5.0
梅鉢さん目的で全話購入する価値あり
悪魔や国民ボタンと言った荒唐無稽な設定を前提に、社会や人々がどう行動するかをリアルに描く「シンゴジラ」のような空想シチュエーション型ポリティカルサスペンス。JOJOやデスノートのような超常現象に対峙する知能バトルの要素もあるがどちらかというと個人のエゴや群集心理にフォーカスした作り。1stラウンドは導入部としてまあまあ、2nd はめちゃくちゃ面白く、ファイナルラウンドは風呂敷を広げすぎてたたみ切れるか心配になるがサスペンスフルな場面もあり引きつけられる。ただ、政治劇としての作り込みは浅く、薄っぺらい。政治家たちの俗物描写は類型的かつ陳腐で、意匠というよりも作者の政治・行政実務の専門的知見の欠如により残念なレベルの作劇を選択せざるを得なかったと感じさせられる。悪魔のキャラもありきたりだし、ニヒルな社会評論家が突如野心に目覚める心境の変化も飛躍が有りわかりづらい。行動もデタラメで頭が良い人間に見えない。あちこち荒削りで雑な部分が散見されるのは確かだが、それを全て救ってあまりあるのが国民ボタン対策室の官僚にしてこの群像劇の中心人物である梅鉢加奈子さんの魅力的な人物造形である。この世界的危機に対して極めて真摯かつ事務的に対応に当たり、時として大胆な作戦提案で窮地を脱し事態の収拾に貢献する。かといって万能型スーパーヒロインかというとそうでもなく、しばしば動揺、混乱、逡巡、不安、心の弱さをのぞかせる所が良い。これは先述の作者のロジック構築の未熟さが彼女を有能な官僚に見せる事に失敗していると言えなくもないが、その不完全さが逆に功を奏してリアルな人間味を際立たせることに成功している。性的アピールは一切無いが、有能キャリアレディにありがちなモデル的ボディラインではなく地味なルックスかつややふくよかな体型を選択しているのも好感度が高い。私情を挟まない冷徹なプロ意識を保ちきれず、危機管理に当たる官僚としてあるまじきヒューマスティックな決断を選択するファイナルラウンドのシーンに胸を締め付けられる。しょっちゅう出てくる受け口顔も目に心地よし。梅鉢というカッコよくも可愛くもないぶっきら棒な命名もバッチリ的を得ていて狙ったのならそのセンスに感嘆せざるを得ない。エゴイスティックで醜い人間ドラマを照射し、人類の希望を感じさせる作品の支柱的存在。彼女をみるためだけでも全話購入する価値はある。
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