三島創を東出昌大となっています。
どのようなラストになるのかとても楽しみです。
小説と比べると、漫画はどうしても早く読めてしまいますが、「DEATH NOTE」はゆっくりじっくり読んでみることをおすすめします。どんどん先を追っていっても良いのですが、ロジックを楽しむのもこの漫画の魅力の一つだからです。ぜひ、物語の結末だけでなく、一つ一つの事件や知略の最後にも注目してみてください。
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作者
にしのともき
1992年生まれ、長野県出身のフリーライター。活字を読むことが生きがいの中毒患者。小説、漫画、映画すべて楽しみ尽くしたいと手当たり次第むさぼる日々。好きな漫画は『寄生獣』。だいたい自宅か神保町にいます。記事タグ
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