島津冴子:「らんま1/2」インタビュー(1) “1989年版”アニメ収録秘話 小太刀役は「最高レベルのテンション」
配信日:2024/11/15 20:01
高橋留美子さんの大ヒットマンガ「らんま1/2」の“完全新作的アニメ”が日本テレビで10月にスタートした。同作は、1989~92年にテレビアニメが放送されており、テレビアニメ化されるのは約32年ぶり。早乙女乱馬やらんま、天道あかねら天道家の面々はもちろん、響良牙、シャンプー、九能帯刀といった個性あふれるキャラクターも、本作の大きな魅力の一つだ。11月9、16日の放送では、そんな中でも“強烈”なキャラクター、九能小太刀が登場。“1989年版”アニメで小太刀を演じた島津冴子さんに当時の収録の様子や、小太刀への思いを聞いた。
◇小太刀役は挑戦だった 井上瑤さんとの思い出
「らんま1/2」は、「うる星やつら」「めぞん一刻」などでも知られる高橋さんが1987~96年にマンガ誌「週刊少年サンデー」(小学館)で連載。水をかぶると女性になってしまう高校生格闘家・早乙女乱馬と許嫁(いいなずけ)の天道あかねらのドタバタした日常が描かれた。
島津さんは、1981年から放送された「うる星やつら」で三宅しのぶ、1986年から放送された「めぞん一刻」で黒木小夜子を演じており、「らんま1/2」の小太刀役は、高橋留美子さん作品では3作目の出演となった。「らんま1/2」でまず思い出されるのは、キティ・フィルム主催のイベントだという。「うる星やつら」「らんま1/2」は、キティ・フィルム制作で、当時は作品合同のファンクラブイベントが多く開催されていた。
「『らんま1/2』の放送前に、『うる星やつら』とコラボしたイベントがあって、司会をさせていただきました。皆さんに『らんま1/2』のキャストを紹介するイベントでもあって、乱馬役の(山口)勝平さんと、らんま役の林原(めぐみ)さんを初めて見るファンの方もいらしたと思います。その時に『(「らんま1/2」に)冴子さんも出て!』みたいなコールをいただいて、『私は何をやったらいいの? 何役がいい?』とお客様に伺ったところ、『シャンプー!』と言われて。『シャンプー』がキャラクターの名前ということ自体が面白くて、よく覚えています。実際の配役は小太刀役でした(笑)。当時『YAWARA!』もキティさんが制作されていて、『うる星やつら』『らんま1/2』『YAWARA!』の合同イベントが何度も開催されて、『うる星』は私、『YAWARA!』の皆口裕子さん、『らんま1/2』の山口勝平さん、林原めぐみさん、日髙のり子さんというメンバーで、ずっと全国を回っていました。キティさんのイベントは、とても楽しかったし、豪華だったし、お客さんも、ものすごかったです」
島津さんにとって、小太刀役は挑戦的な役だったという。それ以前、「うる星やつら」では「男なんてええ!」という叫びが印象的なしのぶ役、「魔法の天使クリィミーマミ」では綾瀬めぐみ役を演じてきた島津さんだったが、「また一つ違うレベルをディレクターさんとキティさんに投げかけられたんだなと思って、『そこに行かなきゃ』と思いました」と振り返る。
「小太刀役は、私としては、テンション的に今までの最高レベルの役でした。『うる星やつら』のしのぶでも、当時、ああいう演技をする方がほかにいらっしゃらなかったのでしょう、オーディションで私の声を聞いてくださったぴえろのプロデューサーの布川(郁司)さんは『すごい新人が現れた』と思われたそうです。私がそのお話を伺ったのは30年後でしたけど(笑)。それで『クリィミーマミ』にも綾瀬めぐみという主人公のライバル役で出演させていただきました。綾瀬めぐみも普通の女の子役ではなかった。だから、テンションの高い役もOKというイメージはそれまでもあったと思いますが、『らんま1/2』で小太刀をやるようになってから、いきなりいただく役が変わりましたね」
小太刀役は、オーディションではなく指名だった。
「シャンプーが(佐久間)レイちゃんに決まって、ぴったりだなと思って。私は『らんま1/2』に出られると思っていなかったのですが、ある日突然スケジュールが入りました。その時初めて小太刀の絵を見て、とても個性が強くて、強気のお嬢様、女王様タイプという印象でした。それで、屋根の上を飛んでいくとか、もう笑っちゃうじゃないですか。この役なのね!と、うれしくなりました」
小太刀がアニメに初登場したエピソードは、小太刀とらんまが格闘新体操でバトルする姿が描かれた。バトルのリングアナウンサーを演じたのは、島津さんが「ゴールドライタン」でも共演した井上瑤さんだった。
「最初からテンションが高い役で思い切り演じるので、こんなにやっちゃって良いのかしらと戸惑ったのですが、隣の席の瑤さんが『冴子、いいわよ』って言ってくださって(笑)。収録の時に『私、最近こういう役が多くて、穏やかな家庭アニメのような作品はないんですけど』とお話ししたら、瑤さんが『あなたにしかできない役を演じているんだからいいの』と言ってくださいました。瑶さんのその言葉は、私の中にずっと残っています。瑤さんのリングアナウンサーもすてきでしたよね。今も尊敬する素晴らしい先輩で、私が一番好きだったのは『うる星やつら』のランちゃんでした」
◇音響監督・斯波重治さんの教え 新人もベテランも全力で
小太刀は、強烈でぶっ飛んだキャラクターではあるが、そのはちゃめちゃな言動を見ていると悩みが吹き飛ぶような、不思議な魅力のあるキャラクターだ。島津さんは「それは、留美子先生の原作が素晴らしいからです。原作の素晴らしさがマイナスになるようなことは絶対しちゃいけないと思う」と語る。
「私たち声優は、原作がある作品の時は『この子はどんな声でどんなふうに話すのだろう?』と、イメージを持って仕事に向き合うのですが、私が一番大事にしているのは、それと共に『この子の気持ちは? 思いは?』という心のこと。しのぶも小太刀も『なんでこうなの?』という原点は、絶対に気持ちなんです。それを忘れちゃいけないと思っていました」
「うる星やつら」「らんま1/2」などの音響監督を務めた斯波重治さんから教わったことも大きいという。
「普段は穏やかな雰囲気の方ですけど、仕事はきっちりするのだと教えてくださった方でした。みんな随分鍛えられたと思います。私が新人の時に出演した『タイムパトロール隊オタスケマン』は、スタジオの中で新人は私だけ、周りはベテランの方ばかりでしたから、現場では何もかも吸収しなくちゃならないと、ずっと緊張している感じでした。ただ、『らんま1/2』の頃になってくると、新人とベテランの割合が変わってきて、若手が大勢いて、永井一郎さん(八宝斉役)、千葉繁さん(猿隠佐助役)、お兄様(九能帯刀役の鈴置洋孝さん)などベテランが少ない。そうなると新人の和気あいあいのムードが出てくるものだから、斯波さんが全体にビシッとおっしゃったことが何度かありました。それはベテランになっても大切にしなきゃいけないと思うことでした」
当時は、現在の事前に個別でアフレコする映像をチェックする形ではなく、スタジオでキャスト全員で同時に映像を見てから、収録に臨む形だったという。
「斯波さんは、最初から最後まで、自分の役が出てなくても見なさい、と。そうしないと、自分の役が何のためにそこにいるのか、自分の役が物語にどう影響するのかが分からないから、と。ガヤ一つでも、それがとても大事なんです。例えば、何かに襲われて、みんなが逃げ惑うというシーンでは、その逃げ惑い方によって、襲ってきたものの強さ、どれくらい危機があるかが表現されて、物語の緊張感が高まっていくのです。斯波さんは現場で新人を育ててくださる方でした」
そんな厳しさもある収録現場で、乱馬役の山口さん、らんま役の林原さんは「とても水準の高い新人だった」と語る。
「テンションの高い作品だからよかったというのもあると思います。2人だけじゃなく、周りがみんなそうだったから。お兄様もテストの時点でテンションの高いままやる方だったし、私もそうだったし、絶対手を抜かないので。だから、新人が手を抜いちゃいけないよねって。2人とも全力でぶつかっていたと思います」
インタビュー(2)へ続く。
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