3.0
子どもの世界のサスペンス
閉鎖空間を舞台にした、いわゆるソリッド・シチュエーション・スリラーだが、「子ども」の目線の描き方が巧みである。
子ども時代に特有の、大人に対するある種の不信感みたいなものが、作品のカラーに上手く乗っている。
結果、単なるサスペンスではない、ちょっと感傷と郷愁を誘うような、独特の雰囲気を醸し出している。
ただ、道中なかなか引き込まれただけに、オチの弱さはやや残念ではあった。
- 5
2位 ?
閉鎖空間を舞台にした、いわゆるソリッド・シチュエーション・スリラーだが、「子ども」の目線の描き方が巧みである。
子ども時代に特有の、大人に対するある種の不信感みたいなものが、作品のカラーに上手く乗っている。
結果、単なるサスペンスではない、ちょっと感傷と郷愁を誘うような、独特の雰囲気を醸し出している。
ただ、道中なかなか引き込まれただけに、オチの弱さはやや残念ではあった。
「今際の国のアリス」の作者が原作で、作画は別の人。
個人的な好みは別れるだろうが、この作画もよかった。
登場人物たちのバックグラウンドに何があったのか、という謎には吸引力があり、テンポのよさも相まって、ぐいぐい読ませる。
「今際の国」もそうだったが、異世界の描き込みは非常に丹念で、没入感は高かった。
「今際の国」が匿名の「架空の世界」であったのに対して、本作のそれは現実の日本各地を舞台にしており、その点もまた違った見所があった。
ただ、「今際の国」が凝ったゲームの完成度で魅せた漫画であったのに比べると、わりにシンプルなサバイバルであり、「今際の国」のファンとしては、一抹の物足りなさも感じた。
本家同様、個々のキャラの立て方は流石、と思ったけれど。
今の時代に読むと古風な絵柄だが、迫力があり、引き込まれた。
自殺を試みた少女の前に突如現れたヒーローとの逃避行、という「いかにも少女漫画」的な設定ではあるが、微妙なところでラブロマンスに走らなかった点に好感を持った。
そのおかげもあり、甘すぎず、それでいて希望を与え得る話にもなっていて、特に少年少女を対象とした漫画ということを考慮すると、私は好きであった。
……というレビューを表題作のみ読んで書いたのだが、「黒い天使」を読んで全く印象が変わった。
代理ミュンヒハウゼン症候群については一応知っていたので、「ふんふん」と読んでいたが、完全にやられた。
めちゃくちゃ怖い。
初めての方は、是非「黒い天使」を読んでほしい。
稲川淳二は好きである。
が、まさか漫画化されていたとは、何とも時代を感じる。
彼の怪談の中身を漫画にしただけではなく、稲川淳二本人も、語り手としてちゃんと出てくる。
それにしても、第1話が「そして俺は死んだ」…タイトルからネタバレしているのもどうかと思う。
原作の利なのだろうが、現実的な枠をきちんと守った中でのサスペンスフルな語り口には安定感があり、ハラハラしながら読み進めた。
交錯する時系列の演出も、上手く決まっていたと思う。
夢や憧れといったポジティブな地点から始まったはずの日常が、いつの間にかほつれ、ほころび、崩れてゆく。
その様には、ゾクゾクした。
何が怖いって、本質的には、誰が「悪い」というわけでもない、ということだ。
登場人物の誰もが少しずつ悪を抱えているが、それは結局、私たちの誰もが大抵は内包しているレベルのものだ。
それでも、日々は転がり落ちてゆく。
高級住宅街の坂道を自転車で下ってゆくように。
私たちの日常が崩れゆくときというのは、そんなものなのかもしれない。
あー怖い。
ただ、ラストだけは、ちょっとパンチが弱い気もした。
しかし、日常の破綻、という本作の色合いを考えると、これでちょうどいいのかもしれない。
「少女漫画だろ」となめていたら、意外にちゃんとホラーで驚いた。
申し訳ありませんでした。
オカルト的な部分と、人間の情念の怖さみたいな部分が適度にブレンドされていて、さらっと読むホラーとしては、なかなか読みごたえがあると思う。
「犯罪を論じるときは、自らが被害者になる可能性だけではなく、加害者になる可能性も考えなければならない」と何かの本で読んだ。
私はその主張に完全に同意したわけではないが、その言葉は、ずっと私の中に引っかかっていた。
被害者サイドに立って復讐をする人物を描いた漫画は、いくつか読んだことがある。
しかし、本作のように加害者サイドの家族にスポットを当てた漫画は初めてで、新鮮さは感じた。
その上で、犯罪者を手軽な正義感で裁こうとする社会の狂気は、加害者以上にたちが悪いのではないか、という現代への警鐘を、さらっと鳴らしている。
その挑戦的な姿勢も、嫌いではなかった。
反面、被害者サイドの描写はおろそかで、この漫画のスタンスがフェアだとは言いがたい。
ただ、この立脚点の斬新さと一種の勇気は、評価したいと思った。
ストーリーはなかなか面白いのだが、漫画としての表現力(画力を含めて)が、それに追いついていない気がする。
そこは、残念。
ただ、朱鷺子というキャラクターは非常に独特で、今まで読んだどんな漫画の登場人物とも違っていた。
他者への共感が欠如した、ある種のサイコパス的な人間だが、実のところ、異常なほど一本筋が通っている。
読み進めれば読み進めるほど、彼女の哲学みたいなものが明確になる仕掛けになっていて、感心した。
身近にいたらどう考えても関わりたくないが、漫画のキャラクターとしては綿密に計算し尽くされており、完成度は高いと思う。
世界の終わり、というと大袈裟だけれど、子どもの頃の私たちの世界は、小規模なレベルで言えば、しょっちゅう「終わって」いたのではなかろうか。
大好きな友達と喧嘩をしたとき、親に強く否定されたとき、大切なゲームのセーブデータが消えたとき、それこそ世界が終わるほど傷ついたものだ。
そういう「あの頃」の感覚を、時代特有の終末感と重ね合わせて、上手に表現した漫画だと思った。
この漫画にあるように、私たちの「あの頃」には、小さな世界を傷つけようとする怪獣も(人によっては、たぶん恐怖の大王も)いた。
私たちはそれに対抗する術を持たず、かといって、タイミングよく現れるヒーローもいなかった。
そのやるせなさと、無力感。
それもまた、この作品ではとても明瞭に描かれていた。
胸が痛くなるくらいに。
私たちの小さな世界は何度も壊れ、壊され、それでも私たちは、粉々になった世界の欠片を何とか拾い集めて縫い合わせて、大人になってゆく。
それは目を背けたくなるくらい切なくて、あり得ないくらい尊いことだと私は思う。
それだけに、ラストは残念だ。
色んな解釈はあるのだろうが、私は、何か投げ出したような印象を受けてしまった。
これを読んで、同じ作者の「ミスミソウ」という作品について、何か納得がいった。
この作者は、恐怖や絶望を表現することに容赦がない。
「そこまでやるか」ということを、平気でやる。
その思いきりのよさが怖すぎる。
加えて、唐突なホラー描写の破壊力も、漫画として素晴らしい。
しかし、この作品の最大のアイデンティティーは、そういう正統なホラーの枠組みを根底からぶっ壊すほどのパワーで躍動する、○○の存在感だろう。
完全なバランスブレイカーなのに、あり得ないくらいに魅力的だった。
絶望的なホラーでありながら、あまりにもぶっ飛んでいる、日本版&漫画版「エクソシスト」とでも呼びたくなる傑作。
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鬼燈の島―ホオズキノシマ―