5.0
自己肯定感の獲得の過程が描かれている
物語の枠組みとしては、「美人の姉妹と比較され、親から虐待を受けてきた公爵令嬢が、政略結婚で身分の低い騎士のところに嫁に出されたが、俺様系のハンサムな旦那様に思いのほか溺愛される」という、ありがちなものですが、この作品の素晴らしいところは、一見陳腐な設定にきちんとした肉付けがされているところです。ハンサムな旦那様は、美しいけれど異民族の血を引いている事がひと目でわかる、褐色の肌と黒い瞳の男性で、作品世界観では差別の対象とされています。最下層の身分から、実力のみでのし上がり、ドラゴン討伐に成功して英雄となっていますが、それは公爵家に利用され、命の危険と引き換えに、結果的に手にした栄光です。また、ヒロインは、公爵家の跡継ぎとして機能する男児でなく、さらに吃音がある事から良縁も期待できない、という理由で父親に折檻されて育ち、存在を否定され続けた生い立ちがあります。物語では、「自分は誰にも必要とされてない」と感じているヒロインが、同じく愛情に飢えている旦那様に強く求め続けられる事で、戸惑いながらも変化していく様子が描かれています。なかなか相手の愛情を信頼できなかったり、一時的な幸せを感じても、今度はその幸せを失う恐怖を感じたりしつつ、旦那様とその周囲の人達との信頼関係を築いて行きます。旦那様とは種類の違う愛情で、ヒロインをほどよく助けたり、魔法の先生として知識や技術を教えたりする魔法使いの青年も、彼女の変化のキーマンになっています。(むしろ彼との友情のほうが、旦那様の独占欲の強い愛よりも彼女を成長させてはいます)重たいテーマを、コミカルな場面も交えて軽快に描いている、魅力的な作品です。もちろん、ヒロインの美しいコスチュームや、旦那様の裏返した製氷皿みたいな腹筋、美形率の高い騎士たちも見どころです。
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オークの樹の下