5.0
村崎百郎先生入魂の傑作
大導寺財閥の後継者として父親から任命された主人公圭子が、対立する勢力と戦いながら理想を実現していくスケールの大きな物語である。
圭子は父親から特殊な教育を受けて育った。
その成果として、彼女は強いカリスマ性を持つ経営者であると同時にセックスのエキスパートでもある。
超人的な才能を持っているにも関わらず、圭子に対して強い共感を寄せることができるのは、彼女も一人の人間として自分に課せられた試練と戦っているからだ。
圭子の護衛役の朱雀は言う、「今の世の中は本当に何もかもが腐敗してどうしようもないけれど、いつまでもこの状態が続くようなことがあっていいはずがない。誰かが本気で変えようとしなければ何も変わらないだろう。」
それを本気で変えようとしているのが私たちの圭子なのだ。
これこそが彼女に課せられた試練なのだ。
漫画故の誇張や突っ込み処はいくつかあるが、私たちのいる現実の世界の延長線上に圭子が実在すると感じさせるのは、この作品に登場する市井の人たちである。
味方も敵も、超人的な主人公に相応しく特殊であったり人間ばなれした才能を持っているが、彼らだけではここまでの現実感は出せない。
毒物混入犯を指摘する弁当工場の工場長、圭子から謝罪を受ける入院患者、圭子を擁護するあまり感情的になるコメンテイター、支店長に任命される大導寺デパートの売場主任、エコロジープロジェクトの責任者、不正を追求するジャーナリストなど、現実の世界に普通に存在する人々がこの作品を彩ってリアリティを確立している。
圭子だって美しい場面ばかりではない。
入院した消費者には土下座で謝罪をし、神社ではジャージー姿で掃除をし、路上販売の賞味期限スレスレの商品を手に取って市場調査をするなど、彼女のイメージにはそぐわない場面もある。
だからこそ圭子は読者の共感を得て「私たちの圭子」となりえたのだ。
またこの作品は、エコロジー問題や人が持つべき理想とは何かといったテーマも含まれている。
SMの要素がふんだんに盛り込まれているが、それは読者にインパクトを与えるための要素であって物語の核心ではない。エロだけを期待して読むと期待外れに終わるだろう。
村崎先生の急逝で、一部完結となってしまったが、村崎先生の志を受け継いだ人に完成させて欲しいと願うばかりである。
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