4.0
ストーカーに揺られて
交通事故で記憶を失った男。
その男のストーカーである女性が、恋人になりすます、というストーリー。
個人的には、「ストーキング」と「一途で情熱的な恋」の境界なんて、結構曖昧なんじゃないの、と思っている。
そんなもの、相手側の都合でいかようにも変わり得る。
男性の皆さん、想像して下さい。
職場から家までの帰り道、あなたの後ろをそっとついてくる女性がいます。
彼女は通勤電車であなたに一目惚れしたのですが、内気なせいで、なかなか声をかけられないのです。
古風な一面もあって、女性の方から声をかけるなんて、と恥じらってもいるのです。
しかし、彼女は感じています。
あなたのこそが、運命の人なのだと。
ちなみに彼女は全盛期のスカーレット・ヨハンソンのような美貌とプロポーションを持ち合わせています。
どうですか?
彼女の一途な秘めた想いが胸に響きませんか?
ついでに美貌とプロポーションも響きませんか?
ほら見ろ!
簡単に騙されやがって!
そいつはストーカーだ!
まあ、それはいい。
それはいいのだが、「ストーカーに愛なんてない」というのは、いささか極論に過ぎると思う。
適切でない愛し方を全て「愛ではない」と決めつけるのが、私は好きではない。
だから、本作の主人公のストーカー女性を、私は応援していた。
やり方はフェアではないが、真っ直ぐだし、可愛らしいし、ひとつの愛情の形として認めてあげたかった。
というふうに、この漫画に誘導された。
が、そのあたりで、不意に狂気の描写が来る。
ここが、本作の巧みなところである。
怖い。
やっぱさっきのなし、真っ直ぐどころか三回転半くらい捻ってる。
ヤバい、この女はやめとけ。
でもなあ…というふうに、ストーカーに対する非常に微妙な感情を煽られる漫画。
それはつまり、何をどこまで愛として認めるか、という永遠の問いを、読者に投げかけることに他ならない。
そういう意味では、なかなか奥行きのある作品だと思った。
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9
灰色の乙女