4.0
ダークサイドも爽やかに
「うしおととら」の作者による短編集。
躍動感のある描写は流石で、深みのある台詞も健在。
ただ、正直、短編集の中で当たり外れはあると思う。
個人的な趣向を含めて。
私は「夜に散歩しないかね」を推す。
どの話から読むか迷った方は、是非。
この人の作品は、化け物とか復讐とか殺_人とか、ダークなモチーフを描きながらも、不思議といつも少年漫画らしい爽やかさがあって、とてもバランスがいいと思う。
- 7
レビュアーランキング 1位 ?
5 | 143件 | |
---|---|---|
4 | 202件 | |
3 | 222件 | |
2 | 123件 | |
1 | 36件 |
111 - 120件目/全145件
「うしおととら」の作者による短編集。
躍動感のある描写は流石で、深みのある台詞も健在。
ただ、正直、短編集の中で当たり外れはあると思う。
個人的な趣向を含めて。
私は「夜に散歩しないかね」を推す。
どの話から読むか迷った方は、是非。
この人の作品は、化け物とか復讐とか殺_人とか、ダークなモチーフを描きながらも、不思議といつも少年漫画らしい爽やかさがあって、とてもバランスがいいと思う。
「今際の国のアリス」の作者が原作で、作画は別の人。
個人的な好みは別れるだろうが、この作画もよかった。
登場人物たちのバックグラウンドに何があったのか、という謎には吸引力があり、テンポのよさも相まって、ぐいぐい読ませる。
「今際の国」もそうだったが、異世界の描き込みは非常に丹念で、没入感は高かった。
「今際の国」が匿名の「架空の世界」であったのに対して、本作のそれは現実の日本各地を舞台にしており、その点もまた違った見所があった。
ただ、「今際の国」が凝ったゲームの完成度で魅せた漫画であったのに比べると、わりにシンプルなサバイバルであり、「今際の国」のファンとしては、一抹の物足りなさも感じた。
本家同様、個々のキャラの立て方は流石、と思ったけれど。
今の時代に読むと古風な絵柄だが、迫力があり、引き込まれた。
自殺を試みた少女の前に突如現れたヒーローとの逃避行、という「いかにも少女漫画」的な設定ではあるが、微妙なところでラブロマンスに走らなかった点に好感を持った。
そのおかげもあり、甘すぎず、それでいて希望を与え得る話にもなっていて、特に少年少女を対象とした漫画ということを考慮すると、私は好きであった。
……というレビューを表題作のみ読んで書いたのだが、「黒い天使」を読んで全く印象が変わった。
代理ミュンヒハウゼン症候群については一応知っていたので、「ふんふん」と読んでいたが、完全にやられた。
めちゃくちゃ怖い。
初めての方は、是非「黒い天使」を読んでほしい。
原作の利なのだろうが、現実的な枠をきちんと守った中でのサスペンスフルな語り口には安定感があり、ハラハラしながら読み進めた。
交錯する時系列の演出も、上手く決まっていたと思う。
夢や憧れといったポジティブな地点から始まったはずの日常が、いつの間にかほつれ、ほころび、崩れてゆく。
その様には、ゾクゾクした。
何が怖いって、本質的には、誰が「悪い」というわけでもない、ということだ。
登場人物の誰もが少しずつ悪を抱えているが、それは結局、私たちの誰もが大抵は内包しているレベルのものだ。
それでも、日々は転がり落ちてゆく。
高級住宅街の坂道を自転車で下ってゆくように。
私たちの日常が崩れゆくときというのは、そんなものなのかもしれない。
あー怖い。
ただ、ラストだけは、ちょっとパンチが弱い気もした。
しかし、日常の破綻、という本作の色合いを考えると、これでちょうどいいのかもしれない。
世界の終わり、というと大袈裟だけれど、子どもの頃の私たちの世界は、小規模なレベルで言えば、しょっちゅう「終わって」いたのではなかろうか。
大好きな友達と喧嘩をしたとき、親に強く否定されたとき、大切なゲームのセーブデータが消えたとき、それこそ世界が終わるほど傷ついたものだ。
そういう「あの頃」の感覚を、時代特有の終末感と重ね合わせて、上手に表現した漫画だと思った。
この漫画にあるように、私たちの「あの頃」には、小さな世界を傷つけようとする怪獣も(人によっては、たぶん恐怖の大王も)いた。
私たちはそれに対抗する術を持たず、かといって、タイミングよく現れるヒーローもいなかった。
そのやるせなさと、無力感。
それもまた、この作品ではとても明瞭に描かれていた。
胸が痛くなるくらいに。
私たちの小さな世界は何度も壊れ、壊され、それでも私たちは、粉々になった世界の欠片を何とか拾い集めて縫い合わせて、大人になってゆく。
それは目を背けたくなるくらい切なくて、あり得ないくらい尊いことだと私は思う。
それだけに、ラストは残念だ。
色んな解釈はあるのだろうが、私は、何か投げ出したような印象を受けてしまった。
「現実」の問題を題材にした漫画は多くあるけれど、そのほとんどは、読みながらどこかで「結局、漫画だよな」という感想がつきまとう。
それは仕方のない話で、漫画としてエンターテイメントをやる以上、何かしらの脚色や誇張が入るのは、当然といえば当然だ。
しかしこの漫画は、そういう漫画としての演出を、ゼロとは言わないが、限りなくゼロに近づけているのではないか、と感じた。
それによって獲得された稀なリアリティーが、漫画としてどこまで魅力的かは難しい。
ただ、ある意味でエンターテイメントを拒絶したその勇気は、賞賛されるべきかもしれない。
世にも奇妙な物語」路線の作品だが、個々のエピソードの完成度が高い。
話の展開の「ひとひねり」が丁寧に作られていると感じた。
ちょっとしたことなのだが、特にこのような連作短編形式の漫画は、そのちょっとした差が、大きな違いを生むのだろう。
また、単に奇妙な世界を描くのではなく、「道具」を作品の真ん中に置くことで、「道具の価値や意義は結局、使う人間次第だ」という一貫したテーマが、綺麗に作品に乗っている。
「道具は使っても、道具に使われてはいけない」という教訓は、次から次へと便利すぎる道具が産み出される現代社会において、結果的にだが、辛口の警鐘にもなっている気がする。
作者の引き出しの豊富さに驚いた。
ミステリとしていわゆる「本格」の域ではないけれど、それを求めてこの漫画に手を伸ばす読者はほとんどいないだろう。
むしろ、意外にちゃんとミステリしている、という印象だった。
緊張感に溢れるゴリゴリのミステリではなく、一風変わった軽快なミステリである。
この作者は、漫画としての「ちょうどよさ」みたいなものをよくわかっている気がする。
このミステリの「軽さ」にしてもそうだし、絵柄にしてもそう。
疲れずに心地よく読める。
それこそ料理じゃないが、さじ加減が絶妙である。
ただ、欲を言えば、最初の「エピソードゼロ」的な話は、もっと後半に持ってきたほうが、構成としてはパリッとしたようには感じた。
設定勝負の一発ものかと思いきや、なかなかどうして、ひとつひとつのエピソードはドラマチックである。
奇抜な設定だけで引きつけて、中身は空っぽ、という作品ではなく、あくまで描きたいドラマがあり、それを引っ張り出すために設定がある、という印象を受けた。
トリガーの制度は、設定自体は非現実的だが、おそらく多くの人が一度は抱いたことのあるであろう「こいつ、誰か殺してくれねえかな」という感情に基づいており、それが一種のカタルシスに繋がっているのだろう。
私たちの中にある、感情的に歪んだ「正義」を利用した漫画であり、その計算は、実に巧妙である。
この人の漫画は、「キング・オブ・B級」という感じで、何とも独特の楽しさがある。
こういう言い方はとても失礼だけれど、本格のホラーも一級品のアクションも切れ味のあるコメディも描けなくて、それでも漫画が大好きで、必死で生きる道を探して辿り着いたような、素晴らしいB級であると思う。
映画でも漫画でも、作品に対する愛情を感じるB級は、どれほど血が飛び散るホラーであっても、どこか、温かい。
設定により、一部のジャンルや作品が非表示になっています