独占漫画家インタビュー:もんでんあきこ「漫画の表現には果てがない」
更新日:2017/11/17 10:00
“まるで純文学のよう”と大きな反響を呼ぶ『エロスの種子』。近現代の退廃的な空気と、美しい線で繊細に紡がれたエロスが見事にマッチした、もんでんあきこ先生の短編集です。ジャンルにとらわれず、さまざまなヒット作を生み出すもんでんあきこ先生ですが、どんな漫画に影響を受けて、どんなきっかけで漫画家になったのでしょうか?
閉塞的な時代とエロスの融合
――「エロスの種子」 (もんでんあきこ/集英社) では多くの反響を呼んでいますが、ご自身の今の実感としてはいかがでしょうか?
今までの漫画家人生で、これだけの反響をもらったことがないので本当に驚いています。
レビューの更新が楽しみで、毎日サイトを見に行っています。ダウンロードしてくださった方、レビューしてくださった方、本当に嬉しいです! ありがとうございます!
――『エロスの種子』が生まれたキッカケがあれば教えてください。
終戦後の日本を舞台にした「女衒夜話」 (もんでんあきこ/集英社) を描いたことが一つ大きなきっかけになったと思います。それまでも昭和前半の時代背景に惹かれるものがあったんですが、今まで描いてきたエロスの表現がそれと上手く融合した手応えのようなものが、この作品ではっきりと感じられました。それから、この路線をまた描きたいという熱はあったんですが、なかなか描く機会に恵まれなくて…。ふとしたタイミングで、以前から声をかけてもらっていた編集さんに相談したところ、とても興味を持ってもらって「グランドジャンプPREMIUM」(集英社)に掲載が決まったんです。縁とタイミングってあるんだなあと思いました。
――『エロスの種子』の中で、特にお気に入りのエピソードはありますか?
昭和40年代のストリップ劇場・ロマン座を舞台にした「マリーゴールド」は、資料集めに苦労したので特に思い入れが深いです。ネットで調べて取り寄せようにも、そもそもストリップ関連の本はほとんど絶版なんです。この話を思いついてから2年、地道に集めた資料たちをもとに、何とか形にできました。ロマン座の劇場(ハコ)は、かつて存在していたいろんなストリップ劇場の寄せ集めでできてるんです。
――もんでんあきこ先生の描かれるキャラクターはどれも魅力的ですが、特に思い入れのあるキャラクターはいますか?
「エロスの種子」 (もんでんあきこ/集英社) のお気に入りといえば、「ジゴロ」の井崎六郎(いざき ろくろう)と「マリーゴールド」の林(はやし)ですね。とにかく、やさぐれたオッサンが女で身を滅ぼすという話が大好物なんです。過去作「女衒夜話」 (もんでんあきこ/集英社) しかり…。
――様々なジャンルでご活躍されているもんでんあきこ先生ですが、『エロスの種子』のように、青年誌向けの作品を描く際に何か心掛けていることなどはありますか?
以前は青年誌で描く時は背景多め、心理描写や効果は少なめで…と思っていましたが、最近はそんなに意識しなくなりました。肩肘張らずに、自分の呼吸で自然に描けるようになったからかもしれません。絵もお話も情報過多になりすぎず、スッキリわかりやすく表現できるのが理想です。
――作品の中で、ご自身と似ていると感じるキャラクターはいますか?
どのキャラも自分の要素は入っているものの、基本的にみんな他人だと思って描いています。私はデビューしてからしばらくの間は、話を作るのが本当に下手でした。そこで当時の担当編集さんに指導してもらって、まずは自分が感情移入できるキャラを作り、ストーリーの中でどんな感情を持つか、というのをベースにしながら作ってくことになりました。自分の感性をダイレクトに表現するならそれでもよかったんですが、そうすると同年代の限られた世界の話しか描けなくなってしまう。その限界を越えるのにかなり苦戦したんですけど、ここ数年でやっと物語を俯瞰で描けるようになってきたなと感じます。
漫画家“もんでんあきこ”を構成する三大漫画
――もんでんあきこ先生が漫画家になろうと思ったキッカケ、漫画家になった経緯を教えてください。
子供時代から漫画が大好きでしたが、その中でも強烈に影響を受けたのは、小学校高学年の頃に読んだ『火の鳥』(手塚治虫手塚/プロダクション)と、中学生の頃に読んだ『カムイ伝』(白土三平/青林堂)です。まさに漫画界のレジェンドとも言える大物漫画家の洗礼を10代で受けてしまったこともあり、デビュー前はかなり異色な作品を投稿していたと思います。自分なりに試行錯誤していたんですが、さっぱり結果が出ませんでした。
漫画家の夢を諦めかけていた頃、知り合いのツテで週刊連載中の漫画家さんのアシスタントをすることになったのが、大きなきっかけになりました。その時の先生が、とても楽しそうに原稿を描いてたんですよね。描くことに夢中になっていた頃の気持ちを思い出して、とにかく好きに楽しく描いた投稿作でやっとデビューできました。
――デビュー後から今までで、作風やご自身の人生などに影響を受けた作品は何かありますか?
デビュー後、身近なテーマで描くことに閉塞感を覚えていた頃、曽根富美子先生の作品に出会いました。特に「特装版 親なるもの 断崖」 (曽根富美子/小学館) は、少女漫画からレディースコミックへジャンル変更した私にとって、“女性向けの漫画でここまで描けるものなのか!”と衝撃を受けたことをよく覚えています。子供の頃に読んだ『火の鳥』『カムイ伝』同様、漫画の表現は果てがない、ということを思い知らされました。自分の中でバイブルになっている漫画は、この3作品だなあと思います。
漫画家さんとのリアルタイムの共有は励みになる!
――他の漫画家さんと交流はありますか? よろしければ、どんな話をするのか教えてください。
SNSをきっかけに、一気に漫画家さん達との繋がりが広がったと思います。漫画家は深夜遅くまで仕事を行うこともよくあるので、それまではどうしても孤独な作業という印象があったんです。でもSNSを使っていると、同じ時間帯に同じ苦労をしている仲間がいると思えて、心強く励みになるんですよね。それまでアナログだった作画をデジタル化する時も、先達から多数のアドバイスをいただいてありがたかったです。ネット社会なしでは、今の自分はないと思っています。
――今後、描いていきたいジャンルやストーリーがあれば教えてください。
「エロスの種子」 (もんでんあきこ/集英社) で描きたいネタは、実はまだまだたくさんあります。ただ、できれば今回のようなテーマで、もう少し深いところまで掘り下げた長編ものを描いてみたいなと思っています。
漫画の持つ無限の表現力に魅了されて、漫画家の世界に足を踏み入れたもんでんあきこ先生。甘美なエロスを描くもんでんあきこ先生が、今後どんなジャンルのものと融合した作品を生み出してくれるのか、楽しみですね。
プロフィール
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作者
ヘルシー鮫
漫画と猫と今川焼きが好きなゆるいオタク。テニプリは青春にしてホーム。永遠に千石清純に恋してる。【twitter】@herusamecochan
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