天幕のジャードゥーガル:新たなアニメ表現への挑戦 実験的でフラットな構図 アベル・ゴンゴラ監督インタビュー

配信日:2026/07/05 7:01

アニメ「天幕のジャードゥーガル」の一場面(C)トマトスープ(秋田書店)/天幕のジャードゥーガル製作委員会
アニメ「天幕のジャードゥーガル」の一場面(C)トマトスープ(秋田書店)/天幕のジャードゥーガル製作委員会

 「このマンガがすごい!2023」(宝島社)のオンナ編1位に選ばれたことも話題のトマトスープさんのマンガが原作のテレビアニメ「天幕のジャードゥーガル」が、テレビ朝日系のアニメ枠“IMAnimation”で7月4日に放送を開始した。「平家物語」「聲の形」「きみの色」などの山田尚子さんが総監督、「ダンダダン」第2期などのAbel Gongora(アベル・ゴンゴラ)さんが監督を務め、サイエンスSARUが制作する。アニメとしては異例の13世紀のモンゴルが舞台となる。アニメ、つまり動きがあるわけだが、絵画のような美しさもある。これまでのアニメにはないような映像美はいかにして生まれたのか。アベル監督に聞いた。

 ◇山田尚子、吉田健一へのリスペクト

 「天幕のジャードゥーガル」は、秋田書店のマンガサイト「Souffle(スーフル)」で連載中のマンガが原作。モンゴル帝国の捕虜となった少女・シタラが、知恵を駆使して王族に取り入り、帝国を内側から崩壊させようと決意する……というストーリー。アニメは、総監督の山田さん、監督のアベルさんの二人体制で制作を先導したようだが、明確な役割分担があったわけではないという。

 「山田さんは脚本の段階から作業を始められていて、私はビジュアルの開発から本格的に参加しました。ビジュアルスタイル、キャラクターデザイン、アートディレクション、絵コンテのチェックといったことは二人体制で行いました。実制作に入ってからは、山田さんの関与する領域は変化していきましたが、その度合いは工程ごとに異なるので、一概に説明するのは少し難しいところもあります」

 山田さんと共にアニメを制作することで刺激を受けている。

 「ずっと前から彼女の作品が好きでしたし、彼女の絵コンテやアートディレクションに対する考え方を学ぼうとしていました。彼女は本当に素晴らしいですし、今回関われることは大きなチャンスでした。彼女がチームとコミュニケーションをとる方法も本当に素晴らしく、その点でも学ぶことがたくさんありました」

 吉田健一さんがアニメのキャラクターデザインを手掛け、作画チーフとして参加している。吉田さんはスタジオジブリ出身で、「地球外少年少女」「ガンダム Gのレコンギスタ」「交響詩篇エウレカセブン」「OVERMANキングゲイナー」などのキャラクターデザインでも知られている。アベルさんは、吉田さんの仕事も絶賛する。

 「吉田さんにこのプロジェクトに関わっていただけるのは大きなサプライズでした。本当にエキサイトしました。彼は私の想像以上でした。本当に優れたアニメーターがそろっていますが、彼はそれをさらに優れたものにしてくれます。繊細な表情を描き、複雑な感情を表現しています。彼がキャラクターを描くたびに、どういうわけか突然、特別に見えるんです。本当に素晴らしいんです」

 ◇リアルでありながら人工的な構図

 アニメやマンガで描かれることがあまりない13世紀のモンゴルが舞台となる。原作のビジュアルも独特だ。原作のビジュアルをアニメとして見事に表現している。

 「原作はクラシックな雰囲気があると思い、それを生かしたいと考えました。マンガを単純に模倣するわけではありませんが、美術やキャラクターデザイン、色彩、音楽などにどこかクラシックな雰囲気を持ち込もうとしました。例えば、私は、森康二さんが作画監督を担当した『わんぱく王子の大蛇退治』のような、東映動画(現・東映アニメーション)の黄金期の作品に影響を受けています。そこをより明確にしようとしていて、背景のスタイルにも影響があります。キャラクターの処理に関しては、デジタルっぽさを減らし、アナログのように見せようとしています。例えば、線を粗くしたり、色にテクスチャを加えたり、最終的なコンポジットで少しグレイン(粒子)を加えたりしています」

 アニメだから当然、動きがあるが、絵画を見ているような美しさもある。

 「絵コンテでも実験的でフラットな構図を取り入れようとしました。例えば小津安二郎やウェス・アンダーソンといった映画監督の影響も受けています。自然主義的な描写よりも、シンメトリーな構図や低いカメラポジション、浅い被写界深度などを用いて、少し人工的なスタイルを推し進めようとしました。逆に重要なシーンやドラマチックなシーンでは自然な構図や極端なパースを用いたりもしています」

 アベルさんは「多くのことが挑戦でした」と話すように、新しい表現を目指しつつ、細部までこだわり抜いた。

 「山田さんはとても一緒に仕事をしやすい方ですが、こういうふうに別の監督と一緒に仕事をするというのは挑戦でした。それと、先ほども話した構図も挑戦でした。私はこれまでのアニメでシンメトリーな構図や等角投影法は使わずに、できるだけリアルでシネマティックに見せようとしてきました。ただ、ペルシャ美術の影響などを絵コンテの段階に持ち込むのが面白いのではないかと考え、人工的な構図も取り入れたんです。ペルシャやモンゴルの文化に関しても間違いを犯したくありません。そういった文化を背景に持つ人々に誇りを持ってもらいたいからです。そのためには、あらゆるディテールに注意を払う必要があります。ペルシャやモンゴルの歴史は非常に豊かですが、チームの誰もその土地の出身ではありません。敬意を払うために多大な努力を注ぐ必要がありました」

 「天幕のジャードゥーガル」は、懐かしさと新しさが見事に融合し、これまでにないアニメとなった。物語、ビジュアル、そしてキャラクターたちの圧倒的な表現力を、ぜひその目で確かめてほしい。(阿仁間満/MANTANWEB)

提供元:MANTANWEB

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