rokaさんの投稿一覧

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71 - 80件目/全109件
  1. 評価:5.000 5.0

    暴走する妄想、生きるための笑い

    昔の恋人を引きずるのも、やたら妄想が暴走するのも、男性の性分、という勝手なイメージがあったので、まず設定が新鮮だった。

    ああ、「臨死!!江古田ちゃん」の人か、と納得。
    この作者は「明るい自虐」みたいなものの描き方がとても上手で、客観的にはすごく惨めな状況を、ちゃんと笑いに変える。

    でも、本当は笑えない何かを、心の底には、持っている。
    主人公が何気なく漏らした「私はそーゆーのもう終わっちゃってるんで」には、涙が出そうになった。
    私にも、全く同じことを思いながら生きていた頃があった。
    仕事は順調で、毎日がそれなりに楽しくて、周りは「まだ若いじゃん」と笑うけれど、何年も忘れられない恋人がいる、それだけの理由で、「いや、終わっちゃってるんで」と思いながら生きていた、そんな時代が。

    すごく笑えるんだけど、ちょっと切ない。
    この漫画の「笑い」は、どこかで何かを諦めながら、それでも生きてゆくための、必死のあがきみたいに感じるから。
    それって多分、笑い、というものの、ひとつの本質なんじゃないか、と。

    • 10
  2. 評価:5.000 5.0

    見事なスピンオフ

    学生時代、オリジナルの大ファンだった。

    明智警視や剣持警部を主人公にしたスピンオフなら誰でも思いつきそうなものだが、まさか「犯人」を主役にしたコメディとは、目からウロコである。
    その発想がまずよし。

    オリジナルの「金田一少年の事件簿」は、一部を除いて「復讐」という大義名分を掲げた犯人が大半だったこともあり、基本的には、堂々と、凛として、金田一と対峙した人物が多かった。
    それは、漫画のキャラクターとしては格好がつくが、どこか人間らしさを欠いてもいた。
    犯人だって、ビビるし、テンパるし、捕まって「後悔はないわ」なんて、そんなことないんだ、本当は。
    そういう意味では、このコメディの中で描かれた犯人の姿こそが、「リアル」な犯人像である、と言えるかもしれない。

    徹底的に「下らない」体裁をとりつつも、意外にも「犯人」という存在の本質に迫る、見事なスピンオフ。

    • 57
  3. 評価:5.000 5.0

    気づいた

    「口裂け女」というあまりにベタで古典的な題材を使いながら、決して埋もれることのない、ハサミのように切れ味鋭いホラーに仕上げている。
    流石と言う他にない。
    この漫画の口裂け女の「正体」そのものが、ある意味で、怪談話や都市伝説の核心を射抜いていると思う。

    小さい頃、従姉妹の家に行くと、今はなきホラー漫画の雑誌が大量に置かれていた。
    そのどれもこれも、表紙を飾っていたのは犬木加奈子の絵だった気がする。
    当時の私にとって、犬木加奈子の絵は、たまらなく魅力的な怪しい世界への入り口に立つ道標のような、象徴的な存在だったのだと思う。
    間違いなくひとつの時代を築いた作者であり、私のような子どもは、きっと日本中にたくさんいたことだろう。

    二十年ぶりくらいに彼女の漫画を読み直して、やっと気づいた。
    私は、犬木加奈子という人の絵が、好きなのだ、と。
    というか、ずっと好きだったのだ、と。
    それこそ漫画で、「君のことがずっと好きだったんだって、やっと気づいたよ」とかほざく阿呆な男がいるでしょう。
    私はそのレベルである。
    しかし、おかげで、これからこの人のホラーを読む度に、温かい気持ちになれることだろう。
    そんな漫画は、私にはあまりない。
    そして、そんなホラー漫画は、ひとつもない。

    • 6
  4. 評価:5.000 5.0

    「お約束」の拒否

    読み始めると、止まらなかった。
    何ポイント献上したかわからん。
    私がオムニバスを好きなこともあるが、それにしても、毎回、見事な安定感、そしてテンポのよさ。

    何が凄いって、作品として、一貫して冷徹にルールを守っているところだ。
    主人公は依頼人の寿命と引き換えに呪殺を請け負う死神みたいな存在だが、あくまで漫画の主人公だ。
    だから普通は、もうちょっと融通が利く。
    つまり、ルールを破る。
    漫画の展開として、都合のいいことをやる。
    具体的に言えば、「いくら何でもこの人が死ぬのは可哀想だろ」という人は、殺さない、とか。
    言い方は悪いが、「死んでもいい」と読者が感じるようなキャラを、被害者に設定する、とか。
    一度は請けた依頼でも、それが依頼人にとってあまりに悲劇的な結末(例えば勘違いによる呪殺など)をもたらす場合には、それを教えてやってキャンセルさせてやる、とか。
    そういう展開は、基本的に、ない。
    そういう甘さが、この漫画にはない。

    物語としてサクッと感動を演出できるはずの「お約束」よりも、冷徹にルールを守ることを選んでいる。
    そのぶれない姿勢は、作品として、とても美しいと思った。

    • 36
  5. 評価:5.000 5.0

    それは愛か

    「永遠の恋人」を探す不気田くん。
    しかし、彼の不遇な運命により、彼の見初めた女性たちは次々に命を落とす。
    主に不気田くんのせいで。
    ところが、その度に新たな永遠の恋人がソッコーで見つかる。
    この変わり身のはやさ。
    そんで、その女性もやはり死ぬ。
    不気田くんのせいで。
    もう笑うしかない。
    わたしはそんな不気田くんが大好きである。

    愛は、難しい。
    不気田くんのやっていることは最悪のストーカー行為だが、もし彼の想いが実ったならば、それは、美しい愛になり得てしまうわけであって。
    いや、実ろうが実るまいが、愛は、愛なんじゃないの、と。
    容姿が不気味だったりアプローチがちょっと変わっている(ちょっとどころじゃないけどね、実際)と、愛じゃなくなっちゃうのか、と。
    どうなんでしょうか、と。
    そういう意味で、この作品は、非常にインパクトのあるホラーであり、一方では完全にギャグであり、そして、愛とは何なのかを問いかける、異色のラブストーリーでもある。

    ラストの「ある愛の詩」には、うっかり感動してしまった。
    不気田くんは、自分の愛の敗北を認めたのだと思う。
    しかし私は、不気田くんの愛もやはり、愛だったのだと認めてあげたい。
    懸命な愛し方では、なかったかもしれない。
    それでも、愛は、愛だったのではないかと。
    だからこそ、敗北を認めた不気田君が、醜い彼が見せた全ての姿の中で、唯一、美しかったのではないかと。

    • 6
  6. 評価:5.000 5.0

    一話の中に、人生が

    様々な人々の運命と人間模様を、静かに、ドラマチックに描いた作品。

    シリアスで、悲惨だが、どこか滑稽で、優しくて、私の大好きなコーエン兄弟の映画を思わせるような漫画であった。

    基本的に一話完結(サイトだと二話)で、手軽に読める。
    しかし、一話の密度は非常に濃い。
    短い尺の制約の中で、毎回ここまでしっかり「人間」を描けるものなのか、と驚いた。
    そこにあったのは、まぎれもなく、誰かの「人生」であった。

    古い作品ではあるし、色々な描写に時代を感じる。
    けれど、それらが違和感なくすっと入ってくるのは、描かれている人間の姿が、それだけ普遍的で、核心を突いているということなのだろう。
    今も昔も、人間は等しく愚かで、哀しく、そして、素晴らしい。
    そんな、皮肉と温かみをともに感じた。

    小さな一話の中に、毎回確かな人生が詰まっている。
    そんな漫画を、私はあまり知らない。

    • 22
  7. 評価:5.000 5.0

    揺さぶられる

    浅野いにおという作者は、若者の漠然とした不安感みたいなものを描くのがとても上手い。
    その不安感が、時代を反映したものなのか、若者に普遍的なものなのか、個人の問題なのかは、わからない。
    でも、彼らの気持ちは、すごくわかる。

    たとえば、ゆるい幸せがだらっと続くこと、それで満ち足りている気がするんだけど、これでいいんだ、って気もするんだけど、心のどこかでは「本当にこれでいいのかな」って迷いが、「自由」とかいう不確かな魔物の囁きが消えなくて、何かになれる気もして、何にもなれない気もして、何にもなりたくない気もして、だいたい、このゆるい幸せだって、いつ消えるともしれなくて、いつか不意にソラニンみたいな悪い芽が出て、さよならが来るかもしれないじゃん。

    そういう不安感は、彼らのものでもあり、私のものでもあった。
    かつては、という話だ。
    私はいつの頃からか、自然にその場所を抜け出し、ゆるい幸せを守るために生きることを迷わなくなった。
    けれど、かつての思いの名残りみたいなものは、今でも私の中で、ライブハウスの残響のように微かに鳴っていて、それをこの漫画にどうしようもないくらいに揺さぶられた。

    読んだときも、ちょっと泣いた。
    が、翌日、仕事に向かう車の中で、アジアンカンフージェネレーションの「ソラニン」を聴きながらこの漫画のことを思い出して、涙が止まらなかった。
    そんな漫画って、ちょっと凄いな、と思った。

    • 11
  8. 評価:5.000 5.0

    理想的な短編

    短いストーリーの中に、多彩な魅力が詰まっている。
    短編のお手本のような、見事な作品だと思う。

    手軽なミステリであり、切ない友情の物語であり、ちょっとしたファンタジーでもある。
    その、ともすれば違和感を与えかねないファンタジーの味つけが、不思議と自然に作品にマッチして、爽やかで優しい色合いを見せている。

    ラストの松田君の表情が素晴らしい。

    • 11
  9. 評価:5.000 5.0

    容赦ない

    これを読んで、同じ作者の「ミスミソウ」という作品について、何か納得がいった。
    この作者は、恐怖や絶望を表現することに容赦がない。
    「そこまでやるか」ということを、平気でやる。
    その思いきりのよさが怖すぎる。
    加えて、唐突なホラー描写の破壊力も、漫画として素晴らしい。

    しかし、この作品の最大のアイデンティティーは、そういう正統なホラーの枠組みを根底からぶっ壊すほどのパワーで躍動する、○○の存在感だろう。
    完全なバランスブレイカーなのに、あり得ないくらいに魅力的だった。

    絶望的なホラーでありながら、あまりにもぶっ飛んでいる、日本版&漫画版「エクソシスト」とでも呼びたくなる傑作。

    • 31
  10. 評価:5.000 5.0

    空気を読む私たち

    「KY」が流行語になったのは2007年だった。
    その頃からだ、世の中で「空気読めよ」とやたら言われ出したのは。
    ただ、そんな流行語が出来るはるか昔から、「空気を読む」文化は日本では当たり前のものだった。
    どんな文化にもいい面と悪い面があるが、「空気を読む」社会の無言の同調圧力みたいなものに、息苦しさを感じている人は多いだろうと思う。
    だから、凪が共感を呼ぶ。
    私もそうで、凪とはまるで違う人間なのに、非常に共感を持った。
    これは漫画としてすごいことだと思う。
    キャラクター個人の問題を超えて、時代とか社会とかを切り取るのに成功した、ということだから。

    でも、難しい。
    「空気を読むことより大事なことがある」という気づきは素晴らしいけれど、読まなくてはいけない空気の外の世界で、より大事な何かのために生きるのは、簡単じゃない。
    そもそも、その「大事な何か」がよくわからなかったりして。
    そんな、厳しい戦いの物語として私は読んだ。
    本気で凪を応援したくなった。
    中島みゆきの「ファイト」でも歌ってやりたくなった。
    「戦う君の歌を、戦わない奴らが笑うだろう。ファイト!」って。

    そして、我聞の位置づけが素晴らしい。
    駄目な男と思いつつ、私は我聞も応援したくてしょうがない。
    彼はある意味、空気を読む達人だ。
    その才能が、彼を営業部のエースにした。
    でも、一番大切な人の空気、読めてないやんけ、と。
    だから、駄目男。
    そうなんだけど、多分、我聞にとっては、唯一、凪だけが、空気を読まなくていい相手だったのではなかろうか。
    その甘えは、駄目だけれど、もう一度、チャンスを与えてやれないか、と。
    そういう意味では、空気を読むことをやめた女と、空気を読め過ぎるくせに一番大事な空気が読めなかった男の、すれ違いの恋物語でもある。

    あー、二人とも、何か、すげー幸せになってほしい。
    漫画を読んで本気でそんなふうに思ったことは、私にはあまりない。

    • 374

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