3.0
ジャンルの変更
つかみはなかなか面白かった。
ただ、「クライムサスペンス」というスタート地点から、途中で「バトルアクション」にジャンルが変わっている。
バトルアクションとしても悪くはないのだが、勝手に期待していたものとのズレが大きく、私はそのジャンル変更に上手く乗れなかった。
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つかみはなかなか面白かった。
ただ、「クライムサスペンス」というスタート地点から、途中で「バトルアクション」にジャンルが変わっている。
バトルアクションとしても悪くはないのだが、勝手に期待していたものとのズレが大きく、私はそのジャンル変更に上手く乗れなかった。
この人の漫画は、「キング・オブ・B級」という感じで、何とも独特の楽しさがある。
こういう言い方はとても失礼だけれど、本格のホラーも一級品のアクションも切れ味のあるコメディも描けなくて、それでも漫画が大好きで、必死で生きる道を探して辿り着いたような、素晴らしいB級であると思う。
映画でも漫画でも、作品に対する愛情を感じるB級は、どれほど血が飛び散るホラーであっても、どこか、温かい。
高校のとき、この漫画を読まなかったなら、私は今ほど漫画を読むようにはなっていなかったと思う。
十代の自分が「寄生獣」から感じたのは、一言で言えば、可能性だった。
おいおい、漫画ってこんなことが表現できるのかよ、という可能性である。
それを、手塚治虫から感じた人もいるだろう。
鳥山明から感じた人もいるだろう。
私にとっては、それが「ジョジョ」と「寄生獣」だった。
本作は、「ET」的な不思議な友情の物語でもあり、「ジョジョ」的な頭脳戦のバトル漫画でもあり、答えのないかもしれない問いを投げかける哲学的な作品でもあった。
それは例えば、曖昧な結末を読者に丸投げするのとは、ちょっと違う。
だって新一は、自分の答えを出したから。
でも、私たちの答えは、どうだろう。
優れた作品は、いつだって、答えではなく、問いを残す。
あまり期待せずに読んだが、とてもまっとうなホラーで、楽しかった。
他の方のレビューにもあるが、確かに結末はすっきりしないし、伏線も綺麗に回収されない…というか、伏線らしい伏線もない。
しかし、この「何だかよくわからない感じ」が、まさにホラーだと思う。
明確な原因があって、結果がある、そうではなくて、理由も経緯もわからないままに、何か恐ろしいことに巻き込まれる。
それは不意に始まり、また、不意に終わる。
ホラーっていうのは、そういうことなのではないかと。
ダメ人間ばかりの話。
ただ、その描き方のさじ加減は巧妙で、
「現実には人間なんてこんなものかもしれない」と、
「いや、いくらなんでもこれはないわ」と、
「あれ、ダメ人間にしてはやるじゃん」の間を、登場人物たちは浮遊する。
リアルな共感性と、漫画としての演出のバランスが秀逸で、小気味良く読める。
その中で、「そこそこでいい」というトビオのリアリティーがいい。
この価値観を漫画の主人公に置いたのは、現代漫画のひとつの発明かもしれない。
しかし、トビオは知る。
「そこそこ」は、すごく難しい、ということを。
それは多分、今の時代、多くの若者がぶち当たる壁なんじゃないか。
この漫画ほど派手にじゃなくても。
そういう意味では、すごく時代性をとらえた漫画だと思う。
一種の「汚ならしさ」が、ホラーを引き立てることって、あると思う。
映画「悪魔のいけにえ」なんか、そうじゃないかな、と。
小綺麗な漫画が多い中、そういう「汚ならしさ」には独特のものを感じた。
しかし、島の住人サイドがあまりにぶっ飛びすぎていて、少々しらけてしまった。
「レザーフェイス」じゃないけれど、もう少し「普通」だったら、すんなり作品に入り込めたと思うのだが。
登場人物(?)たちの会話のギャグセンスは流石の一言。
スタートは完全に「いつもの古谷実」かと思いきや、とんでもない異次元に飛んでいきやがった。
きっと、挑戦だったのだと思う。
それが今回、成功したとは言いがたい。
しかし、いつの日か、「あのとき、ゲレクシスがあったから」という作品を、描いてくれるに違いない。
私は古谷実という漫画家を、そんなふうに信じている。
単純に「巨大な虫が…」というパニックでごり押しするのではなく、政府、製薬会社の思惑と、自衛隊、一般市民の動きを丁寧に描こうとしている点には、非常に好感を持った。
ただ、いかんともしがたいのは画力で、漫画である以上、どうなんだ、と。
ストーリーが丁寧に作り込まれた生物パニック映画でも、モンスターのCGが浮きまくりだったら、やはり冷めてしまう。
それなりに面白く読んだのだが、あまりにも「ゲーム」だ。
感覚としては「プレイできないゲームを読んでいる」ないし「グラフィックの綺麗なゲームを他人がプレイするのを見ている」というのに近かった。
正直、これなら自分でゲームをプレイしていたほうがいいんじゃないか、と感じてしまった。
ただ、作者のゲームに対する愛着は伝わった。
「ウシジマ君」のヒット以来、こういう「裏社会もの」の漫画は一気に増えた印象があるが、その大体が「ウシジマ君」に遠く及ばないのは、作品の中で「哲学」を提示できていないからではないかと思う。
陰惨な裏社会の世界観を描くことは、ある程度の技術があれば、多分できる。
だってそんなもの、現実にあるんだから。
本作も、そうだった。
けれど、その中で漫画のキャラクターが生き抜く様を魅力的に見せるのは容易ではない。
現実の世界観のインパクトに、漫画のキャラクターの魅力が負けてしまっては、漫画の意味なんかない気がする。
そうならないためには、半端ではなく恐ろしい現実に立ち向かうだけの強い哲学がなければいけない。
が、難しいよな、そんなの。
あらためて、「ウシジマ君」はすごいと思った。
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